第14話 みんなのまち
もう夏休みに入っていた。三人は、それぞれのやり方であり券を使い続けていた。
最初は感謝の気持ちを言葉にするのが恥ずかしいと感じていたはずが、いつの間にか自然と言葉にできるようになっていた。
しかし、あり券を使いきるのに精一杯なあまり町づくりは止まってしまっていたので、三人は久々に作戦会議するために太陽町に集合してから無人販売所に来ていた。
「いやぁ、楽勝楽勝ぉ!やっぱり俺様が一番に使い切ったみたいだな!」
「私は、あと三枚かな」
「僕は、あと十枚。だけどさあさひ、使い切れるって、なんだか変じゃないか?」
「いやいや、変じゃないだろ。何枚かは戻って来たけど、使い切れたぜ?」
「「そっかぁ」」
はるととひまりは、あさひの一方通行の感謝がいつかは相互通行になったらいいなと祈りつつ、それ以上言うのをやめた。
「えっと、久しぶりに私が作った小物を無人販売所に売りに来たわけだけど、これからはどうやって町づくりを進めていこうか今日は作戦を考えたいと思います!」
「正直、俺ら三人の手には負えないというか……時間も人手も全然足りないんじゃないか?そこらへん、ハニワ君はどう思うよ?」
はるとは、無人販売所の前でしばらく考え込んでいた。
町の規模を縮小するのか、人を増やすのか。それとも場所を変える…?
いや、きっとしげじいならもっと違う考え方をするはずだ。
はるとはもう一度、あり券の意味を考えることにした。
「……あぁ、いたいた!やっと見つけたぞ!多分、キミたちじゃろ?」
急に話しかけられてビックリした三人は声のする方に視線を向けると、そこには知らないおじいさんがこっちに向かって歩いてきていた。
「野菜の苗とあと……あぁ、そうそう。確か農具じゃったよな?ほれ、準備してあるから着いといで」
―――この人は一体、誰なのか?
そして、なぜ自分たちが欲しがっているものを知っているのか?
疑問だらけだったが、三人はとりあえず着いて行くことにした。
「あのー、おじいさんはどうして僕達のことを知っているんですかね?」
「あぁ、悪い悪い。言っておらんかったのう。ワシはゆういちのじいちゃんじゃ」
「ゆういち?」
「ゆういちからお前さんたちのことを聞いてのう、ウチに余っているのがあったから、お前さんたちを探しておったんじゃ」
三人はますます混乱した。
誰もゆういちという男の子に心あたりがないからだ。
「ほれ、着いたぞ。裏の農具入れのとこにあるから好きなだけ持ってけ。あ、道具は使い終わったら戻しておくんじゃぞ?んじゃ、頑張れぃ」
「あれ?ここって確か、ゆうじの家じゃん!」
ゆうじは、あさひのクラスメイトだ。
あさひはゆういちという人に会ったことはなかったが、恐らくゆういちというのは、名前から考えるにゆうじのお兄さんらしい。
おじいさんの正体が分かったことで一安心した三人は、ご好意に甘えて野菜の苗をいくつか貰い、町づくりに使えそうな道具を借りていくことにした。
「お、あさひじゃん!お前、俺ん家で何してるんだ?」
「おー、ゆうじか。お前のじいちゃんに世話になっているところだ。ところでお前、兄ちゃんいるのか?」
「あぁーそういうことか!いるよ。俺が兄ちゃんに話をしたんだ。そしたら、それがじいちゃんに伝わったみたいだな。お前ら、それから町づくりは順調に進んでいるのか?」
「な、なんでお前がその事を知っているんだ……?」
「なんでってお前、みんなとっくに知っていることだぞ?お前の方から俺らに向かって散々、無駄にデカい声で自慢げに言いふらしてきたんじゃないかよ!」
はるととひまりは、ぎょっとして顔を見合わせた後、あさひに冷ややかな視線を送った。
「あれー?そうだっけー?まぁ、知られちゃったものはもう仕方ないよな?うんうん、仕方ない!あ、そうだゆうじお前、クラスの奴らとかこの事知ってる奴らとか、とにかく片っ端から声かけて、俺の秘密基地に集合させてくれ!ってことで、よろしくなー!」
あさひはそのまま逃げるように秘密基地へと走り去って行った。
はるととひまりは、もう選択肢は一つしか残されていないと分かっていたが、その場にしゃがみ込んで緊急会議を開くことにした。
「太陽町史上、最大のピンチですぜ?はるとさん」
「あぁ。これは太陽町の歴史の最後の一ページになるかもな。ひまりさん」
「このピンチ、どうやって回避します?はるとさん」
「そんなもん、決まっているだろひまりさん。回避なんてするつもりはないさ!これはピンチなどではない!これは、太陽町の歴史を締めくくる最後の試練であり、チャンスなんだ!!!」
そう言うと、はるとは目の前に置かれていた使えるかどうか分からない道具を両手いっぱいに抱えられるだけ抱え始めた。
「ほら、ひまりは苗を持て!早くしないとみんな待ちくたびれちまうぞ?」
「ぼくのまち、ふたりのまち、そして太陽町……どれもいい町でしたなぁ。はるとさん。太陽町、今日までありがとう!」
二人は両手いっぱいに苗と道具を抱え込むと、太陽町へガニ股でノシノシと歩き出した。
一歩一歩進むごとに重さで足が止まりそうになってくる。
しかし、二人は希望に満ち溢れた表情で目をキラキラか輝かせていた。
太陽町は今日で終わりになってしまうだろうけど、またここから新しい歴史が始まると信じていたからだ。
終わりというものは悲しいことばかりではない。何かが終われば何かが始まる。
終わりが始まりを呼び、始まりが私たちに希望を与えてくれるのだ。
はるとは、そんなことを何かの本に書いてあったなと思いながら一歩一歩、太陽町へと向かって歩いた。
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