目玉焼き思想犯

春雷

第1話

 街には監視カメラ。曇天模様の空に、ドローンが四六時中飛んでいて、我々の行動を注視している。いつから、こんな徹底した管理社会になってしまったのか。我々は思想さえも管理されている。

 私の名前はジョン・カビル。通称ジョンカビ。以前はボンジョビを好んで聴いていたが、現在の体制になってからは、ボンジョビを聴くことを禁止されている。どこでどう調査したのか不明だが、ボンジョビのジョン・ボンジョビは目玉焼きにソースをかけて食べるらしい。ゆえに、ボンジョビを聴くことは規制された。

 そう、目玉焼き。

 それが、現代の管理社会における重要なキーワードだ。

 目玉焼きに何をかけるか、ということが徹底的に管理されているのだ。目玉焼きに醤油をかけることが絶対とされている社会であり、ソース派である我々は迫害されている。


 はじまりは居酒屋での、些細な争いであったという。

 居酒屋にいた客同士で、目玉焼きに何をかけるか、というありきたりな議論が始まった。平和な話題だったが、次第に議論が白熱し、とうとう殴り合いにまで発展した。居酒屋はメチャクチャな喧嘩の場となり、とうとう街全体を巻き込んだ抗争にまで事態が大きくなってしまった。

 そこから目玉焼きに何をかけるか、という問題が注目されるようになり、各地で衝突が起こり、分断が起こった。

 その中で多数派を占めていた醤油派が、勢力を拡大。政権を乗っ取り、国の憲法、法律を塗り替え、徹底した管理社会を築き上げたのだ。

 塩派は醤油派が勢力を拡大している中で、中立の立場を取り、争いから身を引いた。ソース派と、その他の派閥は結託し、現在も抵抗を続けている。

 俺は、目玉焼きにはソースをかける派だ。誰が何と言おうと、この信念だけは曲げられない。

 ダダダダ、ダダ、ダダダダ、という銃声が鳴り響く。醤油派とソース派が争っているのだ。彼らは小さなカラーボールを銃弾として用いている。カラーボールが身体についてしまうと、それを洗い落とすために家に帰らなければならないため、敵を撤退させることができるのだ。お互いに痛い思いをすることは避けたいので、このような銃撃戦になった。俺は注射の痛みすら耐えられない。

 しかし、このような抵抗をいくら続けたところで、ジリ貧だ。

 状況を打開する策を講じなければならない。が、監視体制が万全で、仲間と合流することも、連絡を取ることもできない。

 いったい、どうすれば・・・。

 その時、銃撃戦の只中に、光が差した。


 彼はボサボサの長髪で、ボロ切れを纏っているのにも関わらず、神々しく見えた。彼の頭上だけ雲が切れ、光が差していた。

 彼は我々に向かって、こう言った。

「目玉焼きには、マヨネーズをかけたらええやん」

 その場にいた全員に衝撃が走った。目玉焼きに、マヨネーズ・・・・、だと?

 頭がキリキリと痛み、身体中が痙攣を起こした。腰を抜かし、立てなくなった。目からは涙が流れ、口から泡を吹いた。彼の言葉が頭の中で反響していた。

 マヨネーズをかけたら、ええやん、ええやん、ええやん、ええやんやん、ええややんやんややん、やんややんやんやんやん・・・。

 その場にいた者はみな、彼に跪き、両手を合わせた。これこそが事態を打開する最善の策だったのだな。

 我々はマヨネーズのカリスマにひれ伏した。

 こうして長きに渡る、目玉焼き大戦が終結し、我々は目玉焼きにマヨネーズをかけて食べるようになったのである。

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目玉焼き思想犯 春雷 @syunrai3333

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