第11話
「あれ?もしかしてこの子がクリフォード様の??」
「おー!!俺初めて見たかも!」
「クリフォード様が自分からアタックするなんて、今でも信じられない…。この子にはそれくらいの魅力があるってことか…!」
メリアは最初からその場にいたというのに、彼らは今になってようやくその存在に気づいた様子。
興味津々な様子で目を輝かせながら自分の姿を見られることに対し、メリアは最初はやや恥ずかしさを感じている様子だったものの、次第に別の感情がその心の中に沸き上がってきた様子…。
「(私、もしかして小動物か何かだと思われてる……?)」
彼女が心の中に思った通り、騎士たちが彼女に向ける視線はまさに、可愛らしいイヌやネコを前にしたときの人間の反応そのものであった。
「かわいいなぁ、かわいいじゃん!」
「当たり前だろ。取りやめになったとはいえ、あのハイデル様が自分の婚約者として認めた相手なんだぞ?」
「た、確かに…!僕、メリア様のことをあなどってしまっていたかも…」
「お前ら、そろそろいい加減にしろ。メリアの事をじろじろ見ていいのは俺だけだ」
「「いでっ!」」
各々がそれぞれの反応を見せた後、クリフォードはメリアのもとに群がる騎士たちの頭に軽くげんこつし、その動きを封殺する。
するとその後、今度はメリアの方がクリフォードに対して言葉を発した。
「えっと…。改めまして、メリアです。つい先日前までハイデル第二王子と婚約関係にあったのですが、結局婚約破棄されて今うこととなりました。ここにはクリフォード様のご厚意でお邪魔させていただくこととなりまして、皆様にはご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします」
メリアはそう言葉を発すると、貴族令嬢らしい上品な動きでその頭を少し下げ、彼らに対して挨拶を行った。
そんなメリアに対して、騎士たちは再び明るい表情を浮かべると、それぞれの言葉をメリアに返す。
「こちらこそ!よろしくね!」
「あ!僕たちのことは全然気にしなくてもいいから!」
「あと、クリフォード様よりも俺たちの事の方が気になったんならいつでもウェルカムでぐはぁっ!!!!!」
最後の騎士が言葉を発し終える前に、クリフォードは先ほどの数十倍の威力はあろうかという力でげんこつを繰り出し、騎士の意識を一発KOさせた。
こうして、騎士の城におけるメリアと騎士たちの奇妙な生活が幕を開けたのだった。
――――
その一方、めでたい婚約式典の途中でアリッサに抜け出されてしまったハイデルは、その心の中に沸々と怒りの感情を沸き上がらせていた。
「アリッサ!!アリッサ!!どこにいる!!」
「ここですよ。頭に響くので、あまり大きな声を出さないでください……」
「大きな声って…誰のせいでこうなってると思って…」
「誰のせいって、まさか私のせいだとでも言うのですか??」
「そ、そういうわけじゃ…」
式典を終え、自分たちの部屋まで戻ってきた二人。
ハイデルはアリッサに対し、思いのたけのすべてをぶつけてやろうという覚悟をもって彼女の前に姿を現したものの、いざアリッサ本人を目の前にしてしまうと、どうしても今一歩踏ん切りがつかないでいる様子…。
「そう言いたげな表情をされてるじゃないですか!」
「そ、そんなこと言ってないじゃないか…。あんまり決めつけられても…」
「いいですかハイデル様、今回の事はすべてメリアが悪いに決まっているでしょう??彼女が勝手な行動をしたことから全部始まったんじゃないですか」
「だ、だから君に言われた通り、メリアは婚約破棄で追い出したじゃないか」
「その後です!!私が許せないのは!!」
「あ、後…?」
アリッサが自分と婚約を果たしたのちは、自分の事を深く愛してくれるだろうと確信していたハイデル。
しかし今目の前にいるアリッサは明らかに自分の理想の姿をしておらず、ハイデルはその心の中を非常に複雑なものとしていた。
「その後です!決まっているでしょう!私はメリアにとことんまでみじめな思いをさせて、その果てに王宮追放を命じるというストーリーを期待していたのに、現実はむしろその真逆の事が起こっているじゃない!どうしてクリフォード様がメリアを気にかけるわけ!?どうしてクリフォードに抱きかかえられているわけ!?どうしてそれが私じゃないわけ!?」
「……」
「私は妃になるのでしょう!?騎士に守られる存在になるのでしょう!?なのになんで婚約破棄されたあいつの方がクリフォード様に気に入られていて、私は放っておかれるわけ!?これじゃ妃になった意味がまるでないじゃない!!」
「……」
これまでアリッサのこのような姿を見たことがなかったハイデルは、その表情を凍り付かせる…。
それもそのはず、今までの二人の絆というものは、メリアを共通の敵に仕立て上げることで成り立っていた仮り初めのものであり、そこに真実の愛などかけらも存在していなかったのだから…。
今アリッサの心の中にある感情はすさまじいばかりの嫉妬、ただそれだけであり、それはハイデルの婚約者という立場のみでは埋め合わせがきかないほどのものの様子。
それはつまり、彼女の心の中ではハイデルよりもクリフォードの方が、自分好みの魅力的な男性であるという事を認めていることにも等しかった…。
当然それはハイデルとて察しており、彼の心の中はこれまで以上に複雑な感情でかき混ぜられてしまうのだった…。
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