第4話 気づきたくない本心
私はこの前精文館で買った小説を開いた。
買った当日は帰った時間が遅かったせいで、ゆっくり小説が読めないと思い今日に読むのを取っておいた。
「綺麗な表紙。」
私は思わず呟く。
表紙は満点の星空の下で、主人公と思われる女の子が涙を浮かべながらこちらに笑いかけているシーンが描かれていた。
感動系だろうな。と思い、私はページをめくった。
その小説の初めの文は、衝撃的なものだった。
ずっと死にたかった
そう書かれていた。それだけだった。
私は思わず息をするのを忘れて次のページをめくった。
君と出会うまで、私は人に愛される幸せを知らなかった。
君と出会うまで、私はご飯の美味しさを知らなかった。
君と出会うまで、誰かと一緒に行く海はあんなにも綺麗で美しいことを知らなかった。
君と出会うまで、私は生きることがこんなに素晴らしいことだと知らなかった。
なんだかすごい小説と出会ってしまった。
私は次のページをめくる手が止まらなかった。
人は何かあるとそれに影響される。その出来事に大きく心を動かされるほど、その影響は大きい。
私はまんまとあの小説に影響されてしまったみたいだ。
「星野…?なんかあった?」
私は宮口に声をかけられた。
「え?別になにもないよ。」
「そ、そう…?ならいいけど。なんか、元気ないよ、今日の星野。」
宮口、ごめんね多分私は昨日の小説に影響されたんだ。だけどこんなこと言ったらきっと宮口に笑われてしまうだろう。
私は心のどこかで、あの小説の主人公と同じ考え方をして毎日生活していたことに気づいた。
朝が来てしまった。
毎日家に帰るのが辛い。
なんで生きてるのか、たまに分からなくなる。
誰かを非難する気持ちが芽生えると同時に、その誰かに対して申し訳なくなる。そして、そんなことを考えてしまう自分が嫌いになる。
私は小説の中に出てきた文章に、共感を感じた。感じてしまった。
まさか自分がこんなネガティブなことを思っていたなんてびっくりだった。だが、なんとも言えない、言葉に出来ない感情を、あの小説が文章にしてくれたような気がして、私は自分を見つめ直すきっかけとなった。
「なんか、色々考えちゃったんだ。」
私は宮口にそう言い、すぐに別の話題を振った。きっとみんなはネガティブは望んでいない。そんなこと分かっている。だから苦しい。誰にも拾って貰えないこの感情を、私はどこへぶつければいいのか。
その日は記録的猛暑日だった。
私は昨日小説を読んだせいで、気づいたらもうとっくに日付を超えており、睡眠時間が大幅に短くなってしまった。
睡眠不足とは本当に悪循環で、お腹は減らないわ気持ちは悪くなるわ目眩はするわで、
私のその日の体調は最悪に不調だった。
「次の体育外だって。ほんとに頭おかしいんじゃない?うちの学校。絶対熱中症なるて。」
宮口がグチグチ言いながら体育の用具を持って私の席に来る。確かに、今日外で体育はだいぶきつい。
「種目なんだっけ、体育祭練習?」
「そう。星野は確か…男女混合リレー?」
「うん。気まずいやつね。」
「あぁ、ごめんて笑 キマズ!」
宮口は変な声で私を笑かせようとふざけてきた。私は思わず吹き出してしまう。宮口は本当に面白い。
「星野、今日元気ないから無理しないでね。」
面白いのに、おまけにこの観察力と優しさを持ち合わせている。
「ありがとう。」
今日は本当に頑張らないとまずいぞ。と思いながら、私は体操服をバックから取り出した。
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