第7話 グナーダにて case-7

エリヤが駆けつけた晩から、1週間ほど、襲撃はなくなった。時期を窺っているといっても良いかもしれない。




パプリカの仕事は忙しくなった。聖女イザベラの到着を機に、どんどん患者が運び込まれるし、街からの応援はまったくやって来ないしで、パプリカは大変に仕事を任されたのである。




「パプリカちゃん。次はあちらの患者をお願いします。」

聖女イザベラには名前を覚えられるほどである。本来は、有力な人物のだれにも存在を知られたくなかったのにも関わらず、イザベラの性格上、こんな奇跡を使えない私を覚えてくれたみたいだ。




彼女は、透き通るような銀髪と女性らしい体付きをしている。

パプリカはもしも自分が男だったらこういう人には関わりあいになりたくないなと感じたほどである。




「イザベラ様、承知いたしました。」

パプリカは至って従順にイザベラの指示に従っている。その点もイザベラの心証が良くなった点であるかもしれない。




また外を見れば、別の関係性も築かれているようである。




「キール、技が軽いぞ。」

キール改め、キンジャルはエリヤに指導をもらっている。

キンジャルの方もいわゆる奥の手は隠しながらも対多数の戦闘におけるエリヤの能力を吸収しようと稽古をつけてもらっているようだ。




エリヤの得物は槍である。もちろん、二人とも訓練用の武器を使用してはいるが、先ほどなんてエリヤの重たい一撃を喰らってキンジャルは数Mも吹き飛ばされていた。




「やっぱり、正面からでは勝てないか。」

パプリカの呟きにキンジャルの耳が動いた気がしたが、そのまま訓練に戻っていった。




パプリカの方もイザベラの元で精力的に働いた。

そして、兵士たちも以前ほどのお気楽さはないが適度に気を抜きながら、戦いに備えていた。


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「そうか、お前たちは同郷なのか。」

エリヤは豪快に酒を飲みながら、キンジャルと私に告げた。もちろん、同郷の事実はない。

キンジャルが勝手にでっちあげた話だ。




エリヤは、この兵士キールをかなり気に入ったらしかった。

同じ女性であるし、腕も立つ。それに故郷に置いてきた友人に獣人がいたから偏見のようなものもないらしかった。私は適当に話を合わせておいた。




「そうなんです。聞くも涙。語るも涙の物語が私たちにはあるんですよ。」

キンジャルはお調子者だ。いい迷惑だと思ったが、これも任務のためと割り切っている。




「私も同郷のものがいるぞ。」

エリヤは自慢げにそういった。すると周囲のものも話に合流する。




「それは勇者様ですかい。」

兵士の一人がエリヤに問いかける。




「そうだが、なぜわかった?」

エリヤは不思議そうする。




「そりゃ、勇者様とエリヤ様のお話しは民衆の間でも有名ですから。」

兵士の一人が得意げにいう。




「有名なのか?」

エリヤはそちらにも問いかけた。




「ええ、もう吟遊詩人の間では二人は結ばれたことになってますぜ。」




「それは、どういう。」

エリヤは満更でもなさそうに頬を赤らめる。




「魔族によって先祖の土地を奪われた勇者サーディンと太陽の化身エリヤの愛と戦いの物語は、山を超えて国境を超えて、今頃は遠い砂漠と海を隔てた先にある東の果てまでも伝わっているはずですぜ!」

兵士たちは声を高らかにあげて、二人の活躍を讃える歌を歌い、盛り上がっている。




「ということだそうだ。」

エリヤはキンジャルに向き直る。




「なんかごめんなさい。」

キンジャルは兎の耳を前に倒している。




パプリカはこの状況を好ましく感じたが、アルビーにも味わって欲しかったと思った。




そこで銀髪の女性が入ってきた。イザベラである。



「皆様、怪我に苦しむ患者が眠っています。それに、本日も抜かりなく警備があるはずです。宴会はこのくらいにしていただけませんか?エリヤ様も」

イザベラは、静かにただ耳に染み入るような言葉で皆を諌めた。



「すまない。はしゃぎすぎたようだ。」

エリヤはイザベラに詫びる。



「エリヤ様、くれぐれも勇者様のご到着までこの砦の守護をお願いしますよ。」

イザベラのコメントは少しだけエリヤへの嫌な感情を含んでいたように感じる。



二人は勇者サーディンの一番近くでこの土地の奪還のために戦ってきたはずである。その為なのか、どうかはわからぬがパプリカにはこのことが少し引っかかった。

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