勇者来訪! 其の六(彼方よりきたりて外伝)

「――で、勇者としての判断は?」

 三人だけになったサロンの中、リゲルは少し厳しい顔でアルファを見ている。……今のアルファに笑顔は一切なかった。

「今のところは問題ない。……仮に出てくるとしたら数年後かな。二人の子どもが出来た時」

「……え?」

 その言葉にアリアの表情が固くなる。ちらりとそれを見やってからアルファは話を続けた。

「そもそも誰もおかしいと思わなかったのか? 魔王の力を手に入れておきながらあの程度の力しか持ってない事。弱かったとはいえ魔族だぞ? 人間のシリウスよりも魔力の影響を受けるはずなのに毛の生えた程度の向上しかないなんて有り得ない」

「……それは……そうですけど……」

「これはオレの勘だけど、あの子は『器』みたいなもんだと思う」

 アリアは詰まり気味に声をもらすが、アルファは続きを待たずに自己の考えを述べる。

「おそらく魔王の力を手に入れる前もそれなりに力はあったはずだ。でなきゃ好きな姿に変化出来る訳がない。ただ……持っている魔力を自分と繋げて使用するのに制限があるんだと思う」

「……どういう事だ?」

 いまいち話している内容が理解出来なかったリゲルが口を挟み、それに対してアルファは「うーん」と少し唸った。


「……えっとな、これも勘だけど。まずひとつ目。あの子は内側に魔力を入れておく容器を持ってると考えたら判りやすいか。ただその容器は基本密閉されてるから中身を外には出せないんだ。……変化みたいに内側で使用するような魔法は使えるけど、魅了みたいな外に働きかける魔法は使えない」

「…………」

 指を一本立てて話すアルファにリゲルとアリアは顔を見合わせて――そのまま言葉の続きを待つ。アルファは二人が何も言わないのを確認してから口を開いた。

「ふたつ目、魔王の力を手に入れた事で容器に入りきらない魔力が一部外に溢れている。僅かに能力が向上したのは溢れてきた魔力を活用しているから。あの子自体はその程度だけど……内側で育てる子どもとかだと、がっつり魔王の力の影響を受けそう。何か起こるとしたら数年後っていうのはソレ」

 アルファはそこで一度言葉を切り、小さく息をついた。


「現状で言えるのはこのくらいか。質問ある?」

「……エルナトへの対処について意見があれば聞きたい」

 リゲルが口元に手を当てながら顔を上げれば、アルファはようやく表情を緩めて笑う。

「今は特にないかな。現状維持なら問題はないし。……まぁ、後々を考えたら対策しとかないといけない事はあるけど、それもすぐの話じゃないから。何かあればベテル王に進言するし、リゲル王子は心配しなくても……」

「…………」

 へらっと笑うアルファに対してリゲルは黙ったまま視線を向ける。それを受けたアルファの笑みが一瞬消え……しかしすぐに少し目を細めて笑った。

「……っていう訳にもいかないか! シリウスも絡む事だもんな。判った、何かあれば先にリゲル王子に言いに来るわ」

「……助かる」

「気にすんな」

 そう言ってリゲルの肩を軽く叩いた後、今度はアリアの方を向く。

「その時はアリア様にもちゃんと声かけるからそんな顔しなさんな。仲間はずれにはしないさ。……蚊帳の外に置いて、何かあった時に邪魔されるのが一番困るからな」

「…………」

 その言葉にアリアの目が若干鋭くなったが、何か話す事はなく視線を逸らす。


 ……僅かな沈黙の後。

(判りやすいなぁ、この二人)

 アルファは顔に出さず、そんな事を思いながら内で苦笑した。

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