第31話:補佐官とピクニック
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着地の方法は“風”だった。
彼女の靴には風の魔石が取り付けられていたらしく、くるりと体を回転させて足を下に向け風魔法を発動、地面に空気を叩き付けることで落下速度を緩め、無事に着地という流れだった。
「ふぅ……。何度やってもこの浮遊感とスリルはたまらないですねぇ……。やみつきになります……」
大鎌を肩に乗せたリーサがうっとりした顔で呟く。
この子やっぱりアンバーの身内だ。感性が全然おとなしくない。
俺は! 怖かった!!
「あのぉ、ミヤシタ殿……。もう一回やりませんか……?」
「やらないよ!」
遊園地に遊びに来た人みたいな感じで言うな。
「残念です……。あ、さっそく来ましたね。ミニオークです」
ドドドドドと足音を響かせて食材が群れをなしてこっちに向かってくる。
今さらだがあいつの肉は本当に美味かった。
ちゃんと調理できていればもっと美味かったんだろうな……。
リーサはスチャッと大鎌を構えた。
「ここは私が仕留めます……。ミヤシタ殿は身を守っていて下さい……」
「お、おう」
やる気満々そうなので黙って下がっておく。
今は子供らしく後ろで肉とクズ魔石を回収させてもらうとしよう。
「ふんっ!」
意外とドスの効いた声を出し、大鎌でミニオークを倒していく。
全く危なげがないな。戦い慣れてる。
ギャップがすげぇんだよ……。
彼女が戦う横で俺は倒れたミニオークに『止まれ』と声をかけ、死体の時間を停止させて収納魔法に入れていった。
収納魔法の中って時間が動いているのかどうか分からないからな。肉が傷んだらもったいないもん。
それにしても――この中の魔物を一掃ってけっこう大変なんじゃないだろうか。
だって、広い。
町ひとつ入るくらいの広さなのに、俺達2人だけでやったらどのくらい時間がかかるんだろう。
「あのさリーサ殿。魔物の掃討って、本当に俺達だけでやるの?」
なんて呼んだらいいのか分かんなくて、リーサに倣って殿をつけてみた。
武士みたいだな。
するとリーサは「リーサ殿……? そんなふうに呼ばれたのは初めてです……。変わった呼び方をしますね、ミヤシタ殿は……」と言った。
「いやだって君がそう呼んでたでしょ」
「そうでしたか……?」
「自覚なかったの!?」
そんな事ってある!?
おまえ、顔の割に武士っぽいんだぞ……!?
無自覚にしては癖が強すぎる。
「ええ、まあ……。ご質問にお答えしますと。私達2人で動くのは拠点を作るまでの間です。旗を立ててひとまずハコだけでも庁舎を作りましたら、城壁の一部を崩し門を開きます……。そうしたら町の有志だったり冒険者だったりを入れて、掃討作戦に参加してもらう事になります……」
「へー」
殿の件はどうでも良さそうだ。
拠点を作るまで、か。
「拠点ってどうやって作るの?」
「土の上魔石です……。ハコを作るくらいならこれでも可能ですから……」
なるほどー。
城壁クラスの規模は無理でも簡素な建物ひとつくらいなら上魔石でいけるのか。
「魔石って便利だな」
「そうなのですが、まともに使える魔石となるとそれなりに貴重ですから……魔石で作るのは最初の拠点だけですよ……。他は大工さんなどのお仕事です……」
「へー」
ばっさばっさと魔物を斬り捨てるリーサと共に少しずつ丘へと近付いていく。
この付近には強い魔物がおらず、特に事件らしい事件もないまま順調に歩を進めて、俺達は目的の丘へと辿り着いた。
「さて、この辺りに旗を立てましょうか……」
大鎌をしまい代わりに家紋の旗を出す。
よく見るとポールの下先端――地面に接するところには琥珀色の石がついていて、リーサは「これが土の上魔石ですよ……ミヤシタ殿……」と親切に説明してくれた。
「旗に付いてたんだ」
