第4話 家族会議

 屋敷に戻った俺には、もう一つ仕事が残ってた——母上についてだ。


 以前のエリザベトお嬢様だったら、まだこのまま亡くなった妹の振りをしていても構わないと思う。結構楽しんでたみたいだしな。


 だが、もう中身は辻坂陽になったんだ。もう元の世界には戻れないんだ。せめて性別が同じエトムントの姿になって男として生きたい。


 それに、母上にとっても、俺がこのままだと良くないだろう……



 卒業パーティーであったことを報告するため、家族全員が集まっていた時だ。


 王太子との婚約解消の報告をして、父上が「分かった」と了承した後、俺は家族に向かって宣言した。


「父上、母上、兄上。私は元の『エトムント』に戻ろうかと思います。今夜の騒動で『エリザベト』は傷心したため領地に療養しに行き、代わりに『エトムント』が王都に戻ってくるのです」


「あぁ……よくぞ、決断してくれた。お前はずっとこのままかと思っていたよ……」


 父上が一気に泣き崩れた。——うん、その気持ち、めっちゃ分かる。そりゃそうだよな。


「エリザベト、いや、エトムント。私はお前がどちらを選ぼうと、一生お前の味方だよ。お前があの時勇気を出してくれたおかげで、家族がバラバラにならずに済んだんだ。感謝してもしきれないよ」


 コンスタンティンも、涙声だった。——ごめん、エリザベトお嬢様は、女物に憧れてたし、心から楽しんでたんだ。別に犠牲になったわけじゃないんだよ……


「……母上……」


 俺は母上の方を向いた。


 母上も両手で顔を覆って、号泣していた。


「うっ、うぅっ……ごめんなさいね……私が弱いばかりに、あなたにばかり負担を……本当はもうエリザベトはいないということは分かっていたのよ……でも、エトムント、あなたに甘えていたわ……」


 久々に本名の「エトムント」と呼ばれ、俺の中のエリザベトお嬢様がキュンッと切なく震えた。


「良いのです。私はお母様が元気になってくださっただけで嬉しいのです。それに、私も楽しんでました。お母様と一緒にドレスを選んだり、観劇に行ったり、お茶会を開いたり……素敵な思い出ですわ」


 俺の口から、するりとエリザベトお嬢様の言葉が溢れた。不思議な感覚だった。


「ああぁあああっ……!!」


 母上はそのまま泣き崩れてしまった。


 父上も兄上も俺も、母上の背中をさすり、その日は一晩中家族みんなで涙を流した。



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