第10話 グナーダにて case-10

魔族といわゆる人類側の違いについておさらいしておこう。



魔族とは、未知なる種族である。基本的には人類側と意思疎通ができない。



しかしながら、彼らは彼らなりのコミュニティを持ち、未知なる力、"魔法"を駆使する。

その力は強力無比であり、人類側に奇跡とよばれる力が発現するまでは人類側はかなり苦戦することになった。



また、魔族はその身体上の特徴から人類側よりも基本的な戦闘能力が高い傾向にある。

パプリカやキンジャルをはじめとする獣人なんかは、魔族と見分けがつかない場合もあり、本人たちにとってもそのあたりの線引きは曖昧であった。



あくまでも人類側、さらにいえば人類側の権力者が認めているか認めていないかの方が、それらを区別するには有用であった。



よって、厳密にいえば魔族が使う”魔法”と人類が使う”奇跡”は殆ど同質であるといっていい。そこには邪悪なる力と聖なる力の違いがあると言われているが、パプリカにとっての”魔法”発動条件から省みると大きな差異はないと思われる。



そして、なぜこのような力が存在するのかも不明であり、聖堂会が主導する神に依るものとされるのが一般的である。



結局、それで何がいいたいかというと”魔法”と”奇跡”の力はどちらが優れているということではなく、使い手次第によるところが大きい。

加えてその発動の比率もやや魔族の方が多いと言われているが、似たようなものである。



この砦の戦いには、その力の趨勢がそのまま結果となって現れるであろうとパプリカは考えている。



もっと大規模な戦いになると、個の力は対して影響は少ないが、丁度、この砦を取り巻く戦いにおいては、その個人にどれだけの能力が備わっているかが重要であった。



砦側で攻撃に有用な奇跡を持つ人間はキンジャルやあエリヤを入れても10名ほどである。



おそらく個人の戦闘能力でも奇跡・魔法の力でも劣っているため、激戦になるだろう。


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砦側が本格的に戦闘準備に入った晩、パプリカの読み通りに魔族は攻勢にでてきた。



パプリカは、非戦闘員用の避難場所から適当な理由をつけて見晴らしのよい場所に移動していた。



将軍ターリクの姿は見えないが、遠距離での攻撃ができる”魔法”を駆使して魔族は襲ってきた。



「敵が攻撃してきました。」

見張りについていた兵士達は、すぐに砦の壁の上に大盾を構えて防御の姿勢を取るとともに内部に伝令する。



魔族の攻撃は、棘状の物体を複数飛ばしてくることだった。

大盾を構えた兵士たちは、怯むことなく防御につとめたが何人かはその餌食になってしまった。



そしてそれを皮切りに、大きな雄叫びをあげながら砦の東側と南側から大勢の魔族が襲ってくるのが見えた。



砦の防壁を登ろうとするモノ、臨時で拵えた以前破られた東側の防壁を再度破壊しようと試みるモノで溢れた。



砦側も懸命に抵抗する。



エリヤは雷のように伝令を飛ばす。

「弓兵、的を引きつけて射れ。その他は登ってきた魔族を一匹残らず突き落とせ。」


魔族の襲撃があって、数十分の間にお互いにそれなりの被害がでている。



魔族側は、矢で射抜かれて砦の下に落ちている者、砦側は防壁を登りきって攻撃してきた魔族にやられた者が多い。




幸いにして、致命傷とならなかった者はイザベラの奇跡によって生きながらえている。




また、負傷して戦えなくなった兵士たちも道具の整備や点検等を一生懸命に行っている。




エリヤのおかげか、兵士たちの士気は以前として高く、それなりに攻められつつも上手にそれをいなしながら守護に専念できていた。




「おい、お前達の故郷にかける想いはそんなものか。」

エリヤの檄が飛び、兵士たちはそれに応えようと懸命に働く。




砦の東側は、臨時で補強したために多少防壁が脆く、魔族たちもそれを認知しているために一番の激戦の場所となった。



以前として、棘を飛ばしてくる魔族も集中的に東側を攻撃している。


「また、ここに居たのね。」

キンジャルだ。



「お勤めご苦労様。」

パプリカは言った。



「ねえ、気づいてる?」



「うん。」

パプリカは頷く。



「ターリクの姿がない。そして、」

キンジャルは神妙な顔つきをする。



「きっとターリクは内部にいる。」

パプリカはそう彼女に答えた。



「あいつの作戦にはまって総崩れになっても困るね。」

キンジャルは少しはにかみながらそう言った。



「今のままいくとそうなるでしょうね。」



「元々の任務とターリクの抹殺。どちらもこなすのは難しい?」

とキンジャル。



「それは、ターリクの尻尾を掴まないことにはなんとも。」

パプリカは状況を整理する。



「キンジャルは、あの夜、どのように魔族を手引きしたの?」

パプリカは尋ねる。



「手引きっていってもね。シンプルだよ。まず森の中に入って、魔族を誘き寄せた。そして、私がいたいけな少女に見えたあいつらは、私を襲ってきた。

そして、二、三体返り討ちにした後、わざと少しだけ逃した。



私はそのまま、隠れることもなく、そのままあんたの居た部屋を襲撃してあいつらになすりつけてやったって寸法さ。

あいつらは鼻が効くから、私を追ってきて、この砦を見つけた。私は血の匂いでやつらから姿をくらましたってわけ。」



「ターリクは紛れるならその後ってことね。」



「そうね。そしてやつの”魔法”は」



「変身、またはその部類ってこと。」

とパプリカ。



「厄介なのは、変身した相手の奇跡を使えるってパターンになるわね。」

キンジャルは少し思いを巡らした後に答えた。



「そして十中八九そうでしょうね。」



「でもそれなら、どうして勇者やエリヤのような強者に変身しないんだろう。」



「愚問よ。彼らに変身したら、バレる可能性が高まるし、それに私と同じように発動には制約があるのかも。」

パプリカは続ける。



「でも内部にいるのであれば、私の”魔法”が使える。私はこの砦での生活で"奇跡”を使えるほとんどの人間とそれなりの時間を過ごしてる。」


 

「やっとあんたの出番ってわけ?」

キンジャルは少し揶揄う素振りを見せる。



「どうにか隙さえ作ってくれれば確実に仕留める。」

パプリカは毅然とした表情。



「いうじゃない。」



「それが私の”魔法”」



二人のやり取りの間も、戦いは続いていた。

東側には、砦側も魔族側も異能を使えるものが集結し、”魔法”と”奇跡”の打ち合いのようになっていた。



南側は手数、東側は魔法による攻略を考えているのだろう。



ちなみに砦の北と西側は、急な崖になっており、魔法をつかえるものが多少は攻撃できても、あまり戦力をさいては来ないだろう。ということになっている。



パプリカとキンジャルは、それぞれの交代の時間に向けてそれぞれの持ち場に戻っていった。



戦いは続いている。二人は有用な戦力として砦で働いているのである。

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