観察する日々

島尾

ドッピオ

 仕事終わりに俺はほぼ100%タリーズに行く。


 タリーズとは、チェーンのカフェの一つである。ロゴはコーヒー豆の形をした楕円の内部に縦縞模様。朱色と緑だ。


 俺が注文する品を列記する。

・エスプレッソ、ダブル(ドッピオ)

・モカマキアートのホット

・宇治抹茶ラテ

・マンゴータンゴスワークル

・本日のコーヒー、ホット

・ソイラテ


 椅子に座って飲み物を飲みながら俳句を詠む。または本を読む。俳句については、仕事に関すること(職場の人に関することがら、自分に起こったことの喜怒哀楽の表現)、周りにいるかわいい女の子または薬の話でマウント合戦し始めるオバサンまたは無言でコーヒーを飲むハゲ頭などの「作品になる人」の一瞬を切り取ること、そして自分が注文した飲料自体の見た目を過去の自分の経験と結びつけることを主として詠む。本については、今はマルサスの人口論、1ヶ月前は寂聴のエッセイ集を読んでいて、古風なものを読みたくなる。漫画やラノベはタリーズで読むには煩わしい。


 タリーズを含むカフェには、かわいい女の子(客、店員)が多い。彼女らの全員が彼氏持ちと仮定してもさほど違和感がないと感じる。よってここでその仮定を採用した上で、一つの巨大な疑問を抱くに至る。すなわち、かわいい彼女たちは普段どんなセックスをしているのか。きっと彼女らの中に、彼氏に大量の臭い尿(それは自分のものかもしれないし、彼氏自身のものかもしれない)を飲ませる等の「ドS女王様」が1,2%潜んでいはしまいかと勘繰りながら、店内の椅子に密かに静座している。このように感じるのは、仕事場の上司にあたる人が完全にドS女であって、いかなる部下、いかなる管理職員に対しても口調がガチの女王様である。この人とまともに関わることは私にとって死を意味する。しかし、このドSをものともしない「無限のドM」と表すべき部下がたった一人いる。彼はいつも彼女に叱られているが、一回も傷ついたことがないし一回も屈したことがないし必ず「激怒の津波」を空から見て平平としている。真の強者、といえよう。そういうことがあるので、タリーズでおしゃれにマンゴータンゴスワークルを飲んだりシックにエスプレッソダブル(ドッピオ)を飲んだりしている淑女が、実は家では3mの長さの大鞭を振って彼氏の背中や尻、あるいは(想像したくないが)股間に強烈な叱咤の衝撃を浴びせている可能性がありはしまいかと想像をめぐらせるのである。


 注文をして商品を待つとき、「ランプの前でお待ちください」と促される場合がよくある。そのランプは黄、または青である。上部はガラスまたはプラスチックと思われる、光が透過する材料である。下部の笠も基板材料は同じだろう。しかし、乳のようなものが内側に塗布されて光の透過率は大きく下がる。この色合いは骨灰こっぱいという白磁の材料を混ぜて作る“ぎょく”と呼ばれる乳白色のガラスを使っているからこそ表現できるのかもしれない。


 タリーズの悪い点は、商品の価格が高いことだ。私だけでなく、職員A氏も同様の不満を垂らしておられた。しかし、むやみに値を下げて汚らしい客が押し寄せても困る。どのような価格設定が妥当なのか悩みどころである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

観察する日々 島尾 @shimaoshimao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