第2話 虫の息

 男二人と女一人は、一つの懐中電灯を持って先が見えない石階段を上っていく。足元にしか照らせない明かりは、余計に周囲を深く、暗く、闇を落としていく。


「キャッ!!」


 猫のように小さく短めな咆哮を上げた女子の足元には、蝉が腹を見せながら横たわっていた。例のごとく、虫が苦手な女子はその歩みを止めて虫の息な存在から目を離せないでいた。


 バンッ!

 ジジジ・・・ジー・・・ジー・・・・・・


 Aが虫の息のを確認するために、蝉のすぐ横に四股を踏むかのように片足を踏み込んだ。蝉は正に虫の息だった。


 バタバタバタッ!ジー・・・ジジ・・・・・・


「キャァァ!いやぁぁ!!」


 本当に怖がり嫌がっているのだろう。その悲鳴はまるでおっさんように野太かった。

 蝉は最後の力を振り絞り羽をバタつかせて、階段の端へとまるでA達に道を譲るように通り道を開けてくれた。Cはすかさず女子を反対側へと促し

「今や!行こう!」


 二人は手を繋ぎ、Aを置いて少し先に上がる。



「川へはここの横、獣道から行くねん。よく子供の時に釣りに行ったから今でも覚えてるわぁ」


 Aが二人に追いついた場所のちょうど右手に、その獣道があった。左右に設置された手摺りを跨ぎ越え、そこに照らされた土道はまるで奈落への入口のように感じた。



 女子の歩む歩幅が、先ほどの蝉による窮鼠の抵抗からの怯えで小さくなったからだけではなく、三人ともがその足を重くしていた。途中、何度も光を求めた虫たちの奇襲の進撃を受けながらも、なんとか三人は川沿いへと辿り着く。



「・・・なんも無かったな。虫ばかりで」


「ちょっと、最悪なんだけど」


「もうちょっとだけこの川を下るか、上がるかしようぜ」


 Cは懐中電灯をAから奪い、返答を聞くまでもなく川をへと向かった。



 程なく、五分も歩かない内に

「・・・え?!何か聞こえへん?!」


「・・・・・・」


 女子が敏感に聞き耳を立てる。二人も息を潜め聴覚を集中させた。すると・・・・・・


 ・・・すけ・・・たす・・・て・・・・・・


 僅かに男性の苦しむ声が、確かに聞こえた。Cはその声の方向に明かりを向けると


「「「ギャアアァァァァァ!!!」」」


 三人は一目散にその場から逃げ出した。




 Bと、自称、霊感が強いという女子が残る車体へと、一番に到着したのは土地勘があるAだった。強引に二人が座っている後部座席に割って入り、息切れて汗だくで、Bは更に驚く。


「な?!どうしたんや?」


 Aは黙ったまま、残した二人を待ちわびるように外を見てなにも答えない。

 間もなくして、懐中電灯の明かりを上下させながら走ってくるCと、女子が無事に車の元へとやってきた。すぐさま凄い勢いで運転席と助手席に乗り込み、車をとっとと発進させた。その形相を見て、Bの隣で青ざめていた女子はまた泣き始める。


「ちょ、なんやねんお前ら。どうしてんって?!」


 Cは無心に車を走らせ、助手席の女子はひたすら背後とバックミラー、サイドミラーをチョックしている。仕方なく、Aが事情を話し出した。


「で、出た。出たよ・・・・・・」


「・・・マジで??・・・何が?」


「男の・・・声が聞こえた。で、そっちを見ると、が・・・助けを求めながら、こっちを見て・・・・・・」


 この時はAも、それが精いっぱいの説明だった。




⇩イメージ画像+先行謝罪

https://kakuyomu.jp/users/silvaration/news/16818093082971396851

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