第19話:初帰還
ミニオークの群れが現れた!
なんだかさっきの奴より興奮しているようだ。
ざっと10匹はいそうな集団が一直線にこっちに向かってくる。血の匂いに誘われたのかもしれない。
「わ、わぁ~……! おこってる! こわい!」
解体で動じなかったローラもさすがに恐怖を感じたらしい。
俺は彼女の前に立ち、どうやって仕留めるか考える。
氷漬けは……それって倒したって言えるのか? じゃあ爆発は? 悪くはないが、肉がダメになりそうだ。
うだうだ考えている間に群れは迫る。先頭の一匹の眼が、ボワッと赤く光った。
なんだ!?
「ピギィィィィ!!!」
急に加速した!
そいつは群れの仲間を置き去りにして弾丸さながらの勢いで突っ込んでくる。
「うわっ!」
咄嗟に手のひらを前に突き出してガードした。
でもこんなんで守り切れる訳がない。
突き飛ばされる…………!
……と思ったら俺の手のひらに触れた瞬間、ミニオークはヒュッと姿を消した。
脳内に『ミニオーク×1』と浮かぶ。
ま じ か!!!
収納しちゃったよ!
「え? あれ? ミニオークは……?」
ローラが困惑している。俺もだよ。
どうすんだよこれ。
「ピギィィィィ!!」
後ろのミニオーク達も次々に目を赤く光らせ、加速して突っ込んでくる。
とりあえず俺は全員収納することにした。戦闘経験が足りない俺には群れを一度に相手するほどの余裕はないのだ。
シュンシュンと次々に姿を消していくミニオーク達。
最後の一匹はさすがに異変に気付いたようで、突進をやめて「ピギ……?」と小声で周囲を見回した。
「ピ、ピギギギ」
焦ったような声を出して回れ右をし、駆け出していく最後のミニオーク。
「逃がすか! 『コールドスピア!』」
咄嗟に魔法百科で見た氷魔法の名前を口にした。
俺の手元に氷の槍が生成される。
誤解していたが、これは勝手に飛んでいって仕留めてくれる便利な魔法じゃなかったようだ。
「くっ……当たれぇぇぇ!!」
渾身の力を込めて投げる。
魔素がアシストしてくれたのかどうか定かではないが、槍はまっすぐに飛んでくれてミニオークの背中に突き刺さった。
「ピギィィ」
断末魔の悲鳴を上げズゥン……と倒れ込む。
血は出ないもののピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。
「倒した……?」
近くに行ってのぞき込むと、コールドスピアが刺さっている場所は凍り付いていてそのおかげで血が流出しなかったようだ。
「よかった……。さて、収納するか」
シュンと収納し、脳内と向き合う。
『ミニオーク×13→???、ミニオークの死体×1』
まさかとは思ったがそのまさかだった。
生きたまま収納した奴ら、合成できるっぽい。
少し考えて、3匹だけ合成してみることにした。
『ミニオーク×3→オーク』
進化してしまった……。
そうなる気はしていたが、本当に進化するとは。
どうしよう。
「……ヒロムくん? どうしたの?」
「ん? ……なんでもないよローラ。さぁ、行こうか」
俺は何も見なかったことにした。
魔力切れから多少回復したローラと一緒に城壁周辺を回り、次々現れるミニオークやその他魔物を倒して歩く。
そうして50匹ほど倒した頃には俺はある程度戦闘の要領を掴み、生き物と戦うことにも慣れを感じ始めていた。
敵意を剥き出しにしてくる奴らに立ち向かっていると、心の中に不思議な高揚感が生まれてくる。
弱虫だった自分が、立ち上がろうとしている感覚だ。
殴られても蹴られてもうずくまって耐えるだけという、小さな頃からのセルフイメージが塗り替えられていく。
……なんだ。俺もやればできるんじゃん。
俺はずっと自分が嫌いだった。大人になってある程度のことは無難にこなせるようになっても、幼い頃の自分にずっと責められ続けているような気がしていた。
でも今の自分は……悪くないと感じる。
魔素のアシストあってこそだが、それはそれ。
俺は初めて、幼少期の自分から許しを得たような気がした。
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「ふぅ~。かなり狩ったな。今日のところは引き上げるか」
「うん……。ミニオーク、ぜんめつしちゃいそ」
「……だな」
どのくらい狩ったかというとミニオーク157匹。
その他だと紫紺蝶3匹、スライム50匹、バブル花25匹。
バブル花というのは周囲の草花に紛れて生息している、泡で攻撃してくる花の魔物だ。
具体的には泡を発生させて獲物をすっ転ばせ、目玉を狙って種を植え付けようとしてくる地味ながらなんとも嫌な生態を持つ水属性の魔物。どういう進化の道筋を辿ったらそういう生態になるのか不思議だったが、そんなことは俺の考えることではないのである。
「ヒロムくん、まりょくぎれしないの?」
「うん。平気」
魔力、持ってないからな!
