第5話:武器やアイテムは装備しないと意味がないよ!
※サポーターになってくれた方、ありがとう…!頑張って続き書きます!
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どくん、と心臓が高鳴る。
ロゼッタ・ストーンって……。
大英博物館にある翻訳の役に立ったというアレ――とはさすがに違うんだろうが、日本語と異世界語と極上の魔石を材料に作ったアイテムなんだから“そういう”アイテムってことでいいのか?
「縺ゥ縺?@縺溘?……?」
女の子が何か話しかけてくる。
相変わらずなんて言ってるか分からない。
収納魔法に入れたままだと意味がないのかな。
そう思ってこっそり手の中に出現させた。
幼い俺の手の中にすっぽりと納まるサイズの、小さな石の感触。
――これが、ロゼッタ・ストーン。
湧き上がる興奮をなだめて息を殺し、じっと耳を澄ます。
風の音。小鳥のさえずり。孤児院の子供達によるかしましいざわめき。
「……ねえ、だいじょうぶ?」
女の子の声。
思わずバッと顔を上げた。女の子の顔が目の前にあって、彼女はびっくりして肩を揺らす。
「な、なぁに……?」
分かる。
なんて言ってるか、分かる……!
今まで生きてきた中で一番というくらいの感動が押し寄せてきて、少し震えた。
目の前の景色は何も変わっていないのに、世界の色が丸ごと変わったような、そのくらい大きな変化を感じたんだ。
……あかん、泣きそうだ。
俺はロゼッタ石・ストーンを握りしめ、涙で滲む目を隠すように下を向いた。
「ねえ、具合わるいの……? シスターのところにいく?」
「ううん。違うんだ。ちょっと感動しちゃって。……もう、大丈夫だよ」
女の子が息を呑んだ。
俺と言葉が通じることに驚いたみたいだ。
「え? ことばが……え? え?」
「驚くよね。俺も……びっくりしてる」
あふれる喜びを伝えたくて、俺は魔素にお礼を言った。
「ありがとう」
空気が少し震えた気がした。
応えてくれた……? 伝わったのかな。
女の子は自分に言われたのだと思ったようで、「わ、わたしはべつになにも……」と謙遜している。
そうだ。この子にもお礼を言わなきゃ。
「本当にありがとう。……えっと、名前を聞いても?」
今気付いたけど、俺、この子の名前も知らなかった。
いくら言葉が分からないからって、名前も聞かずにいたのは良くなかったな。
女の子はどぎまぎしながら「なまえ……は、えっと……ローラだよ」と言った。
「そっか。ローラか。ありがとな、ローラ」
髪と同じ濃紺の色をした目を見てお礼を言うと、ローラは少し頬を赤くしてうつむいた。
「あんまり、かお見ないでほしいな……」
「あ、ごめん。でも挨拶とかお礼とかはしっかり目を見て言えって教わって……いや、ごめん。ローラは嫌なんだよな。それなら言う通りにしたいけど……でも、さっき言ったろ。かわいいって。だから」
そんなに気にしなくていい、と言おうとしたのだが、ローラは「え?」と。「かわいい……?」と言って目を見開いた。
「うん。かわいいよ」
すると彼女はかぁーっと顔を赤くして固まってしまった。
ぽろ、と涙が流れ出る。
「そんなわけ……ない。だってわたし……」
「ううん。ローラはかわいいんだよ。それに優しい。だから、もっと堂々とすればいいのにって思ってた」
本心だ。
でもローラは涙ぐむ目でキッと睨んできて「うそつかないで! そういうの、もううんざりなの!」と叫ぶように言って走り出し、建物の中に入って行ってしまった。
怒らせてしまった……。
「嘘じゃないんだけどな……」
俺の幼少期、いじめっこの中には生まれつき顔に大きなアザがある奴がいた。
でもそいつのアザを気にする奴なんか本人含めて誰もいなかった。そういうものなんだ、と誰もが思ってて、からかうなんて発想すら無かったんだ。
もっともこれはそいつが男で、その上で幼く閉鎖的な環境だったからであって。
大人になるにつれてそうはいかなくなっていくんだろうが……。
今まさに幼く閉鎖的な環境で暮らしているんだから、本当に誰も気にしてないと思う。本人以外は。
……まぁ、他人が言ってもしょーがないか。
それはともかく、ロゼッタ・ストーンだ。
これ、持ってても収納魔法に入れてたら効果が無いっぽいんだよな。脳内リストに浮かんでても手の中に出すまではローラの言葉が分からなかったもんな。
『武器やアイテムは装備しないと意味がないよ!』ってやつだ。
ゲーム内でこのアドバイスを受けた時は「当たり前だろ何言ってんだこの村人」くらい思っていたが、実際にそういうシチュエーションに遭遇するとは思わなかった。
でも――装備って。
どうやって?
手のひらを開くと少しいびつな形をした真っ黒い小石がころんと転がる。
ずっと握ったまま生活するのは現実的じゃない。
紐か何かを通せれば首にかけたりできるんだろうが……穴なんて開けて大丈夫なのか?
いやそれ以前にこんな小さな石に穴を開ける道具が無い。あったとしても、下手に実行すれば割れてしまいそうだ。
現実には難しい。なら、魔法の力だったらどうだ……?
そう思った俺は部屋に戻って鞄を出し、紐として使えそうなものがないか探した。
紐か何かと合成すれば装備できるようになるんじゃないか? そう思ったのだ。
でも紐なんか持ってなかった。
「クソ! このさい金属でもあれば鎖に変えて――って、そうか、金属か」
金属をかき集めて合成すれば、鎖くらい作れる気がする。
幸いここは清貧を貫く教会の孤児院。子供が壊したものは買い替えたり業者に修理を頼むのではなく、自前で修理している。
つまり、釘などの金属製品は意外と持ってる!
俺はシスターのところに行って「あの、釘があったら何本か分けてほしいんですけど」と言った。
するとシスターはガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。
「え!? ヒロム、なんで言葉が……!?」
あ、そうだった。
どうしようかな。説明がめんどくさいな。
「覚えました」
「う、うそでしょ!? 絵付きの本、ついさっき渡したばかりじゃない!?」
シスターってこういう話し方をする人だったんだ。
もっとおしとやかな言葉遣いかと思ってた。想像よりちょっとギャルっぽい。
「ローラの教え方がとても良かったんですよ。分かりやすくて」
「そんなレベルじゃないわよね!? ローラより上手に喋ってるじゃない! ……で、何の話だったっけ。釘? 何に使うの?」
意外と切り替えが早いシスターに好感度が急上昇しながら答える。
「ちょっと工作に」
「工作ねぇ……。別にいいけど、ついでに脚がガタついてる子供用の椅子を直しといてくれない? みんな使い方が荒くてすぐに壊しちゃうのよね。……できる?」
「はい。多分できます」
「ふーん……できるんだ。オチビちゃんのくせに」
ふと、シスターの目が据わったような気がした。
なんだよ……。頼んできたのはそっちだろ。
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