「はい……。この旗自体が特別なマジックアイテムです……。作るの結構大変なんですよ……刺繍とか」
あー、刺繍って手仕事だもんな。
そりゃ大変だ。
納得している俺の横でリーサは旗を掲げ、ポールを思い切り地面に突き刺した。
ボコ、と足元の土が盛り上がる。
ボコボコボコ、と土が動いて一点に集まり、圧縮されてなんと岩に変身した。
岩は俺達を乗せたまま瞬く間に体積を増やし、四角い箱状の建物へと成形されていく。
「おお……建物が生えた」
「ふふ、確かに生えたみたいですよね……。さて、これでひとまずの拠点は作れました……。門を開きに行きましょうか……」
そう言って建物の屋上(?)からぴょんと飛び降りたリーサだったが、着地した姿勢のまま突如動かなくなってしまった。
「……ど、どうした?」
声を掛けてみるが返事がない。
「おい、本当に大丈夫か?」
心配になって顔を覗き込む。するとリーサはつらそうにぐっと目を瞑り「お……」と小さく呟いた。
「お?」
「お腹が……すいて……力が出ない……」
マジか。
武士から急にア〇パンマンになった。
おまえ、食いしん坊だったのか……。
キャラが渋滞しすぎだろ。
「ん~~~美味しいです~~! やっぱりミニオークのお肉はお外で食べると一味も二味も違いますねぇ~!」
別人みたいに元気な声で、リーサはニコニコ喋りながら焚き火で焼いた肉をほおばる。
肉、拾っておいて良かった……。
にしてもアンバーの奴、どうやってこんな曲者を飼いならしてたんだ……?
俺、既にちょっと疲れてきてるんだけど。
「ミヤシタ殿は食べないのですか?」
「食べるよ……せっかくだし」
「あ、良かったら私の塩使います?」
「マイ塩持ち歩いてるのかよ」
しかも岩塩。
塊を裸のまま丸ごと出してきた。ワイルドだぜ……。
「当然です。戦乙女たる者、いついかなる時でも全力で動けないといけませんから。ご存じですか? 塩って美味しいだけじゃなく、人が元気に活動するために必要なものなんですよ」
「知ってるよ」
岩塩を借りて肉に塗りたくり、焚き火にくべる。
薪も炭も燃料も無い魔素の焚き火。動けなくなったリーサに代わって俺がセットしたやつ。
「それにしてもミヤシタ殿の作った焚き火、すごいですねぇ。何もくべてないのにずっと燃え続けてますよ。魔力がよほど豊富なんですね」
「まーな」
本当はゼロ、皆無なんだがそのおかげで魔素に干渉できているフシがある。
そういう意味では確かに豊富と言えるかもしれない。なんたって魔素が存在する限り使えるんだから。
「……叔母様の前では聞きそびれてしまいましたけど、ミヤシタ殿って何者なんですか?」
「ただの迷子だよ。孤児院で保護されてた」
「まさか。本当はどこかの名家の御子なのでしょう? 子のいない叔母様に跡継ぎとして連れて来られた――とか」
「そんな訳なくて本当に迷子なんだよ。……そうだ。俺もアンバーには聞けなかったんだけど、あの人って結婚してないの? なんで?」
あの立場の人間だったらモテるモテないに関わらず結婚する必要があると思うんだが。
それにアンバーって若返ったら結構……いや、ものすごく美人なんだよな。
相手に困るとは思えない。
リーサはリスみたいに頬を食べ物で膨らませながら答えた。
「叔母様はですね、男性が嫌いなんですよ」
「うそ!?」
信じられないオブザイヤーきた。
男嫌い!? アンバーが!?
「嘘じゃないですよぉ。半径5メートル以内に男性が入ると殺気を放つって社交界では有名なんです」
「俺昨日、あの人に一緒に風呂に入れられたんだけど」
「えっ!? うそ!?」
目を丸くするリーサ。
ちょっと分かってきた。
おまえ、飯食ってる時だけ元気なんだな……。食ってない時と声の張りが全っ然違う。
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