第15話 シンギュラリティ
「えー、お集りの皆さん、どうも。太陽町へようこそ。こ、この町の名前は太陽町と言い、ぼ、僕が考えて、ひ、ひまりが…」
「おいおいはると、長いわ!校長先生の挨拶かよっ!ハニワはハニワらしくそこに突っ立っておけばいいんだよ」
太陽町には既に二十人ぐらいの友達が集まっていた。
ここにいる奴らはみんな太陽町の噂を聞きつけて集まってきた新しい仲間達だ。
小さな声で演説するはるとを見て、みんなが静まり返っている様子だったので、あさひは演説台代わりに置かれた木箱の上に立っているはるとを押しのけ、代わりにお気に入りの赤いマントをバサッとなびかせて自分が立った。
「ということで、この町の最強の町長こと、あさひです!みんな拍手ーっ!」
二、三人から小さくパチパチと手を叩く音が聞こえ始めたかと思うと、すぐに静まり返った。
「ってかさ、この町って色々あるんだろ?俺、おもちゃ屋やりたいんだけど!」
「ちょっと待て、俺もおもちゃ屋やりたいからじゃんけんな?」
「あ、私はお花屋さんやりたーい!」
「んじゃあ、俺は力あるし開拓でもしようかな。道具はどれ使ってもいいの?」
ざわめき立つ様子を見て三人は少し驚いたが、お互い目を合わせると小さくうなずいた。
あさひは自分から演説台を降りると、今度はひまりがひょいっと乗った。
「町の全体像ははると君、役割分担は私、作業指示はあさひ君に聞いてね!とりあえず、各自作業開始っ!」
ひまりの合図と共に、三人の元に雪崩のように新たな仲間たちがドッと押し寄せた。
まるで、満員電車に押し込められたかのようになった三人は、同時に好き放題喋る新たな仲間たち相手にパニックになりながらも全力で対応した。
一通り対応し終えて、一息つける程度にまで落ち着いた頃には、もう夕方になっていた。
「おーい、今日はここまでー!明日も各自、好きなようにやってくれーい。では解散っ!」
あさひが大きな声で太陽町めがけて叫ぶと、新たな仲間たちはパラパラ帰り始めた。
三人はみんなが帰った後、借りた道具が置きっぱなしになっていないか、一通り歩き回って確認して回った。
確認を終えた頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
「やっべ、もう塾始まってる時間じゃん!い、急がなきゃ。じゃあまた明日な!」
「あっ、俺も今日は夜ご飯作る当番だった!やっちまったー、また明日な!」
「私も走らないと門限に間に合わないや!もう喉カラカラだし無理かもー。また明日ねっ!」
三人はもっと今日のことや、これからのことを色々と語り合いたかったが、余韻に浸っている時間どころか、ろくに挨拶を交わす時間すらも残っていなかった。
三人はそれぞれ別々の方向へ走り出すと、はるとは服に着いた泥を落としながら全力で塾に向かって走った。
その時、遠くの方からこっちの様子を伺っているかのような視線を感じたので、その方向を見ると、一台の白い車が停まっていた。
薄暗さのせいで誰なのかは分からなかったが、こっちを見ている気がする。
確かめる余裕もなく、はるとは駆け抜けた。
なんだか妙な胸騒ぎがした。
夏休みということもあり、翌日もその次の日も町は仲間たちで賑わっていた。
むしろ、日を追うごとに人数がどんどん増えている気がする。
気が着けば、三日目にははるとの計画通り続々とお店がオープンしていた。
それだけではなく、計画にはなかったリサイクルショップやダンススクール、学習塾までもがオープンし、町は更に賑わい始め、独自の進化を遂げ始めていた。
「たったの数日でここまでデカくなるとはなぁ。さすが俺様の手下たちはどいつもこいつも優秀な奴らばっかりだぜ!」
「いやいや、手下じゃなく大切な仲間、お友達でしょ?だけど、本当にあさひ君はすごいと思う!私とはると君だけじゃ、きっとこんなに人が集まらなかったもん。ありがとねっ」
「ま、まぁそうだよな、仲間だよな。と、ところでさ、もし良ければなんだけどさ、今度ひまりと俺の二人で川に遊びでも行か……」
「あー、今日も暑っちいなぁ。ひまり、僕のノート取ってきてくれない?」
耳を赤くしながらも勇気を振り絞って喋り出したあさひを遮るかのように、急にはるとが会話に割って入ってきた。
「それぐらい自分で行きなさいよ?あ、あさひ君ごめん、話は何だったっけ?」
「あ、俺呼ばれていたんだった!じゃあまた後で!」
「そう。じゃあ続き頑張ってねー!」
あさひは、わざとはるとの肩にぶつかり足を思いっきり踏んづけながら走り去った。
はるとはとても痛かったが、やせ我慢して何事もなかったかのよう振る舞った。
その時、町に風が吹き抜けた。
確か、天気予報によると、大型の台風が近づいているらしい。
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