第18話 逆転ホームラン
「おや?もう会議は終わってしまったのかな?」
みんなの視線の先には、しげじいが立っていた。
思わぬ人の登場に大人たちが仰天した。
「し、しげさん、なんでここに居るんだ?」
「し、しし、市長ではないですか、何か、ご、御用でしょうか……?」
しげじいは、にこやかな表情で右手を横に振りながら入ってくると、おもむろに空いている席へフラッと腰かけた。
「昔はそんな風に呼ばれていたこともあったかのう。じゃがワシは今、ただの一人の町民じゃ。ところで今日は、どんな結論に至ったのかを聞かせてもらえるかい?」
大人たちは慌てて席に座り直すと、お父さんが代表してこれまでの経緯と決定した処遇について説明した。
「ほぅ。これが子供たちの度が過ぎた悪ふざけだったならば、当然の結果じゃな。そうせざるを得ないのは、確かにその通りじゃのう」
大人たちは、自分達が決めた処遇が間違っていなかったと確認できて、ホッと肩をなでおろした。
「しかし、これはワシがお願いして彼らにやってもらったことじゃから、ワシも一緒に罰を受けないといかんなぁ。ワシも当事者なわけだし、じいさんだからといって、特別扱いはできないもんなぁ」
大人たちは、仰天して肩をキュッと上げ、ザワザワと慌て始めた。
「ご、ご冗談を……これは子供たちが悪ふざけでやったことであって―――」
「確か、あなたは役所に勤めているはると君のお父さんだったね。君は一体、何を言っているんだね?」
「……」
「今回の件はキミが一番よく分かっていて、一番熱心に取り組んでいたはずのことじゃなかったのかい?」
大人たちがざわめきだした。
一体、何が起こっているのか分からなかった。
はるとは、ひまりとあさひと三人で顔を見合わせた。
「あぁ、すまんすまん。みんなを置いてけぼりにしてしまったのう。実はな―――」
しげじいがポツポツと話しだしたので、大人たちも僕たちも静かにじっと耳を傾けた。
しげじいの話によると、どうやら少し前からお父さんが責任者となって始めた『町おこし』の一環として三丁目広場を有効活用する方法を募集し始めたことをしげじいが偶然、聞いたことが始まりだったらしい。
しげじいは、しばらく町おこしの動向を気にしていたけど、全く意見が集っていないらしいと聞いて現地へ出向いてみると、責任者の息子であるはるとがスコップ片手に作業していたことから、もう何かしら決まっていて既に動き出しているのだと勘違いしてしまったのだという。
「すまんのう、ワシがよく確認しなかったのが悪いんじゃ。申し訳ない」
しげじいは、膝を痛そうにさすりながら重い腰を上げて立ち上がると、申し訳なさそうな表情で深々と頭を下げた。
「しげさん、お願いですから頭をあげて楽にしてください!」
大人たちはドタドタと立ち上がると、これ以上しげじいに恥をかかせまいと慌てた。
それでもしげじいはしばらく頭を下げ続け、その後やっと座ったので、大人たちも続けて座った。
「ところではると君のお父さん、子どもたちが作った町の様子をちゃんとご覧になったのかね?」
「はい。現場に行って確認してきました」
「じゃあ、キミにはどんな風に見えたかな?」
「子供たちはみな、とても活き活きした表情でした。町には小さい子も、大人も、ご年配の方もいて、まるでお祭りをしているかのようでした」
「それはつまり、キミが思い描いていた『町おこし』そのものではないのかい?」
「その通りです」
「じゃあ、彼らがやってきたことは『町おこし』としての取り組みだった。だから処罰を受ける必要はないし、引き続き進めていく。これでいいんじゃないのかね?」
「おっしゃる通りでございます」
しばらく沈黙が続いた後、どこからともなくパチパチと拍手の音がした。
続いて他の人たちも拍手し、会議室は拍手に包まれた。
誰からも反対意見が出ることなく、満場一致の大団円で解決した瞬間だった。
ロボットだった僕の心に温かいものが戻ってきたのが分かった。
はるとは、ひまりとあさひの手を取って一緒に飛び跳ねて喜んだ。
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