第2話 グナーダにて case-2
パプリカが街中にでると、そこにはバザールが広がっていた。
パプリカは辺りを見渡し、用件のものを探す。
「最近まで戦っていたのに」
パプリカは一人で、いくつかの店に入ると、必要なものを揃え始める。
「夕食用の麦、ミルク、ぶどうっと」
順調にお使いを果たしているパプリカであったが、バザールの端で怒号が聞こえた。
「このガキ、またやりやがったな。」
パプリカがその怒号の方に行ってみると、屈強そうな男がまだ10歳にも満たない少年を捕まえていた。
周囲には人が集まっている。
「おい、うちもやられているぞ。」
「うちもだ。」
少年はスリだろう。とパプリカは思った。
そして、今日は運悪く捕まったのだろうとも。
パプリカは、今のこの街の状況だと、少年は殺されるだろうと考えた。
この街に来ている商人たちは皆、大きな危険を冒している。
街が復興していく過程でチャンスを掴みたい者。故郷のために遠方から戻ってきた者。
まだ完全に回復しきっていない中で、皆殺伐としている中で商売をやっている。
司法機能もまだ整備しきれていない。スリの少年なんて、皆の憂さ晴らしに嬲り殺されるだけだろう。
「助けるの?」
隣をみるとそこには、キンジャルがいた。
「いや、助けない。」
表情を変えずにパプリカは応えた。
「聖地院で働いているのに?」
「それは関係ないさ。それに、捕まるあいつが悪い。」
「ふーん。やっぱりつまんないやつだね。」
「キンジャルは、もう有名になってる。」
キンジャルは鼻高そうに、
「まあね。」
パプリカは少し責めるように、
「兵士キールとして、魔族の残党を100は殺したって聞いた。」
「だって兵士が一番手っ取りばやいんだもん。バーっとやって、カーってなれば、それで終わり。
絶対こっちの方が向いてるんだけどな。」
「だったらそうすればいい。」
キンジャルは、物憂げに、
「そんなことできないってわかってるくせに。」
二人の会話を他所に、少年への尋問は進んでいた。
「おい、ガキ、仲間もいるだろう?」
少年を捕まえている男が尋ねる。
少年は苦しそうに応える。
「いない。」
ヤジが飛ぶ。
「嘘だ。いつも3人くらいで行動してやがるぞ。」
「もう一人長髪のやつもいる。」
男は続ける。
「お友達の居所を吐いたら、お前だけは見逃してやるよ。」
少年は、男を睨みつけると、
「おれに仲間はいない。このハゲ」
ヤジの中から笑い声が飛ぶ。
男は少年を壁に叩きつける。
「おい、盗人の分際で生意気だぞ。」
少年は強く叩きつけられた衝撃で血を吐いた。
ヤジが激しくなる。
「おい、とっとと殺してわかりやすいところに置いとけ。」
「はやくやって。」
パプリカはこのやりとりをみるのをやめる。
キンジャルはパプリカの動きを察して、
「なに?いくの?」
「うん。あまり良いものではないから。」
「あっそう。でもこれから面白くなりそうだよ。」
「どうして?」
「まあ、見てなって」
男は少年を殺すことをにして、腰の短剣に手をつけた時、
一人の女性が割ってはいり、少年を抱き寄せた。
男はとっさの動きに怯む。
「おい、なんだお前は」
風が吹き、彼女の日除け用のマントが捲れるとそこには真っ赤な髪を持つ兵士風の女性が登場した。
「私は、エリヤ。エリヤ・イルヤースだが何か?」
彼女の登場にあたりはざわめく、
「おい、本物か?」
「あの赤い髪、噂に聞く通りだぞ」
「エリヤってあのエリヤか?」
男は言葉を失っている。
エリヤは少年に声をかける。
「おい、お前意識はあるか?」
弱った少年は彼女に答える。
「はい。...あります。」
「そうか。スリはいけないことだぞ。」
「はい。」
少年は節目がちに
彼女は場を落ち着かせると、男に話しかける。
「スリの件だが、すまんが許してやってはくれないか?」
男は有名人の登場にためらいながらも、
「だが、実際に相当被害にあっていて...」
彼女はため息をつくと、
「少年、お前からここにいる皆さんに謝りなさい。」
「だけど」
「だけどもクソもない。いいからやれ。」
少年は半信半疑のまま、丁寧に謝った。
「わかりました。みなさん。申し訳ありませんでした。仲間の分も謝ります。」
大衆は謝られてもどうにもならないという雰囲気のままであった。
エリヤは真っ赤な髪を靡かせ大衆に向き直ると、
「皆、許すことは難しいことだと思う。この少年は私が責任をもって再教育するから、どうかこの場は納めてくれ」
しぶしぶといった雰囲気ではあったが徐々にヤジは静かになっていく。
「あんたがいうなら」
「もうやめてよね」
エリヤは皆が一応ながらも少年を許したことを感じ取ると、天に向けて剣を掲げた。
「我が神よ。敬虔なる我らにご加護を」
彼女が祈ると、あたりは暖かな空気に包まれる。
「なんか腰の調子がよくなったぞ」
「売り物の艶もよくなったみたい」
彼女は、少年にその場で書いた手紙を渡すと去っていった。
少年を掴んでいた男も去る。
「ガキ、運がよかったな。」
ヤジは散り、あたりは何もなかったように元に戻っていく。
「まるで太陽のよう。」
パプリカが呟く。
「そうね。太陽だ。戦場では何千何万もの敵を焼き殺した。」
キンジャルは彼女に畏怖した視線を送る。
「キンジャルでも勝てない?」
キンジャルは悪びれた感じで、
「勝てないも何も、勝負にならないよ。あの奇跡の前ではね。」
「そう。」
「このグナーダを取り返す時に、勇者サーディンと一緒にいたやつらは化け物ばかりだ。
今回の任務では、絶対に彼らと敵対しないようにしないと。」
キンジャルはそれだけ伝えると辺りから気配を消した。
パプリカは、呆然としている少年の近くに寄る。
「スリをするなら、もっと腕をあげないと」
「えっ?」
パプリカは、持ち物からミルクを地面に置くと、火照った体の感覚を味わいながら踵を返して雑踏の中に戻っていく。
「残りのものを揃えないと。」
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