第14話 グナーダにて case-14
パプリカは劣勢に追い込まれてそうなキンジャルを見つけるとすぐに、脇目も降らず叫んだ。
「敵が内部にいる!キールが殺される。誰か助けて。」
敵が迫っている中、大声で。
パプリカのもとに魔族が接近し、今に襲い掛かろうとする。
パプリカは、”狙撃”の魔法によって敵を暗殺するが、体術や剣術等の能力もかなり高く仕込まれている。
キンジャルのような近接戦闘型には及ばぬものの、魔族の一人くらいならば倒せるのである。
パプリカは、迫り来る敵に対して、どのような動きを取ろうか考える。
敵はこの後のパプリカの無惨な姿を想像しているに違いない。
パプリカが魔族の攻撃を回避しようとした刹那、飛びかかってきた魔族に大きな槍が突き刺さる。
「間に合ったな。」
赤い髪が靡き、パプリカの視界を赤に染めた。金色の馬体の上に悠然と構えるエリヤが居た。
キンジャルは奥の方でターリクと一対一で戦っている。彼にも手傷を負わせているが、劣勢感は否めない。
「料理番の少女よ、よく知らせてくれた。確かパプリカと言ったかな?間に合ってよかった。」
エリヤは魔族を一蹴して、パプリカに優しい声をかけた。
「エリヤ様、ありがとうございます。しかし、お一人ですか?」
パプリカは恐る恐る尋ねた。
「ああ、本気で移動してきたのでな。遅れて他のものも到着するだろう。」
エリヤはなんの嫌味もなく、そのようにパプリカに伝えた。
パプリカは彼女に心酔する民衆の気持ちがよくわかった。そして、これ以上に人気のある勇者サーディンとは何者であるのかと考える。
エリヤはパプリカが安心した姿を確認するとキンジャルとターリクの方を向いて叫ぶ。
「キールよくぞ持ち堪えたぞ。あとは私に任せろ。
そして、ターリクよ。多くの同胞の仇。ここで始末してくれる。」
エリヤは馬に合図して駆け出すとターリクの方に向かった。キンジャルはターリクの技を回避すると、後ろに下がり、片膝をつく。
ターリクはエリヤの方に向き直ると大きな方向をあげて、更に体を膨張させる。
先に動いたのはエリヤだった。彼女は馬上から槍を大きく振りかぶるとターリクに向けて薙ぎ払う。
ターリクも負けじとその剛腕を振るって見せ、その攻撃の交差するところには大きな衝撃が走り、二人共後退した。
エリヤは馬上から地上に降りる。
「やっと姿を見せたな。ターリク。」
彼女は高らかに笑う。
「エリヤ・イルヤース、好都合だ。この場で血祭りに上げて、その生首を勇者のもとに晒してくれるわ。」
ターリクは応える。
二人の戦いが始まった。
エリヤの攻撃を喰らうとターリクはその体表が焦げていく。
エリヤの方はターリクの大振りな一撃を常に紙一重で回避していた。
キンジャルはいつの間にか。パプリカの近くまで後退している。
「やっぱり、役者が違うわね。」
キンジャルは悔しそうにも見えた。
「仕方ない。私たちとは、生きる理由が違う。」
パプリカも面前の戦いに集中しながら応えた。
キンジャルは柄にもなく腕を庇っている。
「でも私達は役割を終えたわ。」
パプリカはそうキンジャルを慰めた。
同じ一体一でも防戦一方であったキンジャルと異なり、エリヤは幾分か優勢なまま戦っている。
「あれほどの奇跡を使った後で、どうしてこれほどまでの力が」
ターリクは苦悶の表情を浮かべる。
「なに、お前が本気を出すまでの相手ではないということさ。」
エリヤは涼しげに答えた。
ターリクの剛腕も彼女にいなされ、そしてその槍術によって、徐々に体中に傷が増えているようである。
そうしているうちに味方の増援も到着した。砦の上で敵を防いでいる兵士は動かせないので、皆エリヤの近習の兵士たちであった。
彼らはこの砦の最高戦力であり、騎馬も有している。
副官が前にでる。彼は奇跡こそ使えないものの、上手に指揮を執ることに長けていた。
「エリヤ様、西に動きがあるのは本当のようです。」
戦いの最中であるが、彼はエリヤにそのことを報告した。
「これは驚いたな。」
ターリクは感心している。
「まさか、俺たちの行動を読んでいるなんて。」
手傷を負った彼は嫌味ったらしく笑ったが、その姿が一層に悲惨に見える。
エリヤはターリクに伝えた。
「降参するならば命までは取るまい。」
「まさか。」
ターリクは敵の増加と味方の死を悟ったのか大きく後退した。
「しかたあるまい。」
エリヤは奇跡を撃つ準備を始めた。彼女の祈りが頂点に達した時、ターリクは笑った。
そしてターリクの腹部を光の矢のようなエリヤの技が貫通した時に彼は叫んだ。
「バカめ。己の力でお前達は滅びることになる。」
エリヤの技を受けた兵士の詰所が大きく火をあげる。
「さすがにこれは読んでいまい。」
ターリクはそう言うと、熱を受けた防壁の一部が爆散した。
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