第27話:ミラリア家に移動

※当初は健全な内容で行くつもりでしたが、そうでもなくなってきたので今回セルフレイティング設定を行いました。

遅くなってしまいすみません。残酷、暴力、性描写、どれもマイルドですがありますので苦手な方はご注意下さい。



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『素敵な人だった……』


 シスターが一瞬会っただけの俺をそう言った理由がちょっと分かった気がする……。


 領主一族の姉弟喧嘩の現場となった教会兼孤児院。

 ここが大規模に破壊された結果、修復までの間は近所の人たちが協力してそれぞれの家で孤児たちの面倒を見てくれることになった。

 ――のだが!

 下心を顔に貼り付けたような独身男が代わる代わる現れては、ローラを隠すようにして立つシスターに「君は大丈夫なの? うち、子供は無理だけど君だったら泊めてあげられるよ」と声をかけるのだ。

 

「それには及びません。お気遣い感謝します」


 当然シスターは断っているが……鬱陶しいことこの上ない。

 帰還者トーマスが十回以上フラれてもまだ諦めなかったのもそうなのだが、シスターはモテる。とにかくモテる。常に、しゅっちゅう口説かれてる。断り慣れてもいる。

 だからだ。

 だから、助けただけで名乗ることすらせずに立ち去った謎の男が新鮮だったんだ。

 

 なーんだ。

 腑に落ちたわ。

 喜んで損した。

 

 がれきの撤去作業(収納魔法に入れるだけ)を手伝いながら、一人で落ち込む。

 ……ま、いいか。

 実際には素敵でもなんでもない俺が名乗り出たところでがっかりさせるだけだし。一瞬の美しい思い出となれれば御の字だ。これ以上は望むまい。


 それはそうと、大小さまざまながれきが……合成できる件について。

 何になるのかはまだ分からないが、素材から考えて最終的には家とかそういうものが出来るのかなと思う。

 やってみたい――けど、無理だなぁ。こんなに人がいるんじゃ。

 

 入れ替わり立ち代わりやって来る人々を眺めながら撤去作業をしていると、領主アンバーが従者を連れて姿を現した。

 彼女は捕縛したグレゴリオを連れて家に戻っていたのだが、また町に戻って来たらしい。


「アンバー様」


 町の人達が一斉にお喋りを止めて彼女に体を向けた。

 若返っている事については皆スルーだ。まぁ、夜だし。よく見ないと分からないかもな。

 アンバーは「皆、迷惑をかけたな。もう解決したので安心してほしい。後始末はこっちでやるので帰って良いぞ」と言った。


「あぁ、あと、子供の保護をしてくれる者は報告をして行くように。後日我が家から謝礼金を出そう」


 するとどよめきが上がり、まだ保護を申し出ていない人達が余っている子供がいないかと探し始めた。

 嫌だねぇー。金が絡んだとたんにやる気出しちゃって。

 そんな奴に誰がお世話になりたいんだよ。俺は余っている組だが、別に保護されなくてもいいかな。

 金はあるし、仕事だって――。

 

「ねぇボクちゃん。君はどこのおうちに行くか決まった?」


 露出の激しい恰好をしたセクシーなお姉さんが声を掛けてきた。

 長い髪をかき上げ、片方を耳にかけて前かがみで微笑みかけてくる。

 谷間っ……! 厚めの唇の横には小さなホクロっ!


「ま、まだです……エヘヘ……」


「そ! よかった! じゃあウチにおいでよ! ベッドは1つしかないけどいいよね?」


「もちろんです」


 キリッと表情を引き締め、彼女が差し出した手を取る――はずが、首根っこを掴まれてずりずりと後ろに引っ張られた。


「あぁっ、なんで」


「お前はこっち」


 アンバーの小脇に抱えられてしまった。

 セクシーなお姉さんは驚いた表情を浮かべ、何も言わずスススッと下がって行く。


「ああ……お姉さん!」


「なに堂々と女の家に行こうとしてるんだ。このスケベ」


「クソッ……! ほっといて下さいよ! 俺はただ、あのお姉さんの厚意を無駄にしたら悪いなって思って」


「ほう。それは殊勝な心掛けだ。……仕方ない。我が家に迎え入れようと思っていたのはお前とオーロラ様と、そしてフューシャの3人だったのだが。そこまで言うのならあの2人だけでもいいか。……フューシャには必要以上に目立たぬよう、しばらく我が家のメイドに紛れ込んで過ごしてもらおうと思っていたのだが」


「行きます」


 俺にはローラを守る使命があったんだ。

 危ない危ない、忘れるところだった。

 

「チョロすぎだろう、お前」


 何とでも言えばいい。

 アンバーは従者に向かって「保護した者と子供の名前を記録しておいてくれ」と命じ、俺を小脇に抱えたままシスターに声をかけた。


「待たせたな、フューシャ。行こう。オーロラ様も一緒に。残りの作業は明日だ。今日はもう遅い」


「は、はい……。あの、アンバー様。私、さっきの人が心配で。探してから行ってもいいでしょうか?」


「さっきのって? ――あぁ、あの時の男?」


「はい」


 アンバーは押し黙り、ちらっと俺を見下ろした。

 ……な、なんだよ。


「……その者なら心配せずとも大丈夫だ。元気にやっている」


「え? アンバー様、お会いになったんですか? あの人と」


「そうだ。……もういいだろう。行くぞ」


「……はい」


 少し不満そうな顔のシスターと、きょとんとしているローラと共にアンバーの屋敷へと向かった。

 小高い丘の上に建てられた領主の城は遠くから見るよりも重厚で、外壁には憧れの砲門がいくつも見える。いいな。いいな、あれ……!

