第20話

ハイデルは非常に言葉を選んでいるような様子を浮かべながら、クリフォードに対してこう言葉を発した。


「は、恥ずかしい話なのだが、実は最近アリッサが妙に機嫌を悪くしていてな…。僕は彼女を怒らせることなど何もしていないから全く心当たりはないんだが、どうにも召し使いや使用人、料理人に口うるさくあたっている様子なのだ…」

「はぁ」

「まったく、僕がわざわざ婚約者として選んでやったというのに、迷惑な話だとは思わないか?きっとなにか気に入らない事でもあったのだろうが、だからといって分かりやすく機嫌を悪くするなんてまるで子どもじゃないか…。それで彼女の評判が悪くなるだけなら自業自得だが、このままでは彼女を選んだ私の評判にまで火の粉が飛んできそうでな…。どうしたものかと考えあぐねていたんだよ」


ハイデルはその場で深いため息をつきながら、アリッサに対する愚痴をこぼしていく。

クリフォードはおとなしくその言葉を聞き、ハイデルの様子をうかがう。


「もちろん僕だってあの手この手を尽くしてはいるんだ。しかしそのどれもあまり効果を見せなくてな…。そんな時、あるアイディアが頭の中に思い浮かんだんだ。君の力を貸してもらえば、アリッサもその態度を改めるのではないか、と!」

「…俺にどうしろと?アリッサ様の機嫌を取れるような事など、俺にはなにもないことなどないかと思いますが…」

「そんなことはないぞ!アリッサは君の事をかなり気に入っている様子だから、君がこうして会いに来てくれただけでもかなりうれしく思っているはずだ!だからそれに加えて一つだけ、君にやってもらいたいことがあるんだ!」

「なんでしょう?」


クリフォードからの言葉に対し、ハイデルはその言葉を待っていましたとばかりにうれしそうな表情を浮かべると、こう言葉を返した。


「私が記念のメダルを授与した後、アリッサにこう言葉をかけてほしいんだ。「我々王宮騎士団は、ハイデル様から頂いたこの恩に報いるため、これまで以上にアリッサ様のためにこの身を捧げることを誓います」と!」

「……」


ハイデルの思惑をうすうすは察していたクリフォード、ならびにメリアは、やっぱりそうか、といった感情をその心の中に抱いた。

ハイデルのやりたいことは、言ってみれば出来レース。彼がメダルの授与を決め、クリフォードをこの場に呼び寄せたという手柄をアリッサにアピールし、自分の手柄を分かりやすく知らしめる。

そしてそれと同時に、ハイデルの思いに報いてアリッサのために尽くすという言葉を発することで、二重の意味で彼女を喜ばせるという算段だった。


「これも王宮の秩序を守るため。騎士ならばそれも仕事のうちだろう?やってくれるな?」

「はぁ…。まぁ構いませんよ。我々騎士は王宮のために尽くす、というのは何も嘘ではないのですから」

「よしよし!やってくれるか!ふぅ、これでひとまずは安心だ…。アリッサも損ねていた機嫌を元に戻してくれることだろう…!」


クリフォードから了承の返事をもらったハイデルは、それはそれは心から安心したような表情を浮かべていた。

するとその後、ハイデルは少し心が安心したからか、やや小さな声でこう言葉をもらした。


「いやぁ、ほんとにアリッサには困ったものだ…。まぁそれもこれもすべては、そこにいるメリアから始まった事ではあるわけだが…」

「おっと、うちのメリアに対して言いたいことがあるのなら、まずは俺に言っていただきましょうか?」

「わ、悪い悪い…。もう言わないとも…」


メリアに対してはあれほど強く当たっていたハイデルだったものの、クリフォードを前にしてしまっては、まるで親に叱られた子どものようにおとなしくなっていた。


「そうだ、ハイデル様。その代わりというわけではないのですが、式典会場では私に関するあることを発表させていただきたく思うのですが、よろしいですか?」

「あぁ、別に構わないとも。好きにするといい」

「そうですか、ありがとうございます」

「(大方、新しく騎士を目指したいものを募集するとかそういったことだろう…。それが王宮に不利益をもたらすものでもないし、別にそれくらいの事なら好きに言ってくれればいいさ)」


クリフォードからの申し出を、あまり深く考えることなくOKしたハイデル。

しかしクリフォードが式典の場で伝えようとしていることは、彼が想像しているものよりも100段は上を行くものであった…。


「(クリフォード様、出発前の時もそんなことを言っていたけれど、いったい何を言うつもりなんだろう…。たしかあの時は、ちょうどいいタイミングとか、良い機会だとか、そんなことを言っていた気がするけれど…)」


クリフォードが何を言おうとしているのかは、その後ろに控えるメリアも知らない事だった。

彼女もまたクリフォードの言葉をその心の中に予想していたものの、結局その心の中に正解となる言葉が浮かび上がることはなく、そしていよいよ3人はそのまま式典の時を迎えることとなるのだった…。

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