第35話:指名手配されてる気分
「なぁマリン。遠くから来たって言ったよな。なんで“夢で見た場所”がここだって分かったんだ?」
「そんなの簡単よ。転移先の候補に選んだのがここミラリアで、実際に扉が開いた時に見えた風景の中にミラリア辺境伯家の旗が見えた。それだけ」
「あーそっか」
領主の城には家紋の旗が掲げられている。
それが見えたのか。
にしても転移先の候補がここだった――って、それ、ほとんど成功してない? 意識だけとはいえちゃんと転移できてたっぽいもんな。
なんで別の世界線のエレベーター(俺が乗ってる)に繋がったのかは謎だが……バグみたいなもんかな。
仮にここと元の世界を平行世界とすると、そもそも“近い”のかも。なんせ人間の形や自然環境なんかはほぼ同じだもんな。違いなんて魔法の存在くらいだ(これがデカいのだが)。
マリンは続ける。
「しかも来てみればミラリア領は新しく城壁が造られて掃討作戦の真っ最中って言うじゃない。本来なら首領級の魔物は少しずつ魔界に進出して拠点を作り、その上で戦闘員を大勢派遣して討伐するもの。なのに誰も討伐の流れを知らない。ならばこれはミラリアに降り立ったアストラ様の仕業に違いない――そう思ったの」
大体合ってる……。
俺はあいにくアストラ様じゃないが、俺が来たせいで新城壁が出来たってのは実際その通りだ。
「ねぇオチビちゃん。これがあたしの見たアストラ様なの。この町で暮らしてるなら、見た覚えはない?」
そう言って手元にシュンとフィギュア――フィギュア!? を取り出した。
おそらく石を削り出して作られたフィギュアだ。色もちゃんと塗られている。俺そっくり。
「なにそれ!? 作ったの!?」
「そうよ。人探しをするなら他人にも伝えられるようにしないといけないでしょ。……なんで赤くなってるの?」
だって恥ずかしいじゃん! 自分そっくりのフィギュアとか初めて見たもん!
「気のせいだよ。……なんでわざわざ人形にしたの? 絵でよくない?」
「あたし絵下手なのよね」
こんなにそっくりなフィギュア作れるのに絵が下手!?
なんていうか……マリーアントワネットみたいな奴だな。絵が下手なら彫刻にすればいいじゃないってか。
「ねえ、見たことないの?」
「……知らないな。見たことない」
「あらそう。残念。まぁいいわ。他の人にも聞くから」
そう言ってマリンは俺から離れた。
良かった……。
ずっとついて来られたら困るとこだった。
♢
それから俺は地上と地中から計150匹の魔物を捕獲してロイ達のところに送り込み、それら全てを倒し切った。
これだけあれば土地くらい貰えるだろう。
「つ、つかれた……っ!!」
「ヒロムお前、無茶しすぎ!!」
山のように積み上がった魔物の死体の横で、ロイ達がゼェゼェ言いながら抗議してくる。
「仕方ないだろ。3人分の土地なんだからさ、広めに貰わないと。今頑張らないでいつ頑張るんだ」
「3人分の土地……? なんだよそれ。どういう事?」
あれっ? 知らなかった?
「魔物の討伐数に応じて新城壁内の土地を貰えるって話だったんだけど……あのオッサンから何も聞いてなかったのか?」
「聞いてない。……土地が俺達のものに? マジか!?」
「たぶん」
うおおおおお!!! とロイ達は雄叫びを上げた。
「聞いたか!? マグ、ショウ!! 俺達の土地だって!!」
「聞いたよ!! これからは堂々と秘密基地が作れるんだね!!」
めちゃくちゃ喜んでる。
良かったな。
家を建てたりとかは今はさすがに厳しいだろうが、畑にしても良いし本人達が言っているように秘密基地にしても良い。
本格的に運用するのは大人になってからでいいんだ。
「じゃあ、報告がてらリーサのところに行こうか。みんな。魔物を収納してくれ」
「いやいや! こんなに入るかバカ!」
「え? そうなの?」
入らない?
「そっかぁ。困ったな。……どのくらいなら入る?」
「俺は――どうだろうな。今の魔力量からすると、ゴブリン4匹くらいかな。マグは2匹、ショウは7匹ってとこだと思う」
そんなに少ないのか!?
っていうか意外とばらつきがあるな。
「収納量ってどうやって決まるんだ?」
「なんだお前。そんな事も知らねーのか。アレだよ、モノが持ってる魔力と自分の魔力の最大値が釣り合うところまでだよ」
「へー」
そうだったんだ。
モノにも魔力があるのか。……まぁ、不思議でもなんでもないけどさ。
だとすると、魔力を全く持たない自分がこの世界でどれほど異質なのか実感するな。
「マジックアイテムを装備していればもっと入るようになるらしいけど……俺達はそんなもの持ってないしさ。参ったな。どうやって運ぶ?」
「仕方ない。俺が運ぶよ」
そう言って魔物の山に手を当てて全て収納すると、ロイ達は口をあんぐり開けて「お、おま……どういう……」と呟く。
「あー……俺、実はマジックアイテム持ってるんだ。だからたくさん入るんだよ」
「そ、そうか……」
「それにしてもこれっておかしくない……?」
「そんな事ないよ普通だよ」
なんとか丸め込み、みんなでリーサの元へと向かう。
どっちにしろ運ばないといけないからな。こんなとこでモタモタしてるのは性に合わないし。
さっさと終わらせたいんだ。
「おーい! リーサ!」
庁舎に行くと、リーサは事務官らしき女性何人かと一緒に掃討作戦へと参加した人達の討伐申告を受け付けているところだった。
「おや、ヒロム殿……。急にいなくなって何をしているのかと思えば、お友達と一緒に討伐してたんですか……。ちょっとお待ち下さいね……。順番に見ていきますから……」
「うん」
頷く俺の横でロイ達は「なぁ……あの人って領主様のところの……だろ。なんでヒロムとあんなに親しげなんだ……?」「さ、さぁ……なんでだろう」とひそひそ話をしている。
色々あったんだよ……。
説明するとローラの件まで話さないといけなくなるような気がしてだんまりを決め込む。
早く順番来ないかな。
そう思いながら辺りに目をやると――。
「!?」
俺達と同じく順番待ちをしている人達でごった返す庁舎の前。
そこにひときわ人だかりが出来ている一画があって、その中心にはあろうことか俺のフィギュアが堂々と飾られていたのだ。
「え、ちょっ」
なにごと!?
地獄耳ピアスを通してマリンの声と人々のざわめきが聞こえてくる。
「誰かこの人物を見かけた人はいませんかー? これはあたしが時空のはざまで見たアストラ様を模した像なんですけどー、絶対にこの町に来ていたはずなんですー」
「アストラ様だって!?」
「あんなお姿だったのか!?」
「なんであれがアストラ様って分かるんだ?」
「そりゃアレだ、他でもないセブ公爵家の天才お嬢様が時空のはざまで見たって言ってるからには……そうなんだろう」
「なるほど、時空のはざまなんて普通の人には見れないもんなぁ。そりゃ確かにアストラ様だ」
や、やめろおおおお!!!
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