第10話 ちーと能力を発揮したい
「わわわわ、どうしよう、どうしたら……山根君似の神様……は役に立たないから、その上司!あー、名前を聞いておくべきだった!」
焦ったってどうにもならない!
ここにいるのは幼児と私だけ。
今の私はポメラニアン。かわいさだけが取り柄のわんこ。
かわいいだけで1万良いね、もらったこともあるわんこ。
わんこに追いかけられて、お父さんの元へと一目散に逃げる臆病者の弱虫わんこ。
だけど、それでも、やらなきゃいけないこともある!
ぐるるっと威嚇する。
紗枝ちゃんを守るため、自分より大きな犬に立ち向かったこともある!
そもそも私は人間だ!神様からチーズだってもらってる!チーズじゃなくてチート!食べ物もらっても仕方がないでしょうが!!
パニックになりながらも敵を見る。紗枝ちゃんは眠っている。どうやら私が作ったバリアは頑丈で、外の騒ぎも聞こえないようだ。
ぎゃっぎゃっと言って威嚇する敵は怖い。正直怖いに決まっている。こん棒を振り回しているし、目つきはイっちゃっている。振り回すのは良識にして欲しいし、行くなら温泉に決まってる!
ああ、私は何を言っているんだろう。落ち着け大河原敏行、52歳!これまでの経験を絞り出せ!
とは言えど話し合いは通じないだろう。土下座はできない――だって犬だし。いや、したって無意味だ。
だってあいつら、私を食べるって言ってるから!食べがいがありそうって言ってるから!言っとくけど、この体はほとんど毛で身は少ししかないからね!
いやいやもう一度、落ち着け――大河原敏行、52歳。紗枝ちゃんを残して死ぬわけにはいかない。山根君似の神様に頼んで紗枝ちゃんを帰す必要がある!
山根君――そうだ、山根君を思いだせ!
彼は異世界に詳しい。彼がむやみやたらに貸してきた漫画を思い出せ!彼とのコミュニケーションの為に、私は頑張って読んだじゃないか!
こういう場合、確か魔法を使って撃退するんだ!主人公たちが技名を言ってたじゃないか!
『技名を言ったら、何を使うか敵にばれちゃうんじゃうんじゃないかい?』って山根君に言ったら、『技名言わないとカッコ良くないっすよ』て言っていたじゃないか!いや、違う!会話を思い出すんじゃない!いま必要なのは技名だ!
確かそのままじゃないかと思ったんだ!英語に詳しくない私でも分かる英語だって思ったんだ!
なんで素直に火の玉って言わないんだろうと言ったら、『日本語じゃかっこ悪いっす』って山根君が言っていただろう!だったらアメリカ人が読む場合はフリガナを日本語にするんだろうかと……悩んだだけでそこは山根君には言わなかったって、違う!どうして年を取ると、鮮明に昔のことを思い出すのか!走馬灯か⁉じゃなくて、技名を言うんだ!えっと、火の玉だから、ファイヤーって、こんな草原で火の玉って!火事!思いっきり火事になる!!私は馬鹿なのか!ああ、なんだかここに来てから、思考が人間並みになってきてる!地球で犬をやってるときには、ここまで考えられなかったのに――!じゃなくて!!
「
恥ずかしい!と思いながら叫ぶと、目の前に大きな……これなんだ?あ!魔法陣ってやつだ!が現れた。山根君から借りた漫画とは少し、いやかなり違う。
私の目の前に現れた魔法陣は円形で、縁に文字が書かれている。『かぜのまほうだよ』。
そして中央には大きく一文字『刃』。
うん、思いっきり日本語。間違いなく日本語。英語を使う必要があったのだろうか。おじさんは恥ずかしい。
その魔法陣(?)から、ブーメランみたいな形の刃がバスバスと発射される。
と言うか、多くないか?ランボーがマシンガンを撃ってるような勢いじゃないか。
山根君はランボーを知らなかった。画像を見せたら『なんでタンクトップなんっすか?』って聞かれた。それは私にも分からない。
とにもかくにも、おそらく私が放ったであろう風の刃に、おそらくゴブリンであろう魔物(?)は駒切りにされた。
「うわぁ~ぁぁぁあ」
死体を残さないように、やはり火にすれば良かったのだろうか……そう思ってももう遅い。
緑色の草原は赤く染まり、内臓をぶちまけたゴブリンを見て吐き気を催した私は、山根君似の神様の噛む場所を、1か所から2か所へ増やすことにした。
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