第9話:爆破


 不審な男達は、距離を詰めるでもなく見切れるでもなく絶妙な距離を保ったままついてくる。

 きっと人通りが多いからだ。人目がある場所では襲ってこない――のだとしたら、ここから教会までは近いので案外無事に帰れるかもしれない。

 が、それじゃあいつらに俺の住処がバレてしまう。

 教会にはたくさんの上魔石がある。その場所ではよくシスターが作業をしてる。

 このまま帰れない。

 

 あえて教会から離れ、しばらく歩いた後で適当な角を曲がる。

 と、人が少なく閑散とした通りに出た。

 

「――おい、そこのガキ」


 声をかけられた!

 勝てるか分からないけど、やるしかない……!

 腹を決め、背後に顔を向けたその時――


「あれ!? ヒロムとローラだ!」


 孤児院のクソガキ3人組が現れた!

 こいつらも町に出て遊んでいたらしい。

 クソ、なんでこんな時に!

 クソガキ共はこちらの不穏な空気に気付いていないようで、ニヤニヤしながら近付いてくる。

 

「あれぇ? お前ら仲良しだったっけ? 2人でなにして……もしかして、デート?」


「うわー! つきあってるー! この2人つきあってるー!」


 マジでクソガキだな。

 男は面食らったのか一瞬口をつぐんだが、すぐに気を取り直し俺に向かって抑え気味の声で「出せ」と言った。

 一方、クソガキ達は俺に構わずローラに絡み始める。おそらく言葉が通じない俺より、よりからかい甲斐のあるローラをターゲットにしたのだろう。

 

「ローラはヒロムとつきあってるんだ~!」


「ち、ちがうもん! そういうのじゃないもん!」

 

「ブスのローラと役立たずのぼっちヒロム、結婚しまーす!」

 

「だからちがうって言ってるでしょ! やめてよぉ!」

 

 さすがにひどい。

 振り返って止めようとした時、男は「オイ無視すんじゃねぇよ! 耳ついてんだろガキ!」と声を張り上げ俺の顔面を殴りつけてきた。


「結婚! 結婚――え?」


 手を叩いてはやしたてていたクソガキ達がぴたりと止まり、おそるおそる男を見上げてサッと顔の色を青くした。


「ヒッ……!?」


 気付くの遅えよ。

 

 俺は殴られたとはいえ魔素が守ってくれたおかげでノーダメだった。ふらつく程度の衝撃も感じない。

 平然としている俺の前で、男は拳が痛かったようで拳と俺を交互に見て信じられないものを見るような表情を浮かべた。


「な、なんだコイツ……! もうシールドの魔法を使えるのか!? その年で!」


 シールド?

 へー。そう呼ぶんだ。

 

 すると男の背後からもう一人、いかにも戦士風の男が現れ「油断するな。そいつは極上魔石を持っているんだ。既に装備しているのだとしたら、大幅に魔力がアップしていてもおかしくない」と言った。


 装備はしてないんだけどな……と思ったが口には出さないでおいた。

 余計なことは言わないに限る。

 

「そ、そうか。そうだったな。ガキだからって正攻法で行っちゃあ返り討ちに遭うってか。じゃあ丁寧に“お願い”しないとなぁ!」


 奴はそう言ってローラに手を伸ばした。

 人質を取る気か!

 俺は咄嗟に「その子に触るな! 触れた奴は全員弾き飛ばされるぞ!」と、魔素に向かって言った。


「へっ! その手に乗るかよ! ガキのシールドにそんな力がある訳――フベッ!?」


 バチィ、と音を立てて男は吹き飛んだ。優に3~4メートルは飛んで建物に激突し、ズシンと尻もちをついて動かなくなる。


「あーあ。だから言ったのに……」

 

「な、な」


 仲間の男は後ずさり、ローラから距離を取った。


「な、なんだお前は!? いくら極上魔石があるからって、それじゃまるで熟練の魔法使いじゃないか!」


「知るか! とにかくほっといてくれよ! 俺達に関わらないでくれ!」


「ぐっ……! そうはいくか! これほどの宝を前にしておめおめ立ち去るなど! ――はっ、そうだ!」


 そいつは横で硬直しているクソガキ3人組に目をやり、一番小さい奴の首根っこを掴んで持ち上げた。


「ヒイッ!?」


「これならどうだ! お前の友達だろ!? 無傷で解放してほしかったらしまい込んだモノ全部出すんだな!」


 そう言って手元にナイフを出し、小(暫定呼び名)の首元に当てた。


「シ、ショウ!!」


「ひひ卑怯だぞ! ショウを離せ!」


 本当にショウって名前だった。

 ショウは目を限界まで見開きガタガタ震えながらナイフを持つ男の手を引きはがそうとする。

 でも子供の力で大人の力に敵うはずもない。


「さあ、どうする? 持ち物を差し出すか、それとも友達を見捨てるか。どっちがお前にとって大事なのかな」


 持ち物に決まってんだろハゲ。

 大体、どこをどう見たら俺とそいつらが友達に見えるんだよ。クラスの全員をお友達の一言でまとめたがる幼稚園の先生か。

 

 そう言いかけたが、ショウがボロボロと涙を流しながら「お母さん……」と呟いたのが聞こえてしまい、何も言えなくなってしまった。

 俺が黙っている間にもボスの大と手下の中は果敢にも男に立ち向かい、脚にパンチを繰り出したり蹴ったりし始める。


「ショウを離せ!!」


「チッ……。うるせぇな。すっこんでろガキ!」


「ギャッ!」


 蹴り飛ばされて二人とも吹っ飛び、地面に倒れ込んだ。

 さすが戦士、子供とはいえ人間を持ち上げた状態でキックをかましたのに体幹が一切ブレてない。普通に戦ってたら絶対に勝てない相手だ。


「くそぉ……! ゲホッ、負けてたまるか……!」


 ボスの大が咳き込みながら起き上がろうとする。

 ……すごい奴だ。

 俺があいつだったらこの状況で立ち上がれるだろうか。

 多分、無理だ。ボスのボスたる所以を感じて少し尊敬の念が生まれてくる。

 

「……しょーがない。助けてやるか」


「あ? 何言って――」


 ――あいつの肘関節だけを爆破してくれ。

 魔素にそう伝えた瞬間、男の両肘で小さな爆発が起きた。


 

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