22 アルベルトは知っている
「あっ、ああっ! あぁああっ、んぅッ……!」
薄闇の室内にはベッドの軋む音、肉と肉のぶつかり合う淫らな水音、そして、それらを上書きするようなシルフィアの甘い嬌声だけが奏でられている。
とうに二人の交わるベッドのシーツは、どちらのものとすらもわからないほど混じり合ったそれで濡れそぼっていた。
「アルベルト、さまぁ……! も、無理、ですぅ……!」
「んー? 無理じゃないだろう? 好きなだけしていいって言ったのはきみなんだから」
だがアルベルトから返ってきたのは無慈悲な宣告。彼の首筋から汗がつたって、シルフィアの呼吸で激しく上下する柔らかな胸へと
「んぅうっ!? ……あ、んんっ! んっ、……はっ……んぅぅう!」
無理と言ったことへのお仕置きとばかり唇を塞がれてしまう。シルフィアは混乱に包まれながらも汗ばんだ手をアルベルトの広い背中へと伸ばして懸命に縋りつき、脳髄を灼き尽くすような快楽の嵐に翻弄されていた──。
◇
空が白み始めていた。
「もう!? アルベルト様!?」
叫びすぎたシルフィアの声は掠れ気味だ。
「いや、すまん」
アルベルトは謝りながら、シルフィアの滝の白糸にも似た亜麻色の髪を一房取ると指先で梳いた。
「確かに、今晩はめちゃくちゃにして、と言いましたけれども……!」
素っ裸でブランケットに潜り込んだままシルフィアはくぐもった声で呟いた。
「望みは叶えられたかな?」
アルベルトの方は疲れた様子もないのが恐ろしい。むしろ、一汗かいて清々しいくらいの顔をしている。
「叶えてもらいましたけれども……!」
やっぱりずるい、との思いがシルフィアの心の内に渦巻く。
「それはよかった」
アルベルトから額に優しくキスが降り注いできた。
行為のあと、二人で浴室に入り、アルベルトに手ずから身体を洗ってもらった。それをいいことに、いやらしいこともたくさんされた。
完全に足腰が立たなくなっていたシルフィアは姫抱きにされてベッドまで運んでもらった。
「眠たいだろう、一眠りするといい」
アルベルトにすっぽりと抱きかかえられて頭を撫でられていると、だんだんと
──シルフィアが目覚めると、太陽は高く昇っていて、もう朝というより昼の時間だ。
ふと、料理の香ばしい匂いが漂ってくる。急いで服を身につけてから、引き寄せられるようにしてキッチンへと向かった。
「おはよう。よく眠れたかな?」
キッチンに立っていたアルベルトが振り向いて、シルフィアに甘く微笑みかけた。
「おはようございます。アルベルト様は眠れましたか?」
「ああ。おかげですっきりとした目覚めさ。ちょうど朝食ができたから起こそうかと思ったけれど、いいタイミングだったな」
卵を二個使ったオムレツはつやつやとしてお月様を思わせる。
柔らかく煮込まれた赤レンズ豆のスープからはハーブのいい匂いがする。
そして昨日出かけたときに買ったパン。ちょうどパンを買ったあとにあの男に出くわしたのだと思い出してしまった。
パンにはたっぷりのバターと爽やかなアンズのジャムが塗られている。
他にもチーズやら、リンゴやらが食卓に並んでいった。
「昨日はとんでもないご迷惑をおかけしました」
「酒の席でも言っただろう? 気にしてないって。むしろ愉快な思いをさせてもらったから」
オムレツを匙ですくって口に運ぶと、しゅわりとほどけるような舌触りだった。
「美味しい……」
「うん、今日の出来はいい方だ」
アルベルトもオムレツを一口運んでうなずいた。
「ところでシルフィア、この間、アレクサンドラ嬢と話をする機会があった。本当に仲がいい親友なんだな?」
「アレクサンドラが……?」
シルフィアは緑色の目を丸くした。
「フェリクス宛にきみが見習い騎士になるための紹介状を書いたのは自分だと言っていた。きみの訓練は順調だと伝えたら安心して帰っていったよ」
アレクサンドラは王太子妃筆頭候補として、王城に自由に出入りすることができるのだ。たとえマクシミリアンと結婚することはなかろうと、彼女は次期王太子と結婚するのが確定しているのだと噂されている。
「アレクサンドラを守りたくて、騎士見習いになりたかったんです」
シルフィアは照れくさくなってアルベルトから視線を外した。まさか、アルベルトのそばにいたくて、それどころかアルベルトの気を引きたくて騎士見習いになりたかったという不純な動機は言えない。
「ふふっ。きみたちは素敵な友情で結ばれているんだな」
アルベルトはそんなシルフィアの内心には気づかなかったようで、ほっと安堵の息をついた。
「アレクサンドラの結婚式には絶対に出席するつもりなんです。その日は友人として出たいので、必ず非番にしてもらえますか?」
「ああ、それはもちろんだよ」
アルベルトはなぜか、
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