第13話:美幼女ローラに懐かれた
「あれ……? くるしくなくなってきた……」
「あっ」
まずい。
「え? どうしたの?」
どうしよう。
俺と同じ現象がローラにも起きた。
腫れだけじゃなく体も一緒に縮んでしまった……。
元々持っている魔素の受容体のおかげか俺ほど極端に小さくなった訳じゃないが、さっきよりもちょっと小さい。
誤差といえば誤差だが……大丈夫かな、これ。
「お待たせ! 布切れを持ってきたわよ――って、ええぇ!?」
シスターがローラの顔を見て声を上げる。
「なぁに?」
「ま、魔力飽和症が治って……!?」
へー、魔力飽和症っていうんだ、あの病気。
シスターは持っていた布の束を落とし、そっとローラの頬に触れた。
「信じられない……あんなに腫れていたのに、どうして急に……。成長で魔力量が増えたのかしら。それにしても急すぎるような。ヒロム。あなた、何かした?」
「特に何も」
「……ふーん?」
「……?」
何が起きたか分かっていない様子のローラの手をシスターは取り、ひざを床について声を震わせ呟いた。
「とにかく、よかったです……。私、嬉しいです。オーロラ様……」
「オーロラ様?」
ローラじゃなくて?
しかも、様って。
するとシスターはハッと顔を上げ、俺の方へと振り向いてきた。
「……今の、聞いた……?」
「はい」
「そう。……ヒロム、あとで私の部屋に来てくれる?」
「はい!!」
もちろん行きます!
元気いっぱいに頷くとシスターはふっと表情をゆるめ、再びローラに向き合った。
「わたし、どうなったの……?」
「お待ちください。今、ご覧に入れます。――どうぞ、こちらを」
そう言ってシュンと魔法で手鏡を取り出し、ローラに差し出す。
「……いや。わたし、かがみきらいだってゆってるのに……」
「ご覧ください」
有無を言わせぬシスターの圧に、ローラは渋々といった様子で手鏡を受け取りおそるおそる顔を映す。
「え……!?」
目がぱっちりと見開かれた。
腫れが消えたローラの瞳は深い青と薄い水色、それと少しの紫が混在したオーロラみたいな不思議な色で、光をよく反射して綺麗だった。
「なおってる!」
「はい。治っております」
「ねぇ、なおってるよ!」
「はい。とってもお美しいです、オーロラ様……」
鏡を凝視するローラの目からぽろっと涙がこぼれた。
「うれしい……」
シスターの言う通り、病気が治ったローラは大変かわいらしい顔立ちをしていた。これはあれだ、美幼女ってやつだ。
少し縮んでしまったが、それは顔の腫れが引いた方のインパクトが大きいせいか気付かれていないっぽい。良かったー。
きゅるる、とローラのお腹が鳴った。
彼女はお腹をおさえて恥ずかしそうな表情を浮かべる。シスターと俺は笑ってしまった。
「――ま、色々と話したいことはあるけど、まずは夜ごはんにしましょうか。話はそのあと。でもその前に、オーロラ様は着替えなくちゃいけませんね」
「よごれちゃった」
「吐血しましたからねー。ヒロム、悪いけどいったん出て行ってくれる?」
「はい」
「あ、ちょっと待って。あなたにも血がついてる。先に拭いてあげるからこっちにおいで」
そう言ってシスターは俺の腕を引き、しゃがみ込んで布切れで俺の顔を拭き拭きする。
……本当に美人だなー。
シスターはいつも頭巾(っていうのか? 名前は知らないけどシスターが被るアレ)で髪が隠れているから、どんな髪なのかは知らないけど瞳の色は薄い紫。唇はふっくらしていて淡いピンク色で、本当に美人で可愛いんだ。
「……ヒロム」
ふっくらした唇が動き、小さな声で話しかけてくる。
ローラに聞こえないくらいの小さな声だ。
俺も同じくらいの小声で答えた。
「なんですか?」
「治してくれてありがとうね」
「俺は何もしてませんよ」
「ううん。きっとそうよ。あなた、嘘つきだから……今回もきっとそうなんだわ。どうやったかは知らないけど、あなたが治してくれたんだと思うの。あなたって本当に不思議な子ね」
これ、褒められてんのか……?
わからん。
「……それと、極上魔石のこと……ごめんね。私、そんなものが混じってたなんて知らなかったの。知ってたらあんな小物に取り上げられないよう動けたはずなのに」
あ、混ざってたと思ってるんだ。
「いいんです。どうせ貰い物でしたから」
「ごめんね……」
口元にまで飛び散っていたローラの血をシスターは丁寧に拭い、それからポンと俺の肩に手を置いた。
「じゃあ先に食堂に行って食べてて。私とローラは着替えて行くから」
あ、ローラ呼びに戻った。
「はい」
頷き、一人で廊下に出て食堂に向かって歩き始める。
……オーロラ様か。
あの二人、かなり訳アリっぽいな。
良家のお嬢様ローラと、お世話係のシスターってとこかな。
あんまり他言しない方が良さそうだ。
食堂につき、みんな友達同士で固まってワイワイ食べている中、俺は一人で隅っこに座って黙々と食べる。
……泣いてないぞ!? この年(25歳)でボッチだからって泣くもんか。
しばらくすると誰かが「あれっ? あの子だれ?」と言った。
「えー? 新しい子?」
「……いや違うよ! あれ、ローラじゃない!?」
「うそぉ!?」
ざわざわと騒がしくなった。
着替えを終えたローラがシスターに連れられ、食堂に現れたのだ。
これまで人目につかないよう俯き小さくなって過ごしていたローラは今、堂々と顔を上げて歩き、ニコニコと笑顔すら浮かべて食事の載ったトレイを持ち俺の方へ向かってくる。
「かわいい……」
誰かがそう言った。
全員の注目を背負ったローラは俺の隣に座り、ニコッと微笑む。
「いっしょにたべよ?」
「……うん」
俺、もうすぐ食べ終わるんだけど……。
残り少ないスープをスプーンで少しすくって口に運ぶと、シスターが身をかがめて顔を俺に寄せ「あとで私の部屋に来てって言ったの覚えてる? 食べ終わったら来てね。話があるの」と耳打ちしてきた。
「はい。もちろんです」
くすぐったい。
……こうしちゃいられない! 早く食事を終えなくては!!
ソッコーでかきこみ席を立つと、ローラが「あれ? ヒロムくん、たべるのはやいよぉ。あとすこしいっしょにいて。おねがい」と言った。
うおおおおお!!(悶絶)
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