8. 運動の事情

「はあ……はぁ……はあっ……っ」


 卵型の装置の中、いつもの赤い運動着で私はいつものアクションゲームに興じていた。全身から汗が流れているが、運動着はほどよく身体から汗を吸い上げてくれていた。


 今まで使っていなかった自分が愚かだったと過去の自分を笑ってやりたい気分にさえなる。


「今日ももう少しできそうか……」


 いつもプレイしているゲームは、全身をよく使うために運動効率が良いゲームであり、昔から多くの人に愛されたゲームでシリーズ化もされていて飽きが来ないことが何より魅力的だった。


 AIが自動的にステージやストーリーを生成してくれて、いくつかのミッションをクリアするために走ったり跳ねたり敵を倒したりととにかく要素が多い。


 アクションゲームなのでストーリーが少し物足りないが、要所で始まるイベントは十分な見応えがあるし、シリーズを通して登場するNPCやCPUと呼ばれるキャラクターたちも魅力的で、何より私の話をよく聞いてストーリー進行してくれる。


「ここは……こっちから進んでみるか。ちょっとあそこが気になるからな」


 マルチエンディングとも言われているが、予め用意された複数パターンを攻略するのではなく、私の選択に対して、AIが自動的にストーリーを作ってくれる。


 つまり、理屈上、プレイヤーの数だけエンディングが存在することになる。それもすべて本人にとってハッピーエンドだ。ここまで来れば、インフィニットエンディング、アンリミテッドエンディングと呼ばれても不思議ではない。


「ここら辺でセーブしておくか……」


 スポーツゲームやランゲーム、ロールプレイングゲームは、ハマる人はハマる、とAIが言っていた。ただ、私には少し合わなかったようで、途中で飽きてしまった。


 ランゲームはただただ走るだけなので、足が重点的に鍛えられる特化型で、何度か試しにやってみたが、正直あまり私に響かなかった。


 スポーツゲームはルールを覚えていなければならない。その上、スポーツによっては待ち時間があって、待ち時間が休憩時間としてカウントされるため、運動量に加算されずに時間効率が悪かった。


 ロールプレイングゲームは、うーん、ストーリーの長いものが多すぎた。相手の話を聞く時間だとスポーツゲーム同様待ち時間、つまり、休憩時間としてカウントされるのである。私は効率良く運動を進めたいので、何本かは興味が湧いてクリアしてみたものの、いつものゲームに勝てる作品がなかった。


「ふぅ……」


 正直、歳をとってからというものの、かつてほど運動ができなくなっている気がする。もちろん、歳の割に筋肉量があるらしいので、今すぐ懸念することはないが、それでも徐々に衰えていく自分に少しだけ恐怖を覚える。


 生活スコアはまだ大丈夫だが、いつか私は生活スコアの最低許容点を下回るのだろう。


 AIに聞いてみたら、最低許容点以下になると、生産性が低下していると判断され、処分される可能性が高まるとのことだ。もちろん、仕事の内容なども関係してくるため、すぐに判断されることはない。


「処分か……がんばってきたが、それを考える歳になってきたか」


 処分されると、これまでの私の記録が全てアーカイブとして残るらしい。次代の子どもへの教育に活用されるらしく、とても名誉なことなのだと思う。だが、すぐに処分されてしまっては、教育の観点からあまり活用されないアーカイブになる可能性がある。


「よし、がんばるか」


 最後の最後まで生活スコアと生産性を高めて生きていかなければならないと思った。

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