23 このおじさんに✕✕をやれと!?
──自分の限界に挑戦した。
女性の体重を米俵一個分(約六十キログラム)と想定しよう。
足を絡ませてしがみついてくれているとはいえ、持ち上げる筋力が相当に必要なわけで、さらに腰を動かさなければならないから、全身運動だ。
ただ腰を振っていればいいだけの話でもない。女性の良いところを探し当てる必要もある。言わずもがな、ただのピストン運動だったら痛いだけの抜き差しだ。
軽い持久走をするようなものだとよく言われている。
最後には、お姫様抱っこまでした。
繰り返すがここはTLの世界。どれだけ女性が興奮できるエッチを提供できるかに沽券が懸かっている。
TL書籍は普通に書店で買える。大人用コーナーの棚に陳列されているわけでもない。それどころかコミックやライトノベルの並びによく置いてある。……お気づきでしたでしょうか?
おれは忙しかったからネットで買っていたけれど、書店で表紙買いするのも醍醐味だ。
昨晩の情景だって、薄闇の中、ハンバーグの肉ダネの空気を抜きながら足ツボマットを「もう無理です」と喘ぎながら踏んでいるシルフィアさんと、そんなシルフィアさんを叱咤激励しつつ汗だくになりながらベッドの上で筋トレをしている騎士団長という絵面だったかもしれない。うん、きっとそうだ。
──とにかく、絶倫騎士団長としての本領を発揮した。
あと、これは個人的な意見だが、どんなに飲みたくてもエッチの直後にプロテインを飲むのはドン引かれるから彼女に一声かけてから飲んだ方が良いと思うし、そもそもその前に彼女にお水を持ってきてあげる気遣いが好感度を上げる秘訣だと思う。
思い出したがそういえば……シルフィアの元婚約者、気が短いなあ。おれの胸倉を掴んできたんだけれど、あいつは身長一七〇センチくらいしかないわけだ。一九〇センチの男に喧嘩を売るのは普通に心配になる。本当に後先を何も考えられないんだなあ。
おれは全部の発言を嫌味と皮肉にしたんだけれど、ちゃんと届いていたかなあ? それすらもわからない馬鹿野郎なのかなあ? もし通じていなかったらそれはそれで怖い。
手を出してきたやつに応戦したら正当防衛ではなく犯罪になってしまうし、一般市民をシメるわけにいかないし。いくら向こうからふっかけられても相手にはできなかった。積極的にしたいところだったけれど。
自分から捨てたシルフィアを未だに「お前」呼びして、親しげにしていたから何様だとは思う。
──次に喧嘩を売ってきたときは手加減はなしだ。
そんな馬鹿のことはどうでもいい。シルフィアさんの毅然とした態度に惚れてしまった。彼女に対してどんどん好きが増えていく。
思えば彼女は十八歳でおれは二十四。六歳差だ。おれは前世の年齢を足したら生きている年数はそれどころではない。文字通りのおじさんだ。そう、頑張って若作りはしているが、どうあがいてもおじさんなのである。
このラヴィエール王国は今のところ友好国に囲まれていて戦争は長らく起こっていない平和な国だ。だが、友好国の隣には軍事国家があり、よく友好国に圧力をかけていて、国境地帯では争いが起きている。
王太子になったら世界情勢にも対応しなければならない。一応、共通の公用語はあるが、国ごとに言語はある。幼いときから各国の言語を話せるように学んできたが……。
──このおじさんに竿役王太子をやれと!?
婚約破棄ものの王太子って、大体二十歳前後が多いし、弟のマクシミリアンも二十歳だし。この世界の成人年齢は十八歳だから、結婚が許されるのも十八歳。
特に王侯貴族ならば自由恋愛なんてほぼ叶わない世界なのだ。
そんなときに好みどストライクのシルフィアさんが現れてしまったら、欲望丸出しになってもいいからお付き合いしたかった。我ながら不純だと思う。不誠実だと思う。でもやっぱり、理不尽だと思うことは受け入れられない。【きらばら】の主人公アレクサンドラのためでもある。
本来のストーリー通りにアレクサンドラと結婚することも考えた。だが、初夜で歯を食いしばり我慢している女性を抱くなんて真似、おれにはできない。
本編が始まる前の段階で【きらばら】世界に転生したと気づいたのが幸運だった。対応策を練ることもできた。正直、原作の挿絵でアレクサンドラの姿は充分に知っている。美しい女性だと思う。アルベルトもそれはもう美丈夫だった。しかし、原作をそのままに再現しろというのは、だからこそ抵抗感がある。キャラクターをそのまま演じろと?
──将来がわかっている人生に何が楽しいのか。
そんなくだらない人生を送るために転生したつもりはない。
この間、アレクサンドラと会った。彼女と何を話したかというと、
──あんた、
──
結婚相手と推しとは区分が違うもんね。気持ちはわかるよ。
アレクサンドラ曰く。
『シルフィアは恋をしてお肌がツヤツヤに……どんどん美しくなっていくわ!
ああ、これ、絶対にシルフィアとの肉体関係もバレているな。シルフィアはどこまでも明け透けに喋っているのだろうか? ──女子怖い。
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