第28話:ロゼッタ石×上魔石(風)×銀=???
「ときにミヤシタ。これはなんだ?」
アンバーは俺の首にかかっていたロゼッタ石に触れた。
軽い声の調子からして、謎に強い魔力を感じるとかそういう事ではないようだ。
目に入ったから聞いてみた、その程度の関心。
「これは俺にとって大事な物です。触らないでください」
そう言ってアンバーの手を石から外す。
もし壊れたり手元から無くなったりしてもまた作れるだろうだけど、魔石を集めるのが大変なのでね。取り上げられたくないし、どんな石なのかは黙っておこうと思う。
アンバーは「そうか……」とだけ言ってそれ以上追及してこなかった。が、ダメ出しはしてきた。
「大事という割には鎖がダメダメだな。鉄か? せめて合金にするとかしないと、数日中に錆びて切れるぞ」
「あー、そうですね」
確かにそれは俺も思ってた。
っていうかもう既にうっすら錆び始めてる。やっぱり鉄の鎖じゃダメだな。
「うむ。もっと言うなら首飾りにするのもやめておいた方が良いだろう。首飾りというものは案外色々なものに引っ掛かけて切れやすい。鎖を極力短くすれば引っ掛け事故は減るが、ミヤシタの場合そうすると大人になった時に首が締まるだろうからな。無くしたくない大事な物なのに身に着けておく必要があるのなら、耳に穴を開けて繋ぎとめておく方法をわたくしは推奨する。ほら、こんな風に」
そう言ってアンバーは髪をかき上げて耳を見せてきた。
そこには宝石なのか魔石なのか判別がつかないが、とにかく赤い石がピアスに加工されて耳たぶにぶら下がっていた。
ピアスか……。
一理あるけど、ちょっと嫌だな。
痛そうだし。
でもなぁ……一理あるんだよなぁ。
長めの鎖を首にかけておくと何かに引っ掛けて切れる、とか。普通にありそうな話だ。切れなくてもそれはそれで首が締まって危ない。
屋内でおとなしく過ごすだけならさほど心配する必要はないだろうが、俺はそうするつもりがないし。
今日1日だけで何度投げ飛ばされたことか……。
想定されるさまざまなシチュエーションを考えた末に、俺はその案を受け入れることにした。
「穴、開けようかな……」
「うむ。それがいい。石の加工は材料さえあればお前の変な魔法で出来るのだろう? 穴はわたくしが開けてやろう」
「お願いします」
自分で開けるのは怖くてちょっと出来なさそうだったので、素直にアンバーの申し出を受けておく。
果たして、穴開けは風呂から上がってすぐに実行された。
「いててて……」
なんと氷魔法で耳を貫通させられた。
針みたいに細いコールドスピア。その氷の針が刺さったままの耳(髪で隠れるよう、耳の上辺にしてもらった)に、アンバーはポーションを注ぐ。
「あれ? 治しちゃうんですか?」
「ああ。刺さったままの状態で治癒するとすぐにピアスの穴が完成する。氷も早く溶けるし一石二鳥だ」
「へー」
彼女が言った通り、氷の針は溶けて無くなり穴だけが残った。
俺は収納魔法内の銀貨6枚を銀の塊(小)×2に変え、鎖を外したロゼッタ石と合成してみる。
……また首飾りになってしまった。
「ダメでした、アンバー様。俺、首飾りしか作れないみたい」
「そんな事あるか? わたくしにはその魔法の事はよく分からないが、絶対ピアスより鎖の方が難しい気がするのだが。材料は何を使った?」
「銀の塊(小)が2つと石が1つです」
「ふむ……。もしかしたら、材料がピアス向きではないのかもしれないな。普通、耳飾りは2つで1組だろう。その材料だと石が1つしかなくてピアスのレシピとしては不完全な可能性がある。銀の塊1つと石2つでもう一度試してみよ」
なるほどー。レシピとして不完全か。確かに。言われてみれば銀の塊だって2つじゃピアスとしては多いもんな。
……石は揃ってなくてもいいのかな。
彼女の言う通り、残っていた上魔石(風)(適当に選んだ)をレシピに加え、銀の塊とロゼッタ石と共に合成してみる。
『地獄耳ピアス』
……なんかすげーの出来た。
あれかな、風の上魔石が加わったせいかな。
こうなると風っていうより空気を操作する力って感じがするけど……。
ともかく、せっかくなのでピアス用の穴をもう1つ開けてもらい装備してみる。
地獄耳ピアスはその名の通り、耳を澄ますと屋敷中の音が拾えるというマジックアイテムだった。
「おお……こりゃあ良いや」
常に地獄耳な訳じゃなくて、俺の意識に応じて働いてくれるっぽい。
いいのかな。魔力ないのにこんなに便利にしてもらって。
耳を澄ますとどこからか叫び声が聞こえてくる。
『クソォ!! 出せ! このボクを牢屋に閉じ込めるなんて! 姉上! 絶対に許さんぞ!!』
……グレゴリオの声だ。
あいつ、どうしたんだろうって思ってたけど……牢屋に閉じ込められてたのか。
ご愁傷様だな。
「ミヤシタ。ピアス、似合うではないか」
「え!? ……ああ、おかげさまで。ありがとうございました」
満足げなアンバーにお礼を言ってピアスを髪で隠す。
よし、こうすれば目立たない。完璧だ。
アンバーは昔グレゴリオが着ていたといういわくつきのパジャマを借してくれた。
彼女は風呂上りにツヤッツヤのガウンを羽織り、手元にグラスとガラス瓶を出現させて琥珀色の液体をとくとくと注ぐ。
あれ、多分酒だな。
「さて……昨晩はどうなる事かと思ったが、無事に乗り切る事が出来た。祝杯だ。ミヤシタも飲むか?」
「じゃあ一口だけ」
本当は一口と言わず一杯分くらい欲しいけど、この体にはあんまり良くない気がしてやめておいた。
アンバーの手元にはもう一つグラスが現れ、本当に一口分だけ注いで「ん」と差し出してくる。
自分で言っといてなんだけど、一瞬で飲み終わるな……。
アルコールはともかく喉が渇いているから水分は欲しいんだよな。
……ああ、そうか。水魔法でかさ増しすればいいのか。せっかくならハイボールにしたいけど、炭酸水なんて無いよな。
あーあ。二酸化炭素も収納できれば水と混ぜて炭酸水を作れそうなのに。
……んん? 二酸化炭素?
風の魔石には空気を操作する力がある。
もしかして……いけんじゃね?
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