第24話 違和感ありすぎて、怒れない
止まった時が動き出した。
跪いていた犬の女性がすくっと立ち上がった。
そんでもって腰にある剣をスラリと……なんで抜くんですか?怖い。
あ、もしかして山根君似の神様との会話が聞こえていた?そうだよね?意味が分からないよね?
いつも自分の言いたいことだけ言って消えて、ちゃんと内容を教えてくれない。説明が説明になってない。
いや、分かっていたことが、分かったけどね。ふぇんりるさんの仕事を引き継げば、紗枝ちゃんを帰すことができる。
その確証を得ただけで、あとは無駄な会話だったよね?この世界の神様がゲームにハマっていて、ニートとか、そのゲームを進めたのが山根君似の神様だとか。本当に意味が分からないよね?
「――私の後ろに」
犬の女性が私とイケメン犬耳の男の子の前に立つと、崖の上から男どもが降って来た。
あ、私をさらった悪者たちだ。片目に傷があるボスもいる。
「ぐへへへ、こんなところに綺麗な姉ちゃんがいるじゃねーか」
「そこの犬は俺らのものなんだ、寄こしな。ついでに相手してもらおうか?きれいなねーちゃん」
「良いね~。こんなきれいなねーちゃんに相手してもらうなんて、最高だな」
悪者たちが口々にあり得ない言葉を言う。
犬の女性は低い声で、吐き捨てるように言葉を言った。
「下種め!」
うん、ちょっと待って欲しい。
あの悪者たち、本気で言っているの?
だって、だって考えてみて?この犬の女性は、身体は確かに人間っぽいけど、顔は犬だよ?まごうことなき犬ですよ?お尻からはふさふさの尻尾も出ているよ。私の方が立派だけど。
確かに、犬としては美犬だと思うけども!
ポメラニアンの私は、目がクリンとしていて、アイラインもしっかりと出ていて綺麗です。
目と鼻のバランスも二等辺三角形で良い。毛量も豊富。手足は短く、肉球の肉厚もあり、色は真っ黒。
トリマーさんにドッグショーに出ませんか?と言われたこともある美犬です。
そして、この犬の女性の顔も真っ白で美しいです。バランスも良いよね?犬種としてはアフガンハウンドかな?
頭からのびる白い毛も髪の毛みたいだよね?でも人じゃないって分かるでしょ?
いやいや、確かに人種差別?は良くない。それは私が一番嫌いな行為だ。
肌が白くても、黒くても、男性でも、女性でも、男性っぽい女性でも、女性っぽい男性でも、そこは個性。
マイノリティも受け入れて、企業は国際化の波に乗るべきだと常々思っていました。
国家間同士の争い、宗教間の争い、人は様々な理由で争うけれど、でも個人同士では仲良くなれると、友人になれると思って生きてました。
そう考えると、この犬の女性も人だと思うべき?悪者たちが下種な笑いをしながら、お姉さんを襲うとしているのを違和感なく受け入れるべき?いや、これがお姉さんの頭が犬じゃなければ、私だってあの悪者たちを酷いやつだとなじれるんだけど!!
「大丈夫、師匠は強いから、あんな男たちには負けねー」
イケメン犬耳の男の子が私を安心させようと声を掛けて来た。
うん、そこはね。なんとなく分かる。
あんな男たちが何人集まろうと犬のお姉さんの方が強いと言うことは、なぜか感覚で分かる。でもね、それとこれとは別なの!違和感が!違和感が半端ないの!
やっぱりおじさんに異世界転生は厳しい!これが山根君のような若者なら、ちゃんと受け入れただろうに。
あの悪者たちを相手に、普通に憤る事ができただろうに。
「兄貴、こいつら
「ああ、分かってる。何したって心が痛まない相手だ。この人類の敵め!」
人類の敵言われたのが辛いのか、イケメン犬耳の子の手が震えた。目は潤んでいる。
迫害されているのかな?そう言えば、犬のお姉さんもそんなことを言っていた。
情報量が多くてパンクしそうだ。犬の脳みそは小さいし、私はおじさんで記憶力が落ちているんだから、これ以上の情報提供は止めて欲しい。
「私が人類の敵だと言うなら、お前たちは女の敵。ここで成敗しておくのが良いだろう」
あ、犬のお姉さんかっこよい。
成敗……一度で良いから使ってみたいセリフだ。
子供の頃は良く時代劇を見ていたからね。
水戸黄門、遠山の金さん、銭形平次、ちょっとダークな必殺仕事人とかあったよね?勧善懲悪で分かり易かった。
「やっちまえ!」と、あ、本当にこれを言う人たちっているんだ……と定番の台詞と吐いて悪者たちが犬の女性を襲う。
犬の女性はきらりと光る剣で相手をする。
私をさらった悪者の背中にバシッと剣を当て、悪者あっさり気絶する。
私を檻に入れた悪者は、剣の柄で腹を殴られバタンキュー。
こんな人たちもいたんだね……という悪者たちも次々殴られ、打たれ、バッタバッタと倒れていく。
最期に残ったボスは剣を抜いたけど、お姉さんに蹴られて終わってしまった。
枕を用意してくれたね。ありがとう。ボス。
でもね。人のものを盗むのは罪だよ?それを売るのはもっと罪。
部下にかわいいものが好きだと素直に白状して、罪も償ってね。
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