私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

第22話

クリフォードの発した言葉により、その場にいる全員が頭を混乱させる中、一人の男が冷静な口調でそう声を上げた。

当然会場に集まっている人々の視線はその男のもとに集められることとなり、その姿を見た人々はさらに一段と驚きの表情を浮かべ、大きな声でこう言葉を発した。

「フュ、フューゲル様！？」

「こ、この式典にいらしていたの！？でも一体どうして…？？」

そう、クリフォードの言葉に異を唱えた人物はフューゲルその人であった。

彼は非常に真剣な表情を見せながら、鋭い目つきをクリフォードの方に向ける。

クリフォードもまたそんな彼の事を鋭い目つきで見返し、二人を中心としたその空間は、どこか妙な緊張感に包まれる。

するとその時、クリフォードの発した言葉をようやく飲み込むことができたのか、ハイデルとアリッサの二人が同時に自身の声を上げてクリフォードに抗議を始める。

「ま、まてクリフォード！！一体どういうつもりだ！」

「そうよ！！メリアと婚約するですって？？クリフォード様が？？そんなの認められるわけないじゃない！あなたにはもっともっとあなたの隣に立つに相応しい女性がいますもの！！それがメリアだなんて絶対にありえないわ！」

「クリフォード、君は今この場で誓ってくれたばかりじゃないか！僕とアリッサにこれからも仕え続けると！その気持ちは嘘だったとでもいうのか！！」

「ハイデル様の言うとおりだわ！クリフォード様、あなたきっとメリアにたぶらかされているのでしょう？きちんと現実を見るべきだわ、彼女はあなたの事を良いように利用しているだけなのだから！」

激しい口調でそう抗議の声を上げる二人だったものの、当のクリフォードは非常に冷静な表情を崩さない。

「たぶらかされている？それは違いますよアリッサ様。メリアを婚約者にすることは、この俺が直々に決めたことであり、そこにメリアのわがままなど何も関係していないのだから」

「そ、そんなのうそよ…！そんなことあるはずが…！」

アリッサが浮かべるその表情はまさに、自分にだけ向けられていると思い込んでいた愛情が全く違う者の方に向けられていたことを知った時のそれであった。

「う、裏切るのかクリフォード…！！僕とアリッサの思いを裏切るというのか！！」

「そんなつもりは毛頭ありません。俺はこれからも全霊でお二人のために騎士としての使命を果たすつもりです。そしてそれを実行するには、隣にメリアに居てもらうことが必要なだけの事。そこに裏切りの気持ちなど何もありはしません」

「「っ！？！？」」

全く予想外なクリフォードの言葉を受け、二人は完全に動揺してしまっている様子。

しかし今度はそんな二人に代わり、フューゲルがその口を開いてクリフォードを牽制（けんせい）する。

「だから、それは認められないと言っている」

「(フューゲル君！！)」

「(フューゲル様！！)」

クリフォードに真っ向からそう言葉を発するフューゲルの姿に、やや押され気味だった二人は再び勢いを取り戻す。

「そうだフューゲル君！クリフォードに言ってやってくれ！こんな婚約は誰にも認められるものではない、馬鹿げているものだと！」

「そうよフューゲル様！メリアなんてなんの勝ちもないという事を知らしめて上げて！(やっぱり私の事気持ちを一番理解してくれているのはフューゲル様…！クリフォード様がメリアに毒されてしまった時には、必ずこうして彼の気持ちを私の方に向くよう手助けをしてくれるものと確信していたわ！)」

2人からの期待を一身に受けている様子のフューゲル。

しかしそんな彼が次に発した言葉の内容は、さらに一段と二人の頭を混乱させるものだった。

「それは認められないと言っている。なぜならメリアはこの僕の婚約者になってもらうんだから」

「「「っ！？！？！？！？！？」」」

クリフォードの言葉を封殺するどころか、クリフォードの言葉に追随するようなその言葉を受け、この場にいる全員が頭に強い衝撃を受けたかのような反応を見せる。

「フューゲル様もメリアを狙ってたの！？そ、それってクリフォード様に挑戦するため！？」

「でも好きでもない人にそんなこと言わないだろうし、好きなのは本当なんじゃないかな…」

「それならもっとやばいでしょ！クリフォード様もフューゲル様も二人とも本気でメリア様を奪い合ってるってことでしょ！？しかもメリア様はハイデル様の元婚約者なのよ！？これからどうなっちゃうのよ…！？」

集まった人々の反応は様々であったものの、どちらかというとこの状況を楽しんでいるような反応を見せているものが多かった。

一方で全くこの状況を楽しめていない人物たちのトップ2が、ハイデルとアリッサであった。

「(どうして私よりメリアの方が選ばれるというの…！こんなことがあっていはずがないじゃない…！私はこの国で最も魅力ある立場に君臨する女なのよ！？それがどうしてハイデル様に捨てられたあの女よりも下だというのよ…！)」

アリッサはすさまじい殺気を放ちながらハイデルの方を見つめ、この状況を一刻も早く片すよう目で圧力をかける。

ハイデルがそれに応じたのかどうかは分からないものの、彼は改めて二人の方に視線を移すと、非常に低い声でこう言葉をかけた。

「…フューゲル君、クリフォード、よく聞きたまえ…。これから大いに重要な事実を告げる…」