第21話
記念のメダルが授与される式典会場には、すでに多くの人々が押し寄せていた。
「ねぇねぇ聞いた?今までに王子様から直々に記念のメダルが授与された騎士は誰もいないんですって!クリフォード様が初めてになるらしいわよ!」
「やっぱりすごいのねぇクリフォード様…!はやく本物を見たいな…!」
「俺はメダルの方に興味があるな…!いったいどれほど美しいものなんだ?」
集まった人々は各々の言葉を口にして、式典の開始を待ち望んでいた。
するとその会場のVIP席ともいえる場所に、一人の人物が姿を現した。
「(さすがはクリフォード様…。ただ記念品を授与されるだけでこんなにも人が集まるだなんて、これはもうハイデル様よりも数段人気なのではないかしら?私がハイデル様の婚約者でなかったら、こんな特等席から彼の姿を見ることはできなかったかもしれないわね。そういう点ではハイデル様に感謝しないと…♪)」
そこに現れたのは、ハイデルの婚約者であるアリッサであった。
彼女の機嫌を取り戻すためだけに計画されたこの式典ではあるものの、今の段階ではその目的をきちんと達成しているように見て取れる。
「(そうだわ!式典前にクリフォード様の事をねぎらう言葉をかけに行かないと!彼はハイデル様がここに招待して、私はそんな彼の婚約者なのだから、当然こういうのも仕事のうちよね!)」
アリッサは頭の中にそう考えを浮かべた後、すぐにクリフォードの元を目指して場所を移動しようと席を立った。
しかしそれと同時に式典が始まることとなってしまい、やむなく彼女はクリフォードへの事前挨拶を断念することとしたのだった…。
――――
式典そのものは非常にスムーズに行われていった。
というのも、この式典の内容はハイデルが一枚のメダルをクリフォードに渡すのみなのだから、当然と言えば当然である。
「クリフォード。騎士としての君の素晴らしい働きぶりをここに認め、勲章としてのメダルをここに授与することとする」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!
金色に輝く美しいメダルがハイデルの手によりクリフォードの右胸に装着され、それと同時に会場から大きな拍手が沸き上がる。
そして同時に、会場中からクリフォードを称える声が無数に沸き起こったものの、当のクリフォードは非常に冷静な表情を浮かべたまま、感謝の意を示した。
「ありがとうございます」
クリフォードはまずハイデルに対してそう言葉を返したのち、そのまま視線だけアリッサの方に向けると、ハイデルから相談された通りにこう言葉を続けた。
「これからもハイデル様のため、そしてアリッサ様のため、騎士団を率いる長としてこの身を捧げ続け、全霊で使命を果たすことを誓います」
「(あらまぁ、クリフォード様ったら私の方を見ちゃってそんなことを…♪)」
「(うむうむ、それでいいのだクリフォード!)」
クリフォードははっきりとした口調でそう言葉を発し、確かなメッセージをアリッサに対して届けた。
クリフォードから視線を向けられたアリッサは分かりやすくその機嫌を良くし、ハイデルが完全に狙った通りの流れで式典は終わりを迎えるかのように思われた…。
「ハイデル様、事前にお伝えしていた通り、俺からみんなに言っておきたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「あぁ、構わないぞ。この場を好きに使うといい」
「ありがとうございます、それでは…」
クリフォードは壇上中央に立ったまま、自身の体の向きをハイデルから会場の人々の方向に向ける。
すると同時に、それまで会場のそばで控えさせていたメリアに手で合図を送り、自分の元まで来るようメッセージを送った。
「(…???)」
メリアは素直にその合図に従い、クリフォードの隣まで姿を現したものの、会場に集まった人々は当然、ハイデルやアリッサまでもいったい何を言うつもりなのかと大きな関心を向ける。
その場にいる全員といってもいい人々からの視線を一心に集めた後、クリフォードは非常に堂々とした口調でこう言葉を発して見せた。
「ハイデル様、そしてアリッサ様のために騎士として精進することをここに誓いましたが、俺にはもう一人、この身を賭して守らなければならない存在ができました。俺はここにいるメリアの事を、婚約者として迎え入れることを心に決めましたので」
「「はぁっ!?!?!?!」」
…何の前触れもなく、唐突に爆弾発言を繰り出したクリフォード。
その内容に驚いた人物はハイデルやアリッサを含めたこの場にいる全員であっただろうが、そこにはメリア本人も含まれていた。
「ク、クリフォード様!?い、いったいどういう…!?」
「いいから。黙って俺の言う事を聞いておけ」
「い、言え実は私はまだ…」
「いいから」
メリアはあることをクリフォードに説明したかった様子であったものの、クリフォードはそんな彼女の事を制してその口を封じた。
するとその時、会場にいた一人の男性がクリフォードに対してこう声を上げた。
「いくら騎士の長でもそれは認められないですよ、クリフォード様」
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