第34話:お前かpart.2~天才少女マリンの勘違い~
新領地の中では町民と冒険者達が先を争うようにして魔物を狩っていた――。
「いたか!?」
「いやいない! この辺りはあらかた倒しちまったかもしれねぇ!」
「クソ! ……おい、あっちの方が騒がしいぞ! 行ってみよう! いるかもしれない」
初めてサッカーをやる人達みたいに獲物に集結しようとする町民を横目に、冒険者は余裕綽々の表情を浮かべる。
「クックックッ……。町民風情がこんな時ばかり張り切っても、俺達冒険者に敵うはずがないというのに。ご苦労なこったな」
「風景に擬態する魔物の見つけ方を知らないのよね。この辺りに生えている草は地中に埋まっている魔物の髪の毛だという事にすら気付かないなんて」
「クックックッ……。そうだ。この辺りでは比較的大物に当たるこいつなら一匹でゴブリンやミニオーク10匹分に相当するだろう。さあ、髪の毛を燃やしてやる。出てこい、ポテトン。……ふっ。町人達を出し抜いて狩る魔物はひときわ愛おしいな。可愛いぞ、ポテトン」
「あらジョニー。嫌だわ。そんなごつごつした醜い魔物に愛なんて囁かないでちょうだい」
「なんだ? 妬いてるのか、ロージィ? クックック……君が一番可愛いに決まっているだろう。ロージィ。そうだ、土地をもらったら家を建てよう。俺と君が2人で暮らす立派な家を」
「ジョニー……! それって!?」
「クックックッ。今まで言えなかったけど……結婚しよう。愛してる、ロージィ」
「ジョニー……」
疾風迅雷で高速移動を可能にした俺は見つめ合うジョニーとロージィの間を駆け抜け、成人の倍ほども背丈のある姿のポテトンをシュンと収納魔法内におさめた。
「この掃討作戦が終わったら式を挙げよう。さぁ! 俺達の未来のために! 倒すぞ……って、いない!?」
「消えた!?」
ふっ。
悪いな。魔物はいただいていくぜ!
ロイ達のとこに運んで倒させるんだ。
この広い新領地、子どもの足では魔物を追いきれないと判断した俺は奴らと別行動をすることにした。
疾風迅雷で駆けまわり、魔物を収納魔法で集めてロイ達の前に放流するという作戦だ。
もう何度かゴブリンやミニオークを運び、ノルマの10匹はとっくに達成した。あとは自分達の成績分だけだ。
それにしてもカップルを出し抜いて捕獲する魔物はひときわ愛おしいなー。
ポテトンだってさ。ネーミングセンスが小学生かな?
この魔物、名前からしてそうだけど見た目もしっかりジャガイモだった。
さすが植物も魔物化する世界。異様に発達した根っこを手足に体の主要なパーツである芋(でかい)を支えている魔物。
食べたら絶対美味いやつじゃん。楽しみだ。
何体か魔物を捕らえ、ロイ達が戦う現場に戻る。
「捕まえてきたぞー!! 放流するから気を付けろ!」
「またかよ!? お前どうやって魔物を連れて」
「うわデカッ!! こんなの倒せるか! バカ!」
「ヒロム、なんなんだアイツ……」
ロイ達は息を切らしているがちゃんと戦えている。
ショウに渡した銀の斧の攻撃力が高いおかげでさほど苦戦せずに済んでいるようだ。
「ちゃんと倒しとけよ! また運んでくるからな!」
「ふざけんな! お前も戦えって――うおっ!?」
ポテトンの攻撃を避けて剣で斬り付けるロイ。根っこ(手足)が太くて一度では斬り落とせなかったが、倒せないことはないだろう。
再び野原に駆け出して魔物を探す。
カップルのおかげで探すポイントが地中にもあることを知れた。
地上に出ているパーツを燃やせば出てくるって言ってたな。
この辺りの草、燃やしてみるか……?
