第33話:ロイ、マグ、ショウ


「おいヒロム。どーすんだよ」


 ガキ大将が後ろを歩きながらたずねると、手下達が「そうだそうだ」と相手の手を入れてくる。

 

「言ったろ。魔物を仕留めて土地を貰うんだよ」


「俺達だけでか?」


「無理そう?」


「そっ……そんな事は……ねーけどよぉ」


「そ、そうだそうだ……。なめんじゃねーぞ」

 

「俺達は冒険者のタマゴなんだぞ! グンさんに稽古つけてもらってるし、来年には登録してもいいって言われてるんだ!」

 

 と言いつつ3人は身を寄せ合って小さくなっている。

 ナワバリから出た瞬間ビビりになるな。ってか誰だよグンさんって。


「不安になるのは分かるけど、大丈夫だ。この辺りの魔物はそれほど強くない。俺達だけでも倒せる」


「なんでお前がそんな事知ってんだよ」


「倒したもん」


「はぁ!? お前が!?」


 3人組は顔を見合わせた。


「……嘘だぁ! だってお前、弱いじゃん!」


「そうだそうだ!」

 

 大将の言葉に中将が追随する。

 なんだとぉ……。

 弱いのは確かだが、倒したのは本当だ。

 仕方ない。かくなる上は冒険者カード(緑)を見せて証明するしか。


「本当だって。ほら、コレ見てみ――」


 手の中にカードを出して突き出そうとした時、3人の中では一番小さい少将――ショウが、呟いた。


「……ヒロムは、弱くないよ」


「はぁ!? ショウお前、裏切るのか!?」


「ち、違うよ! でも……見たでしょ。昨日、領主様にブン投げられてもピンピンしてたところを。一昨日だって、薬草畑に大量の水をかけてたし……。それに、昨日の晩ご飯の肉祭り……あれ、シスターは“ヒロムが買ってきてくれた”って言ってたけど……本当は“狩ってきた”んじゃないかって……今、思った」


「そんな訳なくね? 何を根拠にそんな」


「だってあんな量の肉を買うお金があるんだったら普通は他の事に使うだろ!? だいたい、ヒロムは元々お金を持ってなかったはずだ! ロイ君は、シスターがヒロムの中を調べた時の事覚えてる? あの時、シスターは“何も入ってない”って言ってた。つまり、あの肉は買ったんじゃない。獲ってきたんだ……! ぼくはそう思う」


 おお……。名探偵。

 3人の中では一番気が弱そうだけど一番賢いのがショウだったらしい。

 っていうか大将、ロイって名前だったのか。初めて知った。

 ロイは面白くなさそうに舌打ちをしながら俺に向かい合ってくる。


「……ヒロム。ショウはああ言ってるけどさ。実際はどうなんだ?」


「合ってるよ。肉は買ったんじゃなくて獲ってきた。……ほら、コレ。証拠」


 そう言って冒険者カードを見せる。

 するとロイは目を真ん丸くして「おま……っ、これって!?」と大声を上げた。


「城壁の外に出た証拠だよ。もういいだろ。行くぞ」


「証拠って……俺達だってまだ登録できてないのに! お前、受付のお姉さんどうやって突破したんだよ!? 追い返されるだろ、子どもが行くと」


「どうだったかな。それより早く始めようぜ。モタモタしてたら獲物がいなくなっちまう」


「お、おう……」


 ようやく前に進み始めたところで、改めて装備を確認してみる。


「ロイ達って武器は何を持ってるんだ?」


「俺はとマグは剣。んで、ショウが槌」


 マグ? あ、中将のことか。

 ロイ、マグ、ショウが三人組の名前らしい。

 剣と剣と槌か。

 

「なんで一人だけ違うんだ?」


「グンさんがくれたのがその3つだったんだよ。俺、マグ、ショウの順番で選んだらそうなった」


 へー。つまり余り物がショウに回ったってことか。日本では起きなかったトリクルダウンがこんなところで起きている。

 ってか、さっきから気になってたんだけど。

 

