第19話

「メリア、今日はハイデル第二王子からお呼びがかかっている。ちょうどいい機会だから、君にも一緒に来てもらうぞ」

「わ、私もですか…?それは構いませんけど、私が一体何のお話を…?」


ある日の事、騎士長であるクリフォードのもとにハイデルからある手紙がもたらされた。

そこには「普段の騎士としての素晴らしい働きぶりを称えるため、王宮にて記念のメダルを授与したい。ぜひ受け取りに来てくれたまえ」と書かれており、クリフォードにしてみれば特にこの誘いを断る理由もなかった。

むしろそれどころか、クリフォードはこれを良い機会のようにとらえ、ハイデルに対してあることを伝えてやろうという考えをその心の中に抱いていた。


「メリア、別に君はなにも言わなくていいさ。すべてこの俺に任せておけ」

「わ、分かりました…」


若干どこか腑に落ちなさそうな表情を浮かべるメリア、そこにはある理由があった。


「(ハイデル様が騎士を称えるためにオリジナルのメダルを送ることなんて、今まで一度もなかった気がする…。本当はそんなイベントはただの建前で、クリフォード様を王宮に呼ぶ別の理由が何かあるように思えてならない…)」


ハイデルに対する不信感は今だ彼女の中から消えずに残っているものの、ここはひとまずクリフォードに任せることとし、言われた通りに王宮を目指して彼の後ろについていくこととしたのだった。


――――


「クリフォード様、またあの女を横に連れて…」

「やっぱりあの二人ってそういう関係なわけ?絶対信じたくないんだけど…」

「今度機会を見てクリフォード様に聞いてみないといけないわ。いったいどういうおつもりなんですかって…」


久々に王宮に戻ってきたメリアは、クリフォードの背中に隠れるようにしてその後を歩いていたものの、それで完全に自分の姿を隠せるはずもなかった。

王宮内の人々、特に女性たちはクリフォードの姿を見てその目を輝かせるものの、その後ろのメリアの姿を見るや否やその顔をしかめ、目に見えて機嫌を悪くしていた。


「あ、あの…クリフォード様、やっぱり私来ないほうがよかったんじゃないですか?このままじゃクリフォード様まで嫌な思いをさせてしまうかもしれませんし…」


メリアはかけられた言葉自体はあまり気にしていない様子だったものの、その言葉がクリフォードの元まで及ぶことを恐れたのか、心配そうな口調でそう言葉を発した。

そんな彼女の言葉に対してクリフォードは、やや低い口調で短くこう言葉を返した。


「心配するな。すぐに分からせる」

「わ、分からせ…?」


その時はクリフォードがいったい何を言っているのか理解できなかったメリアだったものの、その後まもなくして、彼女はその言葉の真意を理解することとなるのだった。


――――


「おお!!よく来たなクリフォード!」

「失礼します、ハイデル様」

「こうしてお前に再会できたこと、本当に喜ばしいかぎ…り…」


クリフォードの姿を見てテンションを高いものとするハイデルだったものの、彼のすぐ後ろにいる人物の姿を見るや否や、途端にそのテンションを低くしていった。


「おいメリア、お前は呼んでいないぞ?一体何のつもりだ?」

「俺が呼んだんです。お気になさらず」

「そ、そういうわけにはいかん!こいつは私を裏切った忌まわしき女なのだぞ!いくらクリフォードがかばおうとも、その事実は何も変わらない!」

「関係ないでしょうそんなもの。それともなんですか?本当は俺にここから出ていってほしいからそんな回りくどいことを言っているんですか?それならそうと最初から言ってください、素直にここからいなくなりますので」

「わ、分かった分かった…!人々から絶大な人気のあるお前をここから一方的に追い返すなどしたら、私の評判が地に落ちる…。仕方ない、メリアの事は今回だけ見逃してやるとする…」

「どうも」


クリフォードにそう言葉を発した後、ハイデルは机の中にしまっていた非常に高価そうな金のメダルを自身の手の上に取り出すと、そのままクリフォードの方に向けて提示した。


「これが君に渡すメダルだ。これから会場に移り、授与式を行う。すでに国中から多くの者たちが、その模様を一目でも目撃しようと会場に押し寄せている。かなり注目されているぞ?」

「そうですか。ありがとうございます」

「ま、まぁそのついでというわけではないんだが…」


ハイデルは取り出したメダルをそっと元あった場所に戻すと、やや小さな声でクリフォードに対しこう言葉を漏らした。


「少し頼まれてほしいことがあってな…。他でもない、僕の婚約者であるアリッサの事についてなんだが…」

「アリッサ様がなにか?」

「あ、あぁ…。クリフォード、君にしか頼めない事なんだ…」


どこか不思議そうな表情を浮かべるクリフォードに対し、ハイデルはやや言葉を選んでいるような様子で言葉を続けるのだった。

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