第32話:掃討作戦
「ふぅ……。結構食べましたね」
ミニオーク一匹分を平らげたリーサがさすさすとお腹をさする。
「お腹いっぱいになったか?」
「うーん腹八分目ってとこでしょうか」
「おまえの胃袋どうなってんの?」
ミニとはいえデカいイノシシくらいはあるんだぞ。
これだけ食べたら普通はお腹がポッコリしそうなもんだが、リーサのお腹は平らなまま。
どこに消えてるんだ……。胃袋の中に収納魔法ついてんのかな。
「よく言われます。叔母様も“リーサのお腹は下手な収納魔法よりたくさん入るんだね”って褒めて下さいますよ……」
「褒めてんのかな、それ」
にしても、『下手な収納魔法』か……。
収納量についてはギルドのお姉さんも言ってたけど、普通はどのくらい入るんだろう。そして俺はどのくらい入るんだろう。
「あのさ――」
「それにしてもあの叔母様がミヤシタ殿をお気に召しているとは……今年一番の驚きでしたよ……」
話を蒸し返してきた。
あんまり触れちゃいけないのかなって思っていったん横に置いた話だったんだが。
そうでもなかったみたいだ。
「どうしてミヤシタ殿だけは平気なのでしょう……。叔母様も領主となったことで大人になられたという事かしら……? だとしたら喜ばしい事ですね……」
あの年で大人になった事を姪に喜ばれる人生……。
「って、別にお気に召しているとかじゃないだろ。使い勝手が良さそうだから傍に置こうとしているだけだ」
「そうでしょうか……。使い勝手が良さそうな男性なら過去いくらでもおりましたけど、結局叔母様は誰一人として傍には置きませんでしたよ……。近くに寄っても大丈夫な男性は先代――叔母様のお父上と弟であるグレゴリオ様くらいで……今じゃ使用人もほとんどが女性ばかりに……」
声が段々ちっさくなっていく。
活動可能時間が減っていくのが目に見えるようだ。
「元気を失うなよ。早いよ。ほら、立って。またお腹が空く前にさっさと門を開こう」
「はい……。あ、門を開くのは私達じゃないですよ……。町の中にいる人達です……」
そう言ったリーサが魔法で火球を空に上げると、城壁の方から歓声が上がりドォンドォンと音が響いてきた。人々がざわめく声もする。
そっか。合図がきたらすぐに門を作れるよう待っていたのか。
みんな何話してるんだろう。
そう思って地獄耳ピアスで音を拾ってみた。
『土地が広がるなんて何十年ぶりだろうなぁ。チビ達、頑張って魔物をたくさん狩ってくれよ。土地の配分は掃討作戦の功績次第なんだからな』
『はい……』
ん? この声……孤児院のガキ大将じゃないか!? 昨日近所のオッサンに引き取られて行ってたが。
もしかしてあのオッサンにこき使われようとしてる?
『へへ、子供は苦手なんだが預かって良かったぜ……。まさか翌日にこんな事が始まるなんて。チビだろうが何だろうが人手があるに越したことはないからな……』
オッサン、ガキ大将達が倒した分を自分の手柄にしようとしてる。
……気に入らないな。
行くあてのない子供にそういう事をさせるって趣味が悪い。
ほとんど奴隷じゃないか。
「あのさ、リーサ」
「はい……なんでしょう……」
「魔物をいっぱい倒したら子供でも土地の配分を受けられるのか?」
「え? そうですね……。前例がないので確かなことは言えませんが、討伐数に応じて土地を選ぶ優先順位を与え、そこの使用を認める決まりですからね……。受けられるんじゃないでしょうか……」
「よしきた」
リーサの適当な発言ではあるが、子供には土地はやらないと明文化されてないだけでじゅうぶんだ。
だって最終的な決断はアンバーにあるんだろ。
あの人だったらきっと認めてくれる。
「あ……開きましたね……」
城壁の一部に穴が開き、そこからワラワラと人が飛び出してきた。
きっとあの中にガキ大将達がいる。
「リーサ! 俺ちょっと行ってくる!」
「どこに……? ちょっと、ミヤシタ殿……!?」
急がないと。
こんなに広いところで見失ったらもう見付からない。
「しかし遠いな!? 間に合うか……!?」
ふと、さっきリーサが足から風を逆噴射して落下速度を調整したことを思い出す。
あれが出来るならきっと移動速度だって――。
『魔素。早く走りたい』
魔素に頼むと白くて淡い光が全身を包んだ。
力が湧いてくる。身体強化か。
そうだけどそうじゃないんだよな。
これも悪くないんだが、もっと走りに特化した方法があれば――。
そういえば最初の頃、水魔法を使おうと大雑把な命令をした結果、滝みたいな水が出てきた事があったっけ。
やっぱりちゃんと伝えないとダメなんだな。人と一緒だ。
なんだっけ。風みたいに走ることを表す言葉、あったよな。
えーっと……。
『疾風迅雷……?』
ぐん、と体が軽くなった。
「うおっ!?」
伝わった!
急に走るスピードが上がって制御しきれずすっ転んだ。
でも、いいぞ……!
慣れれば使いこなせる!
「おーい!!」
地獄耳ピアスでガキ大将達の居場所を特定、走りながら声をかける。
「あ? ヒロムじゃねーか」
「あいつも来てたんすね」
「……え、ちょ、速」
ドゴオォォン!!
止まり切れなくて彼らを素通りし城壁に突っ込んでしまった。
「イテテ……」
「何やってんだよ、お前」
彼らが近寄ってくるが、オッサンは「何してるガキども! 急げ!」と急かしてくる。
「あの! おじさん!」
立ち上がって声をかけた。
「あ?」
オッサンが振り向いて訝し気な顔をする。
交渉開始だ。
「彼ら3人を、俺に貸してくれませんか!?」
「何を言ってるんだ。ダメに決まっているだろう。こいつらには一宿一飯の貸しがあるんだ。少しくらい役に立ってもらわないと」
アンバーから謝礼金をもらう気満々のくせに何言ってんだ。
「でも子供ですよ? 言うほど成果を上げられるとは思えません」
「む……。それは、そうなのだが」
「ではこうしましょう。俺達が狩った魔物から1割、あなたに差し上げます。これでどうですか」
「い、1割……?」
唸るオッサンの横でガキ大将達がヒソヒソと「1割ってなんだ?」「知らねーのかよ……1匹って事だよ……」と言い合っている。違う。けどまぁいいや。
「子供だけでどのくらい狩るつもりなのか知らんが……いいだろう。しかし1割じゃ到底納得できん。10匹だ。これが条件」
「じゅっ……!?」
ガキ大将達が息を呑む。
「お、おいヒロム! 無理だって! 10匹なんて」
大丈夫。いける。
「任せて下さい」
「おい!」
焦るガキ大将達をよそにオッサンはニヤァと笑って追加の条件を出してきた。
「もしも10匹以下だった場合、お前を我が家の召し使いにするぞ。一生こき使ってやるからな。覚悟しとけ」
「構いませんよ。その代わり、本当に10匹達成したら正規の値段に色をつけて買い取って下さいね。――なんたって楽して土地が手に入るんだ。そのくらいはして貰わないと」
そう答えるとオッサンは少し怯んだ。
「お前……なんなんだ? なんでそんな……」
俺は少し考えて、答えた。
「俺、彼らの友達ですから。一緒に戦いたいだけなんですよ」
なんてな!
本音は搾取が気に入らないだけだ!!
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