最終話 不良

 後に落ち着いた頃にもう一度、何があったのかを改めて聞いた。




 ・・・すけ・・・たす・・・て・・・・・・


 擦れた声が聞こえた方へとライトを向けても、そこには誰も居なかった。山への崖の斜面に、立派な木の根っこと積まれた石だけがそこにあった。それでも


 ・・・すけ・・・たす・・・て・・・・・・


 と聞こえてくる。すると少し上の方から


 ミシミシ・・・ギシギギギ・・・・・・

 助け、て・・・・・・


 木が軋めく音と共に、助けを乞う男の擦れ声。恐るおそる足元を照らし続けてきた懐中電灯の明かりを音と声のする上の方へと向けて見ると、そこにはまるで蝉のように木から見下ろしてくる男が、真っ赤な眼と凄い形相で三人を睨みつけていたのだった。




 それ以来、同じメンバー全員では集まることは自然と無くなり、Bと霊感少女は仲睦まじく付き合った。




その数十年後・・・・・・



 私はふと、ある動画を見た。それは故郷がA、Bと同じ県の芸人さんが、自分の過去の恐怖体験をさきららに語る特集動画です。



「僕、学生時代はやんちゃと言うか、ただ頭が悪いだけであまり良くない学校に行ってまして。回りはヤンキーが多かった時代の中、僕はイジられキャラと言いますか、ようはパシリ的な扱いでしてん」


「あぁ、当時はそんなって時代の話、よく聞きますねぇ」


「僕はビビりやし不良とかとは違いますけど、ほんま、悪い奴が多くてね。もう一人、僕と同じような舎弟的な奴、山下ってやつが居ましてね。そいつとようその同級生やった悪い奴らから逃げ回ってましたわぁ。で、ある日その悪どもが警察に追われてるって話をまた別の友達から噂で聞きまして、ちょっと本格的に巻き込まれんようにせなあかんなぁ、って二人で言ってて、当分その山下って子の家に隠れてたんです。僕ん家はとっくにそいつらにバレてたからね」


「ほぉ、それで?」


「そんで、学校もサボりながら一か月ぐらいしたかなぁ。もう大丈夫やろ?と。流石にもう捕まったか、逃げたかしてんちゃう?ってことで、夜、近くのコンビニに買い出しに行ったら、そこでバッタリ・・・出合わしてもぉてん!最悪やぁって、内心血の気が引くってこういうんやね」


「うわぁ、まだその悪友たちって警察に捕まったりしてなかったんですねぇ」


「そう!ほんまに・・・丁度・・・『おう!お前ら!何ずっと逃げてくれてんねん。まぁ丁度良かったわ。わしらもうここから逃げるとこやってな。ちょっと来いや』・・・って、ワゴン車に拉致られて二人とも攫われたんです」


「あ~、最悪の偶然ってやつですねぇ、ほんと大黒さん、ついてないですねぇ~」


「昔っからそやねんほんまに!・・・で、山の方、○○神社っていうとこがあってね、その裏の山って本当に誰もこない場所なんやけどそこまで連れられて、結構大きめの木、ご神木みたいな・・・確か川沿いのとこにあったんやけど、その『木ぃ登れ!』言われて」


「え?!なんでですか?」


「いや、多分、逃げてた腹いせとかやと思うんですけどね。で、僕もう逆らうのも恐いですやん。訳もわからんまま登って、太目の枝に跨って指示待ってると『手ぇ、後ろに回せ!』って言われて、したらその腕、後ろ手にロープで縛られて。で次、足も、びっしーって、きつく縛られて。で、次は山下も縛られんかなぁ思たら僕一人、そこに置き去りにされましてん」


「あ、え?」


「後で聞いたら山下も別の場所で同じことされてたらしいんですけど」


「ああ、そうなんですね。悪い奴らとグルだったっていう訳とかでは無かったのかぁ」


「そう。で、ずっと真っ暗闇の中、俺、ここで死ぬんかぁって。童貞のまま死にたくないーって思いで、ずっと『助けてくれぇ~!』って叫び続けましたよ。何時間も。そこは昔から僕らの地元では有名なですから、本当に誰もこない所なんです。喉もどんどんカラカラになってきてね。そうしたらと向こうの方からなんか明かりが見えてくるんです」


「あ!心霊スポットだから、誰か的に来たんですね?」


「そう!カップルが懐中電灯持って来るんです。助かったぁ~ってその時めっちゃ喜びましたよ。で、必死に『助けてくれ~!』って言うんですが、もう声が擦れてしもて全然声が出なくなってしまってて」


「あぁ~、また最悪!」


「必死に身体揺らして、カッスカスの声でなんとか『助けて~』って言ってたら向こうの女性の声で『なんか聞こえない?』って。よっしゃ~!って気持ちで。僕が縛られてる木の麓までやってきて、懐中電灯を上の僕方へと向けると、『「「「ギャアアァァァァァ!!!」」」』って、逃げてしもたんです」


「ははははは!あぁ、なるほど、だから、霊か何かだと思われたんですね?笑」


「そう!『待ってくれ~!』『助けてくれ~!』って叫ぶも、その思いも空しく・・・・・・」


「じゃぁその後、どうやって助かったんですか?」


「翌朝、神社の神主さんがたまたま川の方に見回りにきてくれて、それでなんとか助けられたんですぅ~」




・・・・・・




 私は何もコメントを入れず、その動画のURLをそっとAへと転送してあげました。




⇩NEXT 未定

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