第36話:グッジョブ、ロイ
「さて……お待たせしました、ヒロム殿。討伐した魔物を出して下さい……」
きゅるる、とお腹が鳴る音を響かせながらリーサが話しかけてくる。
「は、はーい……」
「おや……? どうしました? ヒロム殿。少し見ない間にずいぶんやつれてしまっているではありませんか……。この数分の間に何があったのですか……?」
「今後の身の振り方を考えてた……」
「まぁ……。大人みたいな事をおっしゃるのですね……。別に大人の言う事を聞いてよい子にしていればそれで良いのではありませんか……? 少なくとも、庇護対象である今の内は……」
「そうだな……。リーサ殿の言う事は正しいよ。でも素直に“うん”と言えない時もあるんだ」
「……?」
首を傾げるリーサの向こうでは民衆が俺の像に向かって祈りを捧げ始めた。
ただの会社員姿の俺のフィギュアに祈りを……。なんてシュールな光景だ。ご利益なさすぎてかわいそう。
一刻も早くやめてもらいたいが、だからといって何て言えば誤解なく伝わるのか皆目見当がつかない。
「あの、ヒロム殿……? 魔物を出して下さいな……」
「あ、ああ! はいはい。……えーと、こちらなのですが」
モノを出す時はつい会社員風の話し方になってしまう。
ドン! と回収した魔物を一度に放出するとちょっとした山になった。
ざわっと周囲が騒めく。
「な、なんだアレ!? 誰があんなにたくさん」
「あの子どもか!? ――あ! あの子! 先日冒険者ギルドで見たぞ! 極上魔石を持ってた!」
「何ィ!? なんでそんなモノを子どもが」
「帰還者トーマスにもらったと言ってたが」
「冗談だろ!? じゃあこの新城壁はそれとはまた別の魔石を使ったってことか!?」
「あり得ない……! でもそうでもないとあの量を仕留めてきた説明がつかない」
驚く人々の前でリーサも頬を引きつらせる。
「え、ええ……? これ、全部ヒロム殿が仕留めたんですか……?」
「ううん。仕留めたのはあいつら。ロイと、マグと、ショウ」
振り返って指さすと三人とも背筋を伸ばして整列した。
「あの子達が……? ああ、ヒロム殿がお手伝いを?」
「ちょっとだけね」
ロイ達が「違えよ……! アレがちょっとなワケあるか!」とぶんぶんと首を横に振る。
なんだろう、ちょっと何言ってるか分かんない。
「なるほどぉ……。さすが、伯母様が見込んだだけありますねぇ……。まさか大人達を大きく引き離して子ども達が一位になるとは……」
「あ、リーサ。この中から十匹分差し引いてロイ達を泊めてくれたオッサンに加算してくれ。約束したんだ。ロイ達を借りる代わりにこっちの討伐分を一部渡すって」
「おや……。交渉したのですか。分かりました。こちらの御仁ですね……っと」
さらさらと手元の紙に何やら書き込み、書き終わったと思ったらその紙を庁舎の壁に貼り付け始める。
民衆が固唾を飲んで見守る中、リーサは大きく息を吸い込み今までで一番の大声を張り上げた。
「皆の衆! 見るが良い! こちらが本日の成績表となるぞ! 一位! ロイマグショウそしてヒロム! 二位! マリン・ルーティア・セブ公爵令嬢! 三位! ジョニーとロージィ――」
びっくりしたー!
リーサおまえ、そんなデカい声出せたんか。
ふと視線を感じて顔を向けると、例のオッサンとあの自称天才少女が俺のフィギュアの前で目を見開きながらこっちを見ていた。
天才少女の方は唇をプルプル震わせている。なんか呟いてるみたいだ。
「嘘……。あんな庶民の子ども達にあたしが負けた――ですって? ありえない……そんなのありえない……」
全部聞こえてしまうのも考え物だな……。
どうやら彼女のプライドを傷付けてしまったらしい。が、人探しの片手間に魔物を狩ってたんだからそんなもんだろうとも思う。
呆然自失の彼女をよそにリーサ補佐官は「では皆の者、ご苦労であった! 今日のところはこれにて解散とする! これより我がミラリア家にて寄付金による土地の配分も勘案し、追って通達を出すゆえ楽しみに待たれるが良い!」と宣言した。
そっか。土地をもらうのは魔物を討伐した人だけじゃないのか。金を出した奴も入ってくるんだな。
まーそりゃそうか。荒くれものばかり集めてもしょーがないもんな。
「いやー、トーマスが不在だったからいいとこまでイケるかと思ったけどなぁ。とんだ番狂わせだったな」
「極上魔石持ちと天才令嬢だもんなぁ。そりゃあかなわんよ」
民衆がぞろぞろと解散していく中、一歩も動かずにうつむくマリンにリーサが気付き声をかける。
「マリン様……? どうなさいました……? 我々も戻ってひとまず食事にしましょう……?」
「いや!」
「えぇ……?」
困惑気味のリーサ。面倒ごとの予感に俺はなるべく気配を消してソロソロと歩き、現場からの脱出を図る。
「あたし、負けたことないの! 例え相手が極上魔石持ちだろうと、二番なんて納得できない!」
「そ、そうおっしゃられてもですね……」
「ねえ、そこの一番の子達! あたしと勝負してくれない!?」
「ヒェッ」
思わず声が出た。脱出は間に合わなかったようだ。
冗談じゃないよ。何だかすごいとこのお嬢様っぽいのに勝負なんかできるか!
聞こえなかった事にして立ち去ろうとした。が、ロイ達がデレデレした顔で「ぼ、僕達と勝負ですか?」と嬉しそうに反応してしまう。
「何やってんだよ……! 無視しろって!」
「そういう訳にいかないだろ! こんなに可愛いのに!」
「可愛い!? そんな理由で――」
するとマリンはふっと表情を和らげた。
聞こえていたようだ。
「あら。そこの民草。いま可愛いって言った? 言ったわよね。もぅやだ、可愛いだなんて……見る目あるじゃない」
ちょっと機嫌を直した。
この天才少女……もしかして、大変扱いやすい!?
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