そう思って立ち止まり、右手を地面に向けてかざす。
その時だった。
「炎陣・“灰”っ!!」
高い声と共に地面が辺り一面炎に包まれた。
「うわっ!」
あっつ!!
燃える!!
焦ったが、しかし炎に包まれたのは一瞬ですぐに鎮火した。
灰と化した一部の草の根本が盛り上がり、中から2体目のポテトンが姿を現す。
「出たわね! 炎陣・“朱雀”っ!!」
また背後から高い声が響き、ポテトンが業火に包まれた。
それはただの火とは違って意思を持つ生き物のように首をもたげ魔物を喰らおうとする、まさに朱雀のような炎魔法。
芋が焼ける良い匂いが漂う中、後ろを振り向くと――。
「あら? おチビちゃん。いたの? 小さくて見えなかったわ」
俺より少し大きいだけの、水色の髪をツインテールにした幼女が一人で立っていた。
その幼女は立派なローブを身にまとい、これまた立派な杖を持っていて態度も偉そうな幼女で。
俺は瞬時に(関わるとめんどくさそうだな)と思った。
「そっかー。見えなかったか。ゴメンゴメン。じゃあ俺、あっちに行くから君はここで好きなだけ狩ってて」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「何?」
「質問とか無い訳!? このあたしに! そんなに可愛いのに一人で大丈夫なのか、とか! 可憐な見た目なのにすごく強いんだねとか!」
「あー……特にない、かな?」
「なんでよ!?」
さっそくめんどくさい感じになってきた。
無視してその場から離れようと駆け出すと、幼女も走ってついてくる。
疾風迅雷の俺についてくる……だと!?
なんなんだ、こいつ!?
「なんで付いてくんの!?」
「あたし、マリン。家名はわけあって言えない……。生まれながらの天才少女と名高いあたしの夢は、新しい魔法を開発する事なの。研究のためありとあらゆる魔法書を読んで日々を過ごしていたわ」
「聞かれてもいない自己紹介すな」
「そんなある日、ついにあたしは夢への手がかりを掴んだ……。そう、究極の時空魔法、転移術への手がかりをね」
転移術?
気になるワードが出てきて、走りながら耳を澄ます。
「どの魔法書を読んでも我らがアストラ神様しか使っている描写のない“転移”魔法。あれはあくまでも神話を盛り上げるための創作で、実際には不可能だと言われているけど――あたしは自分を仮死状態にすることで時空魔法への“中”に入り込む事に成功したの。……ここ驚くところよ?」
うぜぇ。
でも確かにすごいな。時空魔法――収納魔法の中には生き物は(本来は)入れないって聞いたけど、だからって自分を仮死状態にする奴があるか。ぶっ飛んでるな。
「それでね、あたし、時空の狭間で夢を見て、その中でアストラ様に会ったの。……ううん、本当にアストラ様かどうかは分からない。でもきっとそうだったと思う。夢の中であたしは狭くて四角い不思議な空間にいて、そこの壁には丸くて光る何かがいくつも縦に並んでた。そこに入ってきたアストラ様はあたしなんて見えていないかのように素通りして、その丸く光るものに触れた……。そうしたらその四角い空間の扉が開いて、アストラ様はこの町に出て行ったってワケなのよ……。転移は失敗だったけど、あたし、アストラ様を探しに来たの。遠いところから、はるばるこの町まで」
「へー」
狭くて四角い。壁には丸くて光るものが縦に並んでて。
なんかそれ、エレベーターみたいだな。
……いや、待て。
俺、エレベーターの扉が開いたらこの世界に来てたんだけど。
まさか。
「マリン。……それっていつの話?」
「1週間くらい前かしら」
「アストラ様だと思った奴はどんな見た目だった?」
「黒髪で、上下揃いの濃紺の服を着てたわね。背丈はポテトンの半分くらいかしら」
それ、俺じゃないか……?
なんで転移したんだろうってずっと不思議に思ってたけど。
「お前か……」
「え? 何が?」
思わず漏れた俺の声にマリンはきょとんとした顔で返事をした。
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