第12話

「おはようございます、メリアさん!」

「おはようございます」

「今日もお綺麗ですね!可愛らしいです」

「あ、ありがとうございます…」


メリアが騎士の城に来てからというもの、城の中は非常に活気に満ちていた。


「やっぱりメリアさんがいると華があっていいねぇ。不格好だったこの城が一気に輝いて見えるよ」

「おいおい、不格好は言い過ぎだろう。まぁメリアさんには華があるっていうのには完全に同意だが…」

「だろう?」


無論、騎士たちの話題の中心には常にメリアがいた。

これまでの歴史上、この騎士の城の中に女性が住むこととなった事は一度もないために、彼らがその心を沸き上がらせるのも無理はないことではあるが…。


そんな中、メリアは騎士たちの身の回りの手伝いを行うことを申し出て、早速初日からそれらの仕事に取り掛かっていた。

クリフォードからは別に何もしなくてもいいとは言われていたものの、ここで生活を行う以上、彼らのために少しでも役に立ちたいとメリアは思わずにはいられなかった様子。


「えっと…。次はこの宝剣についた汚れをとって綺麗にして、あっちに移動させる、と…」


しかし、メリアはそれまで貴族令嬢として生活をしており、誰かのために作業を行ったことなどない身。

それはハイデルのもとに行ってからも同じであり、彼女自身体を動かすことのノウハウなどは当然持ち合わせていなかった。

それゆえに、当然ミスもしてしまう。


「(こ、この宝剣…!思ってた数十倍は重い…かも…!)」


預けられた宝剣を抱え、なんとか持ち上げることには成功するメリア。

…しかしそこから少し離れた場所まで移動させなければならないわけで、今の彼女の力を考えれば到底実現でいるとは思えないが…。


「(なんでもやるって言っちゃったんだから、責任は果たさないと…!ここで逃げたら意味ないもんね…!)」


貴族令嬢ながらいい根性をしているメリア。

周囲の人々がハイデルの婚約者としての彼女に期待をしたのは、こういったところであったのだろうとも思わせられる。

…しかし現実、根性だけで乗り切れるほど単純ではないわけで…。


ガッシャーーーーン!!!!


――――


「おい大丈夫かメリア!!!」

「メリアさーーん!!!」


その音を聞きつけた付近の騎士たちが一斉にメリアのもとに現れ、非常に心配そうな表情を浮かべながらメリアに言葉をかける。


「メリア、大丈夫か??」

「ご、ごめんなさい…。大切な宝剣を落としてしまって…」

「そんなのは後だ。それよりもけがはないのか?」

「だ、大丈……う……」


クリフォードはメリアの様子を見て、彼女が傷を負っていることを瞬時に理解すると、そのまま婚約式典の時と同じようにひょいっと彼女の体を抱きかかえ、こう言葉を告げた。


「やれやれ…。気合と根性とかわいいことだけは認めてやるが、それ以外は全然だな…」

「う……」

「とにかく傷の手当だ。行こう」


クリフォードは手当のできる部屋を目指して歩き始めようとしたものの、そんな彼に対して一人の騎士が苦言を発する。


「あ!!今回落下してしまったのは僕の宝剣です!!これは僕の責任ですので、メリアさんはこの僕が責任をもって手当てを…」

「はぁ?」

「う……」

「お前ははさっさと戻って宝剣の掃除でもしてろ。大方お前が宝剣を放置しすぎたせいでほこりが舞って、メリアは足を滑らせたんだろうさ」

「ク、クリフォード様、これは完全に私のミスで…」

「いいから。行くぞ」


クリフォードはそう言葉を発した後、今度こそ治療室を目指して歩き始めた。

…その場に一人残されることとなった騎士はシュンとした表情を浮かべ、メリアを手当てする絶好の機会を逃してしまったことに打ちひしがれる…。


「(あぁもうこの上ないくらいのチャンスだったのに!!!どうして僕の人生はこんな事ばかりなんだぁぁぁぁ!!!!)」


――――


「治療室、無人なんですね…」

「騎士は敵と戦うのが仕事。その場にいちいち手当てをしてくれるものなどいないだろう。ゆえに自分たちの傷は自分たちで直さなければならない」


クリフォードはそう言葉を発しながら、置かれていた椅子の上にそっとメリアの事を座らせる。

そしてそのまま慣れた手つきで治療用の道具を手に取ると、傷を負っているメリアの足に触れ、そのまま処置を開始した。


「ほ、本当にありがとうございます…。これくらいの事、本来なら私が自分でやらないといけないのに…」

「構わないさ。それよりも治すことに専念してくれ。せっかくの白くて綺麗な足が台無しだ」

「う……」


普段は物静かであまり感情を顔に出すタイプではないメリア。

しかしそんな彼女であっても、この時ばかりはその表情をほんのりと赤く染めるのであった。

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