溺死

 俺は思わず立ち上がった。


「溺死って、どうやって? あいつはリビングで死んでたんですよ」


「ええ。他所から運ばれてきた形跡はありません」


「そしたら、どうやって?」


 刑事は腕組みをして返答を拒んだ。


「ところで、発見した当時のことですが、このテーブルと床のカーペットが濡れていたのには気づかれましたか?」


「いや。カーペットですか? 覚えてません」


「それでは、この壺について何か御存知ですか?」


 リビングのテーブルに置かれた、ひと抱えもある大きな壺は、赤ん坊くらいすっぽり入りそうだ。黒い釉薬が全体にかかっている。


「海外旅行の戦利品だと言ってました」


「戦利品?」


「功刀は格安の海外旅行が趣味だったんですよ。おかしなマーケットに行っては魔除けの鏡とか、呪いの人形だとか、妙なものばかり買い集めてましたね」


「なるほど。スピリチュアルがお好きだったと」


「ええ。これも『呪いの壺』だとか言ってましたね。決して水を満たしてはならないらしいですよ。ははっ」


「なぜですか」 能勢は真顔で訊き返す。


「そこまでは聞きませんでしたけど」


 能勢は上目遣いに俺を見た。


「実は、凶器の可能性がありましてね」

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