第15話:なかなか冒険に出られなくて困っている作者

 


 翌日、自由時間になると同時に俺は町に出て駆け出した。

 どこに向かってるのかって? それはもちろん『冒険者ギルド』だ。

 昨晩、シスターは言った。『冒険者の魔法使いクラス』だと。

 冒険者。その言葉がある以上、ギルドも存在するはずだ。多分だが、帰還者トーマスもそこに所属しているのだと思う。

 親の顔より見た冒険者ギルドというものの存在。ナーロッパあるあるが本当に全部あることに感動するが、ここまでくるとむしろそういったものが存在しない地球のほうが異常なんじゃないかと思えてくる。

 ともかく、『魔石』。

 俺にはそれが必要だ。どんなに小さくても弱くても、なんなら欠片でも構わない。

 魔石をたくさん集めて合成して、上位の魔石に変えていく。

 ついでに金儲けもできれば一石二鳥だ!


「冒険者ギルド? ああ、それならホラ、領主様の城が建つ丘があるだろう。その下の正面の建物がそうだよ」


「ありがとうございます!」


 町の人に聞いて、城のある丘に向かって駆ける。やっぱりギルドあった。

 予想が大体当たるのって異世界ラノベや漫画のおかげだな。オタクで良かった~。

 

「ヒロムくん。どこにいくの?」


「冒険者ギルドだよ――って、ローラ!? なんでここに!?」


「ついてきた」


 王女オーロラ様もといローラが俺の真後ろで走っていた。

 元気だな!?


「そっかー。体調はどう?」


「すごくいい。ヒロムくんのおかげ。でも、なんだか服がきのうよりおおきい気がするの。気のせいかなぁ」


「…………」


 気のせいじゃないんだな。

 でも大丈夫。魔力が増えたらこんな小細工は必要なくなるからね。

 だから、本当に縮んでるなんてわざわざ言わなくていいよな。


「ヒロムくんは、どうしてぼうけんしゃギルドに?」


「登録するためだよ」


「ふぅん」


「きっと面白いことは何もないよ。シスターのとこに帰りな?」


「うーん……。わたしもとうろくしたい」


「え」


「ヒロムくんがやること、わたしもやりたいの。……だめ?」


「だめじゃないけど……」


 どうしよう。

 王女と聞いてしまった以上、危ないところに連れて行っちゃだめな気がする。

 でも……この子、ぼっちなんだよな。俺と同じで。

 友達がいない環境でじっとしているより、多少でも気心が知れた人と外に出ていたいという気持ちは分かる。

 ……魔素にガッチガチに守ってもらえば大丈夫かな。

 別に俺も、魔界にまで行こうってんじゃないしな。近場でザコ魔物を相手に小さい魔石を狩りたいだけだ。

 仕方ない。ギルドだけでも一緒に行ってみるか。どうせローラも、いずれ女王になるかもしれないのなら心臓に毛を生やすくらい図太くならないといけないんだ。だったら俺と一緒にいるうちに色んなことを経験しておくのも悪くはないだろ。

 

「……いいよ。でも、大人に止められたら素直に諦めるんだよ」


「うん。ヒロムくんもね」


「俺はいいんだよ」


 そうこうしているうちにギルドに辿り着き、扉を開けて入り口をくぐる。

 ローラは腰が引けているのか俺の背中に引っ付いてそろそろと歩き、周囲のいかつい大人たちを見て「こわい……」と呟いた。


「すいませーん。登録したいんですけど」


「はーい。……あら? あなた達が? ごめんけど何歳?」


「……9歳くらい?」


 ついサバを読んでしまった。

 実年齢(25歳)でも見た目年齢(5~6歳)でもアカン予感がしたから、つい。


「ふーん……。9歳? それにしては小さいわね。そっちの女の子は?」


「……5さい」


「じゃあダメよ。ここはね、町の外に出てお仕事をする人たちのための場所なの。町の外ってこわーいのよ。2人とも、もうちょっと大きくなってからおいで」


 しまった――。

 9歳でもダメなのか。

 どうする? 登録は諦めて野良冒険者でもするか? でもそれだと収入にならないよな。どうせならついでに金を稼ぎたいんだが……。

 社畜としての意識が抜けない俺に背後から誰かが話しかけてきた。

 

