第13話 グナーダにて case-13
ターリクによって、南側の防壁は内と外両方から襲撃されることになった。
「おい、このまま気づかれないうちにこの壁を開け放つぞ。」
ターリクは、部下たちに伝える。
ターリクたちが南側の兵士の一部を殺戮し、防壁の守りを解こうとした時であった。
「おい、手を貸せ。この鍵を使えばあっちの門が開く。」
ターリクが後方にそう伝えると、彼の足元には丸い物体が転がってくる。
「下がれ。」
ターリクはその物体を視認した後に、ターリクに力を貸そうと集結した部下に告げる。
「闇に紛れてって、ちょっと男らしくないんじゃない?」
キンジャルは、短剣を手にターリクに話しかけた。
「お前か。同胞を殺したのは。」
ターリクは地面に転がる同胞に目をやる。
キンジャルはなにも答えない。
ターリクは辺りを警戒すると、
「こいつ一人か?まあいい。」
彼の部下たちとターリクはキンジャルに狙いを定めた。
魔族側は、変身を解き、月夜にその姿をあらわにした。狼に似た獰猛な上半身と闘牛のような下半身に支えられた筋骨隆々の姿である。
胸から腕先まで剛毛に覆われた腕の先からは、相手を刈り取るために進化した大きな爪が伸びている。
「こんなに大勢で私一人を相手にする気?」
キンジャルは相手をおちょくる。
キンジャルは、女性としてのプロポーションに恵まれてはいたが、全体的に線が細く、魔族の中でも一際大きいターリクに比べると彼女の胴は彼の足くらいの大きさでしかなかった。
魔族はキンジャルの嘲になにも答えずに戦闘を開始した。
まず、二体の魔族がキンジャルの両側を攻める。
彼女は直接の攻撃を喰らっては堪らぬとステップを踏んで、後ろに一旦距離を取ると奇跡を使って加速し、
自身からみて左側の魔族に短剣を突き立てた。
すかさず、右側に居た魔族が剛腕を振るい、彼女を八つ裂きにしようとするが大ぶりを下方向に回避すると、短剣を引き抜いて、隙だらけになった右の脇腹を斬りつける。
それは致命傷にはならなかったものの左側から襲ってきた方の魔族を絶命している。その事実がターリクの怒りに火をつけることになった。
「仕方ない。全員でかかるぞ。」
彼を合図を皮切りに、手下として残った魔族三体が同時にキンジャルを襲った。
キンジャルは半ば、曲芸じみた動きでこれを回避している。
彼女は動きの鈍った手傷を負ったものから殺すことにした。
絶妙に攻撃を掻い潜り、先ほどの脇腹を切りつけた魔族を死に追いやる。彼女の短剣がそいつの喉元に突き刺さろうとした瞬間。
その魔族の頭ごと一際大きな腕で彼女を殴りつけるものがいた。ターリクである。
彼女は3体の魔族の攻撃とその首魁ターリクの攻撃を同時に受けて、なんとか回避することができたが、部下の命を一つ犠牲にした攻撃は流石のキンジャルにも予想ができず、まともに左腕でガードしてしまった。
ターリクは、兵士長であった者の奇跡を使い、ただでさえ凶器となる腕の一撃を更に強化した状態で力任せにキンジャルをはたきとばしたのである。
キンジャルがそのような一進一退の攻防をしている間、パプリカは西側の防壁に来ていた。
下は崖になっており、攻められるとは考えにくいのであるが、パプリカには西側が怪しいと考えている。
門を解放したところで、決めてにはまだ弱い。そこに押し寄せるモノが必要だからである。
結論として、この二人はこの砦をギリギリのところで守り抜き、勇者に接近するまでの手間を大幅に減らすことにした。
キンジャルは短剣を使ってターリクの攻撃をガードしたが、短剣ごと左腕をへし折られている。
それでも、魔族の数をどうにか減らしたらしく、残るはターリクと部下二名のみらしい。
「呆れるほどの馬鹿力ね。」
キンジャルは左腕を庇い、呟く。
同時刻にパプリカは西側の砦の防壁で呟く。
「呆れるほどの執念ね。」
パプリカは西側の様子をみるとすぐにキンジャルの元に向かった。
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「兵士キールとか言ったな。」
ターリクは戦闘中にキンジャルに話しかけるがそれを取り合わない。
「兎の姿をしている。どうせ人間たちからも疎まれているんじゃないか」
キンジャルは襲いくる二体の部下とターリクの動きを回避するのに精一杯だ。
「おれが兵士に化けてる時、お前の悪口を散々聞いたぜ。獣人の癖にエリヤに近づきすぎだとか。兎には野菜でも食わせておけとかな。」
ターリクはキンジャルの隙を作ることにしたようだ。
「それに俺にはわかる。お前は本当の兵士じゃないだろう?なんの目的なのかは知らんが、こんなにも頑張る必要はないんじゃないか?」
ターリクは煽り続けるが、キンジャルは残された右腕で部下の一人を更に絶命させる。
「あいにく、あんたの言葉は通じないことになってるんで」
キンジャルは取り合わない。
「仕方ない。力の温存のために逃してやろうと思ったが」
ターリクは何かを呟くと体を更に肥大化させた。
パプリカがキンジャルの様子を捉えたのはそのタイミングである。無論、キンジャルやターリクもパプリカの存在には気づく。
「おい。」
ターリクが残った部下に命令をするとそいつはパプリカのいる位置に駆け出した。
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その時間から、ちょっと前の出来事である。
パプリカは西側で魔族の不穏な様子を視認した後、近くの兵士にそのことを告げていた。
「そんなに走って、料理係?いや、救護担当のパプリカちゃんじゃないか。どうしたんだ?」
兵士の一人が尋ねる。
「私が皆さんのお手伝いをした後、西側の防壁の上から魔族を見ました」
パプリカは必要以上に息切れをして、切羽詰まった様子で兵士に告げた。
「しかし、あそこは崖になっている。いかに魔族たちとはいえ」
兵士は不安に感じるが、パプリカの様子をみてとにかく上役に相談することにした。
「とにかく、我々でも様子を見てくるから君は安全なところにいなさい。」
兵士たちはパプリカに告げた。
「わかりました。必ずエリヤ様にもお伝えください。」
パプリカは恭しく、丁寧にその場を離れるとキンジャルの元に向かった。
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