「ほぇ~……すごい……」
「暗くなる前に帰ろう。もう向こうの空の色が変わってきてるから」
「あ、ほんとだ」
西(多分)の方角の空が白んできている。もう少ししたら赤く染まっていくのだろう。
夜になる前には孤児院に戻らないと。
そう思って門のところまで戻り、町に入った。
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「あら。史上最年少の冒険者さん。おかえりなさい。無事でよかったわ」
冒険者ギルドに戻ると代読のお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。
史上最年少……? そうなんだ。
子供でも構わないって言うくらいだから他にも子供の冒険者がいるんだと思ってた。
「って、あらぁ! ケガしてるじゃない! この切れ方――やだ、もしかして紫紺蝶に出会っちゃった?」
「はい」
「まぁ! 紫紺蝶は単独ならDランク相当の魔物なのよ。危なかったわね。っていうか、よく逃げられたわね」
「ハイ!」
何がハイなのか自分でも謎だが、倒したなんてわざわざ言わなくていいのだ。
「あ、お姉さん。つかぬことを伺いますが……オークって討伐ランクで言ったらどの辺りが適正ですか?」
「オーク? Cランクだけど……このクラスはもうちょっと魔界寄りに行かないと出ないわよ。どうして?」
「なんとなく」
Cランクなんだ。
ミニオーク(F)の一段上だからDランク向けかと思ってた。
「じゃあ、受付に言って買い取りに案内してもらいなさい。よく頑張ったわね、小さな冒険者さん」
「はい。ありがとうございます」
「きゃっ、かんわいぃぃ……!!」
なにやら楽しそうなお姉さんから離れカウンターへ向かう。
すると登録をした時のお姉さんが俺を見るなりやけにホッとしたような表情を浮かべた。
「おかえり……! どうだった? 初のお仕事は」
「まぁまぁ上手くいったと思います」
「そ。良かったわね。……私、自分が登録を担当した子が死んじゃったらどうしようって今日はそればかり考えてたけど……帰ってきてくれて本当に良かったわ。無事の帰還、おめでと。ヒロム」
「ありがとうございます。……で、どうしましょう? ミニオーク、いっぱい持ち帰ってきたんですけど」
「あ、そうね! そこの扉から裏庭に出ると精肉ギルドの人が常駐してる解体場があるわよ。その人に全部任せちゃって大丈夫。解体はもちろん、討伐数もその人がこっちに報告してくれるから。――で、何匹くらい仕留めたの? 5匹くらい?」
「いえ。157匹です」
「そう! 頑張ったわね! ひゃく……え? ごめんよく聞こえなかった。もう一回言ってもらっていい?」
「157匹です」
どうせ解体してもらわないといけないのだ。過少に申告すると後で自分が大変になる。
そう思って正直に言うと、お姉さんは「そう……157……匹」と呟いたきりフッと白目をむいて動かなくなってしまった。
「ヒロムくん……。あのおねえさん、どうしたんだろー……」
「さぁ……。行くぞローラ。あっちの扉だってさ」
「うん」
ローラの腕を引いて裏庭への扉へと向かった。
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