第23話 その首元に噛みつきたい‼︎
「いた!なんでこんなとこにいるの⁉おじさん!︎」
来た!来たぞ‼︎山根君似の神様め!
噛みついてや――できない!
犬耳のイケメンが私の身体をがっつりホールドしてるから、動けない!
しかも――またもや時が止まってる!
手足をバタバタさせても、ピクリとも動かないじゃないか!
「なにやってんの?おじさん。かわいすぎかよ?かわいさアピールがエグいんだけど?」
かわいいのは当たり前!そこは自覚がある!元の容姿と違って今の私はかわいいんだから!
「ってかさ?もう眷族と会ってるとか、なかなかやるね。俺、おじさんを見直したよ」
けんぞくってなんだ?
文字変換すらできない!山根君に似てるだけあって、まったく意味不明だ!
「そんな場合じゃなかった!おじさんと一緒に女の子が来なかった?おじさんにご飯あげようとしてた子?もしかして、別々のところに飛ばされた?やべーんだよ!あの子が聖女の認定受けちゃって、同期が仕事さぼってることがばれそうなんだよ!」
紗枝ちゃんが
紗枝ちゃんは戸籍を得るために教会に行った。そしてそこで職業を得ると言っていた。
せいじょ、セイジョ、聖女?聖女か!
山根君に借りた漫画にいたな。聖女!
冤罪を着せられて国から放逐されて、良い人に拾われて自国を滅ぼしたり、清らかなふりをして、実は悪いこととしている人だった。
「もう~、同期のしりぬぐいをしようとしただけなのに~」
同期のしりぬぐい?どういうことだろう?神様なのに、同期がいるのか?
まてよ、そう言えばこの神様は車のローンが払えなくなるとか言っていたな。
神様なのに、人間みたいだと思ったんだ。
「私が攫われたので紗枝ちゃんとは離れ離れです!紗枝ちゃんをご両親の元に帰してください!」
「え?おじさん、攫われちゃったの?俺、おじさんにチート能力あげたんだから、ちゃんと使ってよ!」
「ちーと能力だかくれても、使用説明書がなければ分からないでしょ!」
「ステータスオープンって言った?」
「へ?すて??」
何を言ってるんだろう?すていたすを開く?意味が分からない。
「あー、もう!これだからおじさんは嫌なんだ!普通は、異世界転生したら、『やば?え?出なかったから恥ずかしいけど、言っちゃう?やっぱ鉄板だし、言うべきだよね?良し!言うぞ!ステータスオープン!おお、出てきた!やばー、なにこのチート能力!神様ありがとうございます!』ってなるはずなの!」
そんなのが普通のわけないだろう!
ああ、待て待てよ。そう言えば、山根君の常識は常識じゃなかった。この神様も同じか?
「うわ――出たよ。その気の毒な子を見る目……やめてくれる?俺が言ってるのは異世界転生の常識だから。おじさんが非常識なの!」
山根君似の神様にジトっとした目で見られると、なんだか私の常識がおかしい気がする。
「そんな場合じゃないです!紗枝ちゃんをご両親の元に帰してください!きっと今頃、誘拐だなんだと騒ぎになっているはずです」
「あ、そこは大丈夫。紗枝?のご両親の元には偽紗枝ちゃんを置いてるから。どうよ?アフターフォローも完璧!さすが俺!」
にせ紗枝ちゃんて何だろう……いや、深く考えてはいけない。話が進まない。騒ぎになっていないのだろうと推測しよう。
「じゃあ、いますぐその偽紗枝ちゃん?を本物と交換してください」
「いや、それ無理なのよ。俺は地球の神様で、この世界の神様じゃないから」
あ、出た!爆弾発言。それは聞いていないぞ!
「いや、ここね。俺の同期が見守る世界なんだよ。でもさ、同期は地球のゲームにハマって家から出てこなくなっちゃって。引きこもり?ニート?になったんだよね。まぁ、上司にばれてないから給料は出てるし、ニートとは違う
かもだけど」
ゲームにハマる神様ってなんだ?しかもそのせいでニート?いや、仕事(?)をしていないのに、給料が出る?神様の労働体制はどうなっているのだろうか。
「俺もね、悪かったとは思ってんの。真面目一辺倒だった同期に地球のゲームを進めたの俺だからさ。でもその結果、仕事もしないで引きこもるとか思わないじゃん?」
元凶はお前か!と叫びたい。なぜなら、ちっとも悪いと思ってないだろ?その顔!
「でもやっぱ少しは責任はあるよな~って思ったから、俺も同期の家に何度か行ったんだよ?でも全然会ってくれなくて、このままだとやべーな。って思っていた時に思い出したんだよ。この世界の強制イベ。大神の引継ぎ。それだけは冠婚葬祭じゃない限り出席が義務付けられているからさ、だからおじさんを異世界転生させたの?分かる?」
神様なのに、家?冠婚葬祭?私が想像する神様と違って、あまりにも俗物的だ。
そして強制イベってなんだろう?山根君は良く言葉を略していたから、これもそうかな。強制的にイベント?が起こる?そんな感じかな?
「俺はおじさんを送る権限しかないのよ。還すには同期の力が必要なの!」
「それは、分かりました。つまり私がふぇんりすさんから仕事を引き継げば良いわけですね?」
山根君似の神様の説明はグダグダと長かったが、ぷらねさんと同じ結果だった。
聞くだけ無駄とはこのことだ。
「そうそう、でもさ、紗枝ちゃんはこの世界の聖女に認定されちゃったんだよ。聖女ってさ、神と世界を繋ぐやべー存在でさ、本物はめったに現れないの!神界でも100年にひとりって存在なのに、選ばれちゃってさ!上司が『誰の世界で出現したんだ!探せ!』って興奮して手が付けられないんだよ!聖女を出現させた神は役付きになれるから、上司も自分の地位を奪われるんじゃって、躍起になってんだよね」
うん、どうやら山根君似の神様の上司も頼りがいはなさそうだな。部下の出世を祝えない人間はレベルが知れている。
「紗枝ちゃんも地球に戻れば、普通の女の子になるから、おじさんも早く仕事引き継いで、同期を呼び出してくれる?その時には俺も立ち会うからさ。そうすれば万事解決!一件落着!」
「いやいや、どうやって呼び出すんですか⁉」
「だから、ステータスオープンって言ってくれれば、それに全て載ってるから!やべ!課長が来た!またね。おじさん!良いね!ステータスオープンだからね!」
山根君似の神様はふわりと消える。
次こそは噛みつこう!
右手をひと嚙み!
左手をひと噛み!
最期に首をひと噛みだ!
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