 中に入ると何人ものメイドさんとすれ違う度にお辞儀をされて、俺はその都度アンバーの小脇に抱えられたまま「あ、どうも」とお辞儀を返す。


「そういうのいいから。……では、オーロラ様はフューシャと一緒にそこの客室をお使い下さい。着替えは後で届けさせます」


「うん」


 シスターとローラが部屋に入って行くのを見届け、アンバーは足を進めた。


「あの……俺は?」


「お前はここ」


 そう言って入って行った部屋は、大きな天蓋付きのベッドと机、タンスに本棚、そして家紋らしき旗が飾られた豪華ながらシンプルな部屋だった。

 こっちの世界で初めて収納用家具を見た。

 奥には衝立もある。


「ここは?」


 綺麗だけど、客室にしては少し生活感があるような。

 机には読みかけっぽい本が開きっぱなしで置いてあるし。

 アンバーは床に俺を下ろし、一人で奥に歩いて行った。

 

「わたくしの部屋だが」


「は?」


 なんで!?


 彼女はタンスの引き出しを開け、中からツヤツヤのガウンっぽい黒い服を取り出す。

 そして胸元のボタンを外し、なんのためらいもなく脱ぎ始めた。


「ちょ、なんで脱ぐの!?」


「このままでは汚いだろう。さっき砂埃を浴びたのだから」


「それはそうだけど」


 若返ったアンバーは白い髪に赤い瞳の非現実的な美女でしかなく、スタイルも良い。その存在を汚しちゃいけない気がして目を逸らす。

 

「ミヤシタもどこかに触る前に脱いでおけ。今から風呂を用意する」

 

「風呂!?」


 そういうのって脱ぐ前に用意するもんじゃないのか!?

 と思ったのだが衝立の奥には猫足のバスタブがあって、俺の故郷では蛇口があるような場所に水色と赤の魔石がセットされているのを見て納得した。

 すぐにお湯が沸くんだな。

 さすが貴族の家だ。風呂に魔石を使うなんて。

 孤児院では各自水魔法で洗面器一杯くらいの水を出して(この量が子供達の限界っぽかった)、それとシスターが熾火と薪で沸かした熱湯を混ぜ、そのぬるま湯を使い体を手で擦って洗っていた。

 俺は最初の数日は魔法を使えなくて、シスターにぬるま湯を用意して貰っていたが。

 

 いいな、風呂。

 こっちに来て以来初のバスタブ。アンバーに言いたいことは色々あるが、いったん文句はおさめて風呂を使わせてもらおう。

 

「じゃあ俺、あっちで待ってますね。洗うまではどこにも座らないし、触らないので安心してくださ――」


「何を言っている。お前も来るんだよ」


 そう言って俺が着ていたワイシャツをスポーンと引っぺがした。

 

「うお!?」


「ふむ。本当に子供にしか見えないが……どうなっているのだろう。不思議だな」


「あんまり見ないでくれます!?」


「いまさら恥ずかしがるな、ミヤシタ。実は大人なんだろう?」


「そう……ですけど」

 

 なおさら恥ずかしいわ!

 そう言う前にひょいと抱えられて連行され、アンバーが魔石に触れた瞬間お湯で満たされたバスタブに一緒に入らされた。


「はぁ……気持ちが良いな。どうだ? ミヤシタもそう思うだろう?」


「気持ち良いですよ。でも一緒に入る必要ありました?」


「この魔石は1回分なのだよ。わたくしの後だと冷めた湯に入る事になる」


「あ、そういう事……」


 見ると、さっきまであったはずの魔石は消えて無くなっていた。

 魔石って使い切ると消えるのか。

 俺なら魔石が無くても自分で沸かせると思うけど……もう入っちゃったしな。いっか。

 

 諦めて体の力を抜く。

 アンバーの膝の上に乗せられているのが気になるが、あえて無視して久しぶりの湯舟を堪能する事にした。

 しかし……無視すると言っても限度があるな。

 特に後ろから腹に腕を回されているおかげで、背中に当たる感触が気になって仕方ない。尻の下には太ももがあるし。女体の上で入浴するなんて経験、初めてだよ。


「……あの、腕。外してもらえます?」


「うーん……。離したら逃亡しそうだからダメかな」


 逃げないって。

 ……とは言い切れなくて、何も言い返せなかった。


 

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