もうひとつの禁忌

(二日前。牛込の部屋)


「牛込、見てくれよ。この壺は本物だぞ」


「何が本物なんだよ」


「これに水を満たしてはならない。その者は必ず死ぬ、ってさ。スゴいだろ」


「バカか。そしたら何の役にも立たないじゃねえか」


功刀は旅行から帰るとまず俺の部屋に来て、戦利品を見せびらかす。


「こっちはどうだ。ルビーの原石だ。売ってやろうか?」


「要らないよ。どうせニセモノだろ」


「本物だよ。手に取ってみてみろよ」


「どうだか。これも呪われてるのか?」


 俺は薄汚い布の袋を逆さに振って、中身を左手に受けた。

 一見したところ普通の石ころだが、真っ赤な結晶がわずかに顔を覗かせていた。


「へえ、綺麗だな」


 俺は赤く艶やかな結晶のところに指で撫でた。


「触ると人が殺したくなるんだってよ」


「馬鹿野郎。先に言え」


 そのとき、ルビーが俺の手の中で鈍く光ったような気がした。


「これ、いくらだ」


「マジかよ。そうだな、牛込なら二千円でいいや」


 代金を払うと、俺はルビーを袋に戻して、ポケットに入れた。

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