第17話
「それでは、そう言う事でお願いしますね、アリッサ様」
「これは私たちだけの秘密よ?当然ハイデル様にも知られてはいけないんだからね?」
「もちろんですよ」
フューゲルとアリッサは秘密の話を終え、互いにどこか上機嫌な様子を浮かべていた。
それぞれの思いを推察するなら、アリッサがフューゲルの事を一人の男性として気に入っている点はもはや明白であり、彼女自身もその思いを隠そうとはしていない様子。
それに対してフューゲルの方は、口でこそアリッサに甘い言葉をかけているものの、実際の所は自身が抱くある目的のために彼女を利用したい、くらいにしかアリッサの事は思っていない様子だった。
「それでは、僕はこれで。ハイデル様にもご挨拶を行いたいのですが、あの後すぐに会議に向かわれたとのことですので、その旨アリッサ様の方からお伝えいただけますと助かります。どうぞよろしくお伝えくださいませ」
「分かったわ。きちんと伝えておくわね」
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
フューゲルは上品な振る舞いでそう挨拶を行うと、そのままアリッサの前から姿を消していった。
第二王子やその妃を前にしても全く緊張する様子もないその様子は、とても17歳のそれに見えるものではないため、アリッサは彼への思いをますます増長させていく。
「(フューゲル様に、クリフォード様に、ハイデル様に…。妃になったらみんなが私の事を愛してくれるのだから、本当に本当に最高だわぁ♪)」
皆から向けられる言葉や思いを受け、自身の心を多いに沸き上がらせていくアリッサ。
彼女が婚約のモチベーションとしたところはもしかしたらその点にあるのかもしれないが、それを理解していないのはもしかしたらハイデルただ一人だけなのかもしれない…。
――――
「フューゲル君、フューゲル君はどこに行った??」
それからしばらくして、会議を終えたハイデル第二王子が自室にへと戻ってきた。
しかしそこにフューゲルの姿は当然なく、求めていたフューゲルの代わりにアリッサが彼の前に姿を現した。
「フューゲル様はこの後生徒会の催し物があるからと、お帰りになられましたよ。ハイデル様にご挨拶をお伝えくださいとも」
「な、なんだそうなのか…。もっといろいろ話をしたかったのに、残念だな…」
「その分私はたくさんお話をさせていただきましたよ。ハイデル様は次の機会を待たれては?」
フューゲルが引き上げていったという事実を告げられ、ややその表情をしゅんとさせるハイデル。
しかし彼はその直後、その感情をイライラとしたものに変化させながら、アリッサに対してこう言葉を発した。
「いや、そもそも君が僕とフューゲル君の話を中断させたから話す時間が短くなってしまったんじゃないか!どうしてあんな勝手なことを…!」
「あら、先ほどもお伝えしたではありませんか。今日フューゲル様をここに呼んだのはこの私なのですから、私が彼と話をして何の問題があるというのですか?」
「問題だろう!そもそも君は僕と婚約した身じゃないか!なのに自身の部屋に若い男を連れ込むなど、どうかしているとは思わないのか!」
「あらあら、もしかして妬いておられるのですか?♪」
「そ、そういうわけでは…!」
アリッサはハイデルの事をからかうかのようにけらけらと笑って見せると、挑発的な口調でこう言葉を返した。
「私がフューゲル様にいいように手籠めにされているとでも?言い寄られているとでも?ハイデル様ったらそんな心配をされているのですか?」
「まさか…。いくら彼が女性たらしとして有名であろうとも、第二王子夫人に手を出すほどの勇気はあるまい」
「(女性たらし…?あのフューゲル様が…?)」
ハイデルの発した言葉が腑に落ちなかったアリッサは、その点を彼に質問で返す。
「フューゲル様のどこが女性たらしだと?」
「有名な話じゃないか。彼は能力も容姿も優れたものを持っているから、当然女性からのアプローチはすさまじい。ゆえに彼は女遊びを繰り返していて、それゆえにあまりよくない話もいろいろとあると聞く」
「そんなまさか…」
受け入れがたいという表情を浮かべるアリッサだったものの、この点に関してはハイデルの言う方が正しかった。
事実彼に振り回されてしまった女性は多くいると言われており、また彼から捨てられたことを知った後でも彼の事を忘れられない女性が多いというのだから、その話はなかなかに
「まぁだが、彼が非凡なる能力と絶大な人気を有しているのは確かだ。僕はそんな彼の男しての魅力にほれ込み、我が王宮に来てくれるよう声をかけた。王宮に身を置く男になったなら、複数の女性を侍らせるなど別に普通の事だからな」
「(そんなの嘘に決まってるわ。だってフューゲル様は私だけを見てくれているんですもの。今まではいろんな女性に手を出してきたのかもしれないけれど、私一筋になってくれるという確かな思いを私は感じたもの。二人だけの秘密だってできたのだしね♪)」
…互いにすれ違う思いをその心の中に抱える二人。
それがいずれ盛大に爆発することになろうとは、この時の二人はまだ知る由もないのであった。
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