第11話 グナーダにて case-11
その晩の戦いは、熾烈を極めた。
元々このような籠城戦は想定していない。あくまでも、前線で戦う友軍のための砦であった。
兵士たちは果敢に戦い、兵士の数と一人一人の戦闘能力の差を感じさせない戦果をあげている。
パプリカは、怪我をした兵士の手当から、交代での食料配膳、雑用等、こき使われている。
砦は総力戦であった。
イザベラは常に前線で”奇跡”を使用して、兵士たちの消耗を和らげている。
エリヤは敵の主力を警戒してか、未だ能力を温存しているようだ。
キンジャルはその能力から、遊撃を許されていて、砦の外部で敵の魔法をつかうものを相手にしているらしい。
パプリカは、内部に紛れ込んだであろうターリクの動向に目を凝らしながら、雑用を続けている。
正直に言って、十中八九怪しいのは、兵士長だろうと踏んでいる。
先日の襲撃があった際にも目立った行動はなかったはずだが、自分がターリクであったなら、化けるならこいつにするとも思っている。
なぜなら、彼は東側の守りを任されているし、力を増強する奇跡を使えるはず。それに、最近のご飯事情もおかしい。これは料理番ならではの着眼点だ。
仮にその推測が正しければ、本来の兵士長は既に死んでいるだろう。
非戦闘員のパプリカから、エリヤにそれを伝えるのは慎んだ。そもそも、キンジャルを含めて今回の任務では目立ちすぎている。
自身の計画がターリクによって壊されない程度に注意をしておこうとパプリカは考えている。そして、その尻尾を掴んだ瞬間に殺そうとも。
そうこうしている間にも砦の人間は総力をあげて戦っている。
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エリヤは焦っていた。
兵士たちの消耗は大きい。最近はゲリラ攻撃を好んで使用してくる魔族だが、今回の襲撃は非常に組織だった動きを展開している。
もちろん、勇者サーディンと共に多くの戦場を駆け回ったエリヤは籠城戦も初めてのことではなかった。
しかし、予想以上に数を集めてきた魔族は、なかなかに手強かった。
戦場で多くの敵を葬ってきた彼女の奇跡も勇者がいなければ連発はできないわけがあった。
「しかし、持ち堪え切れるだろうか。」
彼女は先の演説の通り、自分たちの戦いが本当に大詰めを迎えていることを理解している。
魔族の侵略によって、半島の北側に追い詰められていたエリヤ達は、臥薪嘗胆の日々を過ごした後、勇者サーディンの台頭によって、奪われた土地の逆侵略を開始した。
いくつかの大きな戦いに勝利して、最終的には魔族の奪った土地の中でも地理的に重要な位置を占めるグナーダを取り返したのである。
残るは、コードバのみ、しかも魔族側の残された戦力は初期に比べて少ない。
それは、彼らの本拠地がある半島から更に南の大陸において、何かしらの動きがあったためと予想される。
将軍ターリクは常に自分たちの動きをかきくぐってきた。
残党を狩り尽くし、魔族の治める海峡に防御拠点を作りきるまでは油断できないと勇者とも話してある。
窮鼠猫を噛むというが、追い詰められた魔族達も果敢な攻撃をしかけてくる。
エリヤの奇跡は"熱”、相手を燃やし尽くすことも隠れた敵を探知することも、自身の体温をあげて基本的な身体能力を高めることもできる汎用的な能力であった。
奇跡とはその名の通り、人智を超えた力であるが、これほどまでに強力な奇跡は珍しかった。それは、個人の戦闘能力であれば、勇者をも超越した力である。
敵の攻撃が一層激しくなる。
遊撃に送ったキールや奇跡を活用して必死に砦を守る仲間たちも消耗が激しくなる頃合いだろう。
魔族の襲撃から既に5時間以上経っている。
「そろそろ出番かな。」
エリヤは大技を打つことにした。一部の兵士たちにはその世被害にあわないように注意喚起をしてある。
エリヤは全体の指揮を副官に委ねると、祈り始める。
「我が祈りを聞き、この窮地を救い、我が軍に力を」
彼女が右手に持つやりを掲げ、そう祈るとあたりの闇を切り裂くように光が灯る。
それを合図に兵士たちは下がる。
エリヤが持つ槍の先に光を溜めたかと思うと次の刹那には攻撃に移る。
「サンシャイン・レイ」
彼女が槍を振り下ろすと凝縮された光が魔族に降り注ぐ。その光は彼らを貫通し、そして骨の髄までを焼き尽くす。
砦に取り巻いていた魔族たちは、その攻撃に怯み、退却を試みるものもあるが視界に入る敵全てを焼き尽くすまでその攻撃は止まなかった。
「グッ」
エリヤは片膝を着く。
彼女はその攻撃を行なった後、急速に力を失った。近中の兵士たちが彼女を支える。
「すまない。大丈夫だ。」
流石の大技にエリヤもこたえたようだ。
一説によると奇跡や魔法といった異能は使う本人の活力や性格を非常に強く表しているとされる。
「あとは、防御に徹して、ひたすらに防壁を守れ。」
魔族達はエリヤの最高火力の技を受けて、大きな被害を出したようである。
その後も襲撃は続いたが決め手にかけるため兵士側もそれなりの被害を受けながらもなんとか守っている。
「さすがはエリヤ様だ。」
「エリヤ様がいる限り、負けることは絶対にない。」
兵士たちも彼女の力に安心感を覚えているようだ。
「すまない。しばしの間頼む。」
エリヤは疲労困憊の様子で部下達に持ち場を任せると後ろに下がった。
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