「いいんじゃないか? お前、昨日道具屋で極上魔石を売ろうとしてたガキだろ。その力を使えば魔界はさすがに無理でもその手前までくらいなら大丈夫なんじゃないか」


 なんとなく見覚えのあるオッサンだった。

 オッサンの言葉に周囲はざわつき、受付のお姉さんも「極上魔石を……!?」と叫んで口元に手を当てる。


「ど、どうしてそんな大層なものを……?」


「もらったんです。ある人に」


 トーマスに、とは言えなかった。

 だってもらったのは本当は上魔石だけだもん。昨日はなんにも知らなかったから人目に晒してしまったけど、ここは冒険者ギルド。トーマスとの繋がりも深いはずのこの場所で堂々と嘘をつくのは憚られる。


「そんなものを他人にあげる人っているの……? で、でもまあ、自信があるのなら魔力測定だけでもやってみる? 装備品の魔力は除外されてしまうけど、あなたの本来の魔力が基準に達してさえいれば別に子供でも登録しても構わないのよね……。私は反対だけど」


「そうなんですか」


 なんと。俺達を帰そうとしたのはお姉さんの独断だったらしい。

 素直に帰るとこだった。危なかった。とんだ曲者に当たってしまったようだ。このお姉さん、美人だけどやや思想が強い。


「魔力測定、やってみます。お願いします」


 俺は魔力を持っていないが、ナーロッパお馴染みの『触れて反応するタイプの魔導具』システムであれば魔素に頼んで誤魔化すことは可能なはずだ。

 

「……分かったわ。はい、このカードに触れてみて。魔力量に応じた光を放ったあと、ランクごとの色に変化するわよ」


 お姉さんはそう言って透明なカードを差し出してきた。

 カード式か。ワクワクするな。

 それはさておき、先に答えを聞いておかないとな。

 じゃないと魔素に命令もできない。


「何色だったら合格なんですか?」


「緑色よ。ランクで言えばF。町の外に出るなら最低限Fランク程度の力はないと危険なの。下から緑、黄色、赤、青、ブロンズ、銀、金の順ね。基準に満たない場合は透明なままよ」


「へー。最低基準は『緑』ですか」


 今ので魔素への命令は完了。すかさずカードを手に取るとその瞬間ものすごい光の洪水があふれだした。


「きゃっ!」


「うおぉ!! こ、これは……!?」


 背後のオッサンたちまで巻き添えにして光り散らかしたカードは、魔素に頼んだ通りしっかり緑色に染まってくれた。

 しばらくして光がおさまった頃、お姉さんは光を遮っていた手をおそるおそる下ろして目を開く。


「い、今のは……? 見たことがないくらい強い光だったけど……」


「おいボウズ、何色になったんだ? くそ、眩しすぎたおかげでよく見えねぇや」


「もしかして、トーマスの銀より強い光だったんじゃないか?」


「金!? まさか!!」

 

 騒然とするギルドの中、全員の視線が俺の持つカードに集中して――やがて大勢の声がハモった。


「緑!?」


 

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ここまでお付き合いくださってありがとうございます!

僭越ながらお願いがございます。

おかげさまでただいま週間総合ランキング74位まで浮上しております。自分にとって初めてのことでとっても嬉しく思っております。

ですが! 贅沢を言うようで恐縮なのですが! この二度とない機会、もうちょっと上がってみたいんです!

つきましては下の★レビューを、どうか、お願いしたく存じます。

既に入れてくださった方、レビューコメントをくださった方、心から感謝しております……! ありがとうございます!

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