第3話 グナーダにて case-3
勇者サーディンの凱旋の日取りが決まったのは、パプリカが街に入ってから約1ヶ月後のことである。
暗殺の任務達成のために、勇者たちに接近して、力を同質化する必要があった。
グナーダはこの半島でも大事な拠点であったが、南部の大陸から進行してきた勢力が未だに抵抗している地域もある。
パプリカは、東の地域から海路と陸路でグナーダの都市に入ったため、比較的争いは少なく到着したが、
勇者サーディンや赤髪のエリヤは日々兵士を率いて、残党を狩りを行なっている。
この地域は、いわゆる人間族やその他の民族にとっても重要な拠点であり、数十年も魔族に支配をされていた歴史は歴史の汚点であった。
「パプリカ、あんたは明日から兵士にくっ付いて、聖女イザベラ様の元で働きなさい」
マダムは、パプリカがいつものルーティンワークをこなして挨拶にくるとそう伝えた。
「マダム、でも私は奇跡が使えないから」
パプリカは、兵士に同行に対して消極的であった。パプリカには勇者の凱旋にむけて色々と準備を進める必要があったし、聖地院にいた方が色々と情報を集めやすかったからである。
「わがまま言わないの。今はこの街にとって大事な時期だし、イザベラ様からも色々と学べることは多いはずよ。」
マダムはパプリカの反抗をまるで取り合わずに、準備をするように催促した。
パプリカは少し膨れながらもやむおえまいとして、次の日の準備を行いはじめた。
パプリカがこの聖地院に迎えられたのは、人体についての知識が豊富であったことと宗教的な問題からであった。
聖女という称号は、聖地院の大元の組織である聖堂会がつけたものである。
この聖堂会は人類側にとって、有用とされるものに称号を与えることがある。
イザベラの奇跡は、傷や病気の進行を遅延させるというもの。
このグナーダ奪還のための戦いでは、傷ついた兵士や勇者サーディン、エリヤに奇跡をかけ続けた。
よって、この戦いでの死傷者は大幅に減ったとも言われている。
彼女の従軍がなければ、勇者やエリヤが敵を殲滅しきる前に味方は総崩れになっていたかもしれない。
マダムも戦いに従軍したため、イザベラの活躍と奇跡は聞いていたが、パプリカはそれ故に気分が憂鬱だった。
イザベラの奇跡が、”遅延”のため、救護にあたる人員は毎日馬車馬のように働かねばならなかったのである。
「皆、死んだ方が苦しまなくて済むのに」
パプリカは一人で呟くと、また街の方に駆け出していった。
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翌朝、彼女は従軍砦を目指して馬車に乗った。
戦いはグナーダ北西の土地で行われている。馬車で数日の距離だ。
その砦は魔族には見つかっていないらしかった。
魔族は、人類に似た見た目のやつもいれば、明らかに異形な姿をしたモノや人間に化けるものもいる。
戦地に赴くのはパプリカにとって慣れっこであったが、彼女の魔法は取り回しが悪いのであまり目立たずに守ってもらう必要がある。
その点、聖地院の人員は戦場に赴いてもかなり安全な場所で兵士たちのケアを行うことが仕事であった。
「パプリカは、おっかなくないの?」
田舎くさいおさげの女の子がパプリカに尋ねる。
「アルビーはそればっかりだよね」
パプリカは気怠げに答える。彼女はパプリカと共に派遣される人員であった。
「だって私の奇跡は、人を清潔にする奇跡、そんなんじゃいざっていう時に食べられちゃうよ。」
アルビーはこの世の終わりを迎えたような表情をしている。
「私はその奇跡はとってもよいと思うけどな。」
パプリカは答える。
「でも、弱っちいよ。」
半べそをかいたままである。
「でもその奇跡のおかげで、故郷の皆を食べさせられてるんだろう。感謝しないと。」
「確かに。でも怖いよ。」
アルビーは郷里を懐かしみつつも少し怯えていた。
「大丈夫だよ。勇者様が守ってくれる。」
パプリカは未だ見ぬ標的のことを思い浮かべる。
「そうね。勇者様は最強だもんね。」
アルビーは勇者の名前を聞くと勇気付けられた。
「そう、最強。」
パプリカは少し含みのある言い方をすると、周りの煩わしそうな視線に気づいた。
「少しおしゃべりしすぎたかも。到着まで寝てよう。」
アルビーは、パプリカの提案を肯定するとふたりで肩をよせあって眠った。
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