「グンさんって誰?」


「知らねーのかよ。しゃーねぇなぁ。いいか、グンさんはな! あのトーマスに次ぐ実力者で、B級冒険者なんだぞ! トーマスを倒すために日々努力を重ねる凄い人なんだ!」


「トーマスを倒すのが目標なのか……?」


 より強い魔物に挑むためじゃないんだ。

 まー……分かるけどな。

 二番手扱いされる者にとって、一番の地位にいる奴ってのはまさしく目の上のたんこぶなんだ。

 何かと比較されているうちに対抗心が育ち、バチバチに意識するようになる。

 日本にもそんな話はいくらでもあった。


「そうだ。分かったかヒロム。そのグンさんに見込まれたのが俺達ってワケ。受付のお姉さんに止められてなきゃ俺達だって今頃とっくに冒険者になって――」


 威勢の良いロイの言葉が急に途切れた。

 顔を見ると一点を見つめて停止している。

 視線を追ってみると、数十メートル先に人型の魔物の姿が見えた。

 あちらは俺達に狙いを定めているらしく、錆びてボロボロの剣を構えてこっちに向かって走ってくる。

 

「ゴ、ゴブリンだ――!!」


 3人は慌てて手元に武器を出した。

 剣、剣、木槌。

 まだ新品の輝きを放つそれらの武器は彼らの体格に合っておらずやや大きいようだ。

 重いのか、武器を持つ手がぶるぶると震えている。

 

「……大丈夫そう?」


「ったりめーだろ! ほらショウ! お前からいけ!」


「えぇ……!?」


 ロイはショウの背中を押し、前線に出した。

 分かってはいたが、ショウが一番格下扱いされているらしい。

 目の前に迫ったゴブリンは剣を振り上げてショウに襲い掛かった。


「う、うわーっ!!」


 ゴスッ。

 ショウが振り回した槌がゴブリンの肩に当たった。

「ギャアアアア!!」と叫び声を上げるゴブリン。唖然とした顔で見つめるショウに、俺は「今だ! もう一撃いけ!」と声をかける。


「はっ! よ、よぉし!」


 体勢を整え、木槌を振り上げる。

 ゴスッ。頭から鈍い音を立てゴブリンが倒れた。

 

「おお! やったか……!?」


 ロイ(何もしていない)が覗き込む。

 マグも同様に覗き込み、ゴブリンの手足がのろのろと動いて立ち上がろうとするのを見て剣を構えた。

 

「いや、まだだ! 動いてるよ!」


「よーし! 俺達が倒してやらぁ!!」


 急にやる気になった。

 瀕死のゴブリンを相手に戦い始めたロイ達をよそに、俺は「ショウ。おまえすげぇじゃん」と声を掛ける。


「う、うん……。動いてる魔物を見るのは初めてでびっくりしたけど……けっこう大丈夫だったね」


「あのさ、その槌ちょっと見せてくれない?」


「え? いいけど」


 木槌を借りて持ってみる。

 長さは今の俺の身長と同じくらい。重さは――銀の斧より少し軽い。

 槌と斧じゃ勝手が違うだろうが、剣よりはまだ近い。それに今なら敵が弱い。

 新しい武器の練習台にはもってこいの環境だ。


「ショウ。良かったら“こっち”を使ってみないか?」

 

「こっち?」


「そう。慣れたら今より早く魔物を倒せるようになるんじゃないかなって」


 と言って右手の中に出現させたのは、光り輝く銀の斧。

 破魔の力がある武器だ。

 

「え!? なにこれ!?」


 おまえ達にいじめられた事を許した訳じゃないが俺は大人だしさ。

 それはそれ、これはこれ。

 それに、3人の中でヒエラルキー最下位であるショウにはぜひ頑張ってもらって偉そうな奴らを見返していただきたいと。俺はそう思っている。




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