第18話:閑話っぽいまったり本編
「ぐちゃぐちゃになっちゃったね……ヒロムくん……」
「うん……」
初心者が弄り回したミニオークの死体は、肉が血と内臓でぐちゃぐちゃになってしまい食用として出せる感じではなくなってしまった。
でも魔石は見つけた。腹の肉の中に埋もれてた。
斧の先端、頭のところに尖ったナイフ状の飾りが付いていて、そこを使って魔石を切り出す。収納に入れると『クズ魔石(土属性)』と出た。
オークは土属性だったようだ。
「このコ……どうする?」
「……責任取って俺が食うよ。取れるとこだけになっちゃうけどさ」
道具が道具なのもあって細かい作業はできず、大雑把にでも取れそうな部分の肉を切り出して残りは燃やすことにした。
次からは素直に精肉ギルドに持ち込もう……そう思いながら魔力増強剤に使う血を小瓶に取り(シスターに借りてきた)残りは水魔法で洗い流す。
これからミニオークの体を燃やす。どうせ上手く解体できないんだから最初から精肉ギルドに持ち込めよって話なんだが、この世界で生きていくなら生き物を切り刻む経験が自分には絶対に必要だと思ったから。だから最初はどうしても自分で解体したかったのだ。
たまたま斧を入手していなかったら魔素との共同作業でやるつもりだったけど、自分の手を汚すという意味では武器があるならそっちの方がより目的に適っていたので使わせてもらった。
『フレイムアブソーブ』
魔法百科に載ってた火魔法の名前を呟くと、ミニオークの体が深紅の火に呑み込まれ一瞬で焼失した。骨も残らなかった。やっておいてなんだけど、強力すぎて怖かった。
「わ……すごい。ヒロムくん、ほんとうにすごいね。どうしてそんなにつよいまほういっぱいつかえるの?」
「コツがあるんだよ。自分の魔力じゃなくて、世界の力を借りるんだ。コツさえ掴めばローラも使えるようになるはずだよ」
「……もしかして、きのうゆってた“まほうのもと”ってやつ? それにおねがいすれば、わたしもつよくなれるの?」
「うん」
するとローラは空中をじっと見つめ、右手を前にかざした。
「……ふれいむあぶそーぶ!」
ぽひゅ、と熾火くらいの火が出てすぐに消えた。
それだけなら良かったのだが「あ……まりょくぎれ……」と呟き、へなへなと地面にへたりこんでしまう。
「まじか」
確かに魔素は半信半疑の状態では応えてくれないが――。
あ。もしかしたら、異世界人は魔素を認識して語り掛けたとしても自分の魔力が先に反応してしまう――とか?
今のローラの様子を見るにあり得そうな話だな。
だとしたら魔素直通方式は異世界人には難しいのかもしれない。
「大丈夫か?」
「すこしやすめば……」
「わかった。少し休もう」
門を出て割とすぐの場所で休憩となってしまった。
俺達は街周辺の探索が目的なので街道からは外れ、城壁沿いの草むらの中にいる。
適当なところに座り込むとさぁっと良い風が吹いた。
「……あ、ちょうちょ」
「ほんとだ」
綺麗な紫色の蝶がひらひらと目の前に飛んできた。
デカい蝶だなー。
キャンパスノートが飛んでるくらいの大きさだ。胴体もそれなりにデカくてちょっとキモイ。
デカいせいか、羽ばたくたびに風を感じる。
「ん? ちょっと……風、強くない?」
「そんな、きがする……っ!」
そよ風だったものが急激に突風へと進化した。
ローラは座ったままスカートをおさえてぎゅっと目をつむる。
突風は俺達を中心に渦を巻き、刃物のような切れ味をもって周りの草を刈り取り始めた。
「うわっ!!」
服がスパッと切れてしまった。皮膚もちょっと切れてる。
これ、風魔法か……?
そうだよな。ただの突風で切り刻まれてたまるかってんだ。
「なぁローラ! これ、魔物に遭遇してるんだよな!?」
「そうだとおもうぅぅ!!」
紫の蝶は俺達のはるか頭上でひらひらと羽ばたいている。まるで罠にかかった獲物を眺めて楽しんでいるかのようだ。
クソ、あいつ魔物だったのか!
どうやって倒す……?
あいつはきっと風属性だ。ならばその血を取りたい。燃やすのは無しだ。
時空魔法で停止させるのも無しだな。あんな上空で停止されても困るもん。
『――っ凍れ!!』
結局氷漬けにすることにした。
上空でひらひら羽ばたいていた蝶は瞬時に固まり、落下してきて地面に突き刺さる。
風がおさまって静かになったところで、俺は地面に突き刺さった蝶を足で蹴りパタンと倒して羽と胴体を斧で切り離した。
「ふぅー。びっくりしたー。まさかこんな魔物がいるなんて。ローラは大丈夫だったか? 怪我してない?」
「うん。だいじょぶだった」
シールドがしっかり守ってくれていたようだ。良かった。
収納魔法に入れると『紫紺蝶の羽×2』『紫紺蝶の胴体』と出る。
紫紺蝶っていう名前らしい。羽×2のほうが極上魔石(ゴリオに出さなかったやつ。最後の一個)と合成できるみたいな反応をしているが――しない。
興味はあるが、しない。極上魔石はローラのために使うんだ。
じゃないとシスターがトーマスと結婚してしまうからな。
「あ、ヒロムくん……ケガしてる。だいじょぶ?」
「ん? あー、このくらい平気平気」
「しんぱい……」
俺はローラの方が心配だけどな。
だってこれから魔物の血を飲まされるんだもん。
しかしローラ本人はまだその運命を知らない……。
ちょっとかわいそうだな。
どうにかして味とか見た目とかをマイルドにしてやれないかな。オブラートみたいな感じで。
心配そうに俺の腕を取り、ケガの様子を眺めるローラを見る。
するとふと、ザザザザと草をかきわけて走る音がした。
――こっちに向かってくる。
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