第19話 卒業、そして未来へ
あの会議室での出来事があって以降、時間はあっという間に過ぎ去っていった。
太陽町は台風によってかなり荒れてしまったが、みんなで力を合わせてどうにか立て直すことができた。
これまでと同じようにはるとが全体の状況を確認し、作業スケジュールを立てた。
それをもとにあさひがみんなに指示を出し、あちこち忙しく飛び回った。
ひまりの畑で収穫間近だったトマトは、残念ながらキズがついてしまったり実が落ちてしまっていたが、トマトジュースとして再利用することができたので、ほとんど無駄にしないで済んだ。
正式に町おこしとして採用されたことで、うわさを聞き付けた地域の人たちも続々と集まりはじめ、僕たちに色々なことを教えてくれた。
そのおかげで子供と大人、そして年配の方々との世代を超えた交流が更に深まった。
太陽町では引き続き本物のお金ではなく『ありがとう券』が通貨の役割を果たしていたので、おつかいの練習にもなると特に子育て世代の大人たちから大評判だった。
そして夏が終わり、季節は巡り春が来た。卒業の季節―――
はるととあさひは、太陽町の北の方角にある展望台のベンチに座っていた。
「まさかあのじいさんが、元町長さんだったとはなぁ。俺には全然そうは見えなかったけど」
「実るほど頭を垂れる稲穂かな。ってやつじゃないか?」
「何だそれ?だんだん眠くなってきたって話か?」
「徳を積んでいる人は威張ったり偉そうにせず、接し方や態度が穏やかで丁寧ってこと。お前、本当に何も知らないんだな」
「ふーん。相変わらずはるとは色々難しいことも知ってるんだな。マジですげーや!っていうかさ、ついさっき卒業式も終わったことだし、記念にみんなで写真撮ろうぜ!」
「そうだな。さっそく太陽町に行って町一番のカメラマンに撮ってもらうか!」
二人は展望台の上にいたひまりを誘うと、太陽町にある『写真館ゆうひ』へと向かって三人で歩き出した。
「ゆうひちゃん、大賞受賞おめでとう!本当に素敵な写真だったわね!」
「何度も言いますけど、それは私が凄いんじゃなく素材が良かっただけですって」
あさひの妹のゆうひは、町おこしの宣伝に使うための写真コンテストに応募して、見事大賞に選ばれた。
その写真は、ゆうじ君のおじいちゃんが小さな子供と一緒に竹トンボを飛ばしている瞬間を写したものだった。
笑顔で青空を見上げるおじいちゃん、勢いよく飛んでいく竹とんぼに喜ぶ子供、そばで優しく見守っている両親。
その背景にはゆうじ、ゆういち兄弟が力を合わせて一生懸命に竹とんぼを作っている様子が写り込んでいる様子は、まさに太陽町の理想の姿そのものであった。
「では早速、展望台エリアで撮りましょうかね!お兄ちゃん、寄り道して遅れないでね?」
「やっぱりヒーローごっこマンとは違って、ゆうひちゃんは頼りがいがあるなぁ」
「うんうん、さすが次の町長に指名されただけあって、ゆうひちゃんはリーダーシップに満ち溢れているわね!」
「いやいや、私だけじゃなくてはると君の妹とか、ひまりちゃんの弟に助けてもらっているからなんとか頑張れているんですよ!はるとさんとひまりちゃんが作ってくれたこの町を、今度は私たち三人が全力で守りつつ発展させていきますからね!」
「あのー、ゆうひちゃん?お兄ちゃんも頑張ったんだけど褒めてくれないのかな?」
三人は何も聞こえなかったかのように、展望台エリアへと歩き始めた。
「あっ……ひ、ひまりちゃん!ちょっと、いいかな?」
「あさひ君、何か用?早く行かないと、またゆうひちゃんに怒られちゃうよ?」
あさひはひまりを呼び止めると、大きく一回深呼吸して話し始めた。
「ところでさ、もし良ければなんだけどさ、今度ひまりちゃんと俺の二人で川に遊びにでも行―――」
「ゴホン。そのお誘いは、カナヅチのひまりには効果ないと思うぜ?」
耳を赤くして必死に喋っているあさひを遮るかのように、またはるとが会話に割って入ってきた。
「な、ん、で、こ、こ、に、い、る、ん、だ、よーっ!!!」
あさひは、またわざとはるとの肩にぶつかり足を思いっきり踏んづけながら走り去った。
恥ずかしそうに悔し泣きしながら去っていく兄をゆうひが笑いながら撮影していた。
「パシャ。これが青春……ってやつですか!羨ましい」
四人は何だかんだ遠回りをしながらも展望台エリアに辿り着くと、町を背景に写真を撮った。
『ぼくのまち』から『ふたりのまち』、そして『太陽町』へと成長を遂げた町は、もう僕らの手を離れて『みんなのまち』として力強く呼吸し成長し続けていた。
役目を終えた三人は、嬉しいような寂しいような、何とも言えない気持ちでしばらくの間、町を眺めた。
そして、色々あった出来事を一つ一つ思い返しては笑い合い、語り合い、最後にまた静かに町を眺めた。
昼間に到着したはずが、町はもうすっかり夕焼けに包まれていた。
「さぁて、次は俺様の城でも作っちゃいますかー!」
「そうね。あさひ君ならそう言うと思ったわ」
「僕らは遊園地作りが忙しいから、お前は城作り頑張れよな。それじゃあまたな!」
「ゆ、ゆうえんちだとー?き、聞いてないぞ?詳しく教えろよーっ!」
こうして三人は『みんなのまち』をゆうひ達に託して新たな旅に出た。
夕日に照らされた三人の後ろ姿は、ほんの少し前よりも何倍も大きく見えた。
ゆうひは、パシャっと一枚だけ写真を撮ると、大きく手を振った。
おしまい。
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