第11話 お金を稼ぐ理由

 それから三人はしばらくの間、しげじいから昔話を聞かされた後、こんな質問をされた。


「……ところで君たちは、どうして物を売っているんだい?」


 はるととひまりは、ギクッとした。

 町づくりの道具や野菜の苗が欲しいためだと正直に言えなかったからだ。

 二人は目配せして、どう取り繕うか必死に言い訳を考え始めたが、アイツの存在をすっかり忘れていた。


「そりゃー町を作るために決まってるでしょ!」


「お、おい、あさひ!それは言っちゃダメなやつだろ……」


「あっ、なーんちゃって。あははー」


 時すでに遅し。一旦、口から発せられた言葉というものは取り消しが効かない。

 本当にコイツは余計なことばかりするやっかい者だなと思いながら、はるとは深くため息をついた。


 どうにか誤魔化せないかとも考えたが、はるとは正直に自分たちの計画と、何が困っているのかを正直に話すことにした。

 きっと心のどこかで、しげじいなら助けてくれるのではないかと無意識のうちに考えていたのかもしれない。


「……というわけで、僕たちは町づくりに使うお金を稼ぐために売っていたのです」


 しげじいは、静かにうんうんと頷きながら黙って最後まで話を聞き、しばらく考えてから口を開いた。


「つまり、キミたちはお金そのものが欲しかったのではなく、道具や苗が欲しかった。というわけなんじゃな?」


「えーっと、そうですね」


「ガッ、ハッ、ハッ。それならお金を稼ぐ必要なんてないじゃないか!」


「「「ん、それはどういうこと?」」」


 三人は理解できなかった。

 どうして道具や苗を手に入れたいのにも関わらず、お金を稼ぐ必要がないのか?

 三人はしばらく考え込んだ。


 手作りするってこと?いや、道具も苗も作れない。

 しげじいが買ってくれるってこと?いや、多分それも違う。

 しばらく考えてみても答えは出なかった。


「ガッ、ハッ、ハッ!その様子じゃと、まだ分かっていないようじゃな。明日、ワシがいい物を持ってくるから、またここに集合しておくんじゃぞ。そこで正解を発表しようじゃないか!」


 そう言い残すと、しげじいはガッ、ハッ、ハッと笑いながら行ってしまった。

 三人は、ひとまず怒られずに済んだことに安心し、ホッと胸をなでおろした。

 そして、改めてしげじいの言っていた”いい物”とは何かを考えた。


「きっと銀行でお金を引き出してくるに違いない。十万円ぐらい!」


「あさひ君、さすがにそれはないって……」


「きっと古くなった要らない道具を譲ってくれるんじゃないか?」


「はると君、それ正解かもね!あ、だけどそれじゃあ苗はどうするんだろう?」


「そこらへんに生えてるのを適当に持ってくるんじゃねーの?」


「いや、野菜の苗はそこらへんに生えてないから!それ、ただの泥棒じゃん!」


「まぁ、結局のところ明日になれば分かるんだし、今日はもう解散しようぜ」


 三人はそれぞれ”いい物”とは何か?の答えが分からないまま夜を迎えたのであまり眠れずに少し睡眠不足気味になった。

 そして三人は、約束通り同じ時間に無人販売所に集合してしげじいが来るのを待っていた。


「やっぱりさぁ、お金だと思うんだよなー。だって、お金があれば何でも買えるし便利だろ?余ったらお菓子買おうぜ!お菓子!」


「私、マシュマロがいい!チョコレートだと溶けちゃうし、飴はベトベトになっちゃうからマシュマロで決まりでしょ!」


「いやいや、ひまりまで何を言い出すんだよ……そこはやっぱりせんべい以外あり得ないっしょ!」


「お前もノッてくるんかーい!ってか、せんべいってお前、じいさんかよ!」


 待っている間、三人で冗談を言い合って楽しく過ごした。

 しかし、結局のところしげじいが何を持ってくるのか全く検討がつかないままだった三人は期待と不安で胸のドキドキが止まらなかった。


「しげじい、早く来てくれないかしら」


「もうすぐ来るだろ。大人しく待ってようぜ」


「俺、ちょっとそこまで走って見てくるよ!」


「いや待て、どっち方向からくるか分からないし大人しく待つべきだ」


「ちぇっ、俺もハニワ君みたく固まって動くなって言うのかよ。それは無理だ」


「ちょっと二人とも、ケンカしないで大人しく待ってようよ!もう来るだろうしさ」


 さっきまでの楽しかった空気は、ソワソワした気持ちによっていつの間にかギスギスし始めていた。

 そんな時、やっとしげじいらしき人が歩いてくるのが見えた。

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