勇者来訪! 其の五(彼方よりきたりて外伝)

「まぁでもそうか、他者から吸血してないなら 魅了チャームが使えなくても問題ないのか。なるほどな」

 うんうん、と頷いた後でアルファ様はポンと両手を合わせる。

「大体判った。質問は以上! 嘘をついてる感じもしないし、とりあえず現状は大丈夫そうだな!」

 そう言って明るい笑顔を向けてくるアルファ様。……自分で言うのも何だけど、本当の事を言っているとは限らないのにボクの話をあっさり信じるのか。疑ってたんじゃなかったのか。


 そんな事を考えていたら横にいたシリウスが「大丈夫ですよ」と声をかけてきた。

「この人、基本直感で生きてる脳筋なので。勘は鋭いから嘘もすぐ見抜くし、大丈夫って判断したなら問題ないです。……とりあえず、っていうのが少し引っ掛かりますけど」

 シリウスは目を細め、対面の相手をちらりと見やる。視線を向けられたアルファ様は相変わらず笑顔で楽しそうに笑った。

「逆にシリィがちょっと注意度上がってるからな。リゲル王子や家族だけじゃなくてその子に何かあっても暴れそうだし。こっちも大変だから程々にしてくれよー」

「はは、そちらが余計な事をしなければ大丈夫ですよ」

 若干眉をハの字型に下げて笑うアルファ様の言葉にシリウスは笑顔を返すけれど圧が強い。

「そこはまぁお互いに気をつけるという事で。二人はもう良いよ。後はリゲル王子達と話すからさ」

「……判りました」

 ボクの返事を聞いた後、アルファ様は入口へ向かってから勢いよくドアを開けた。


「リゲル王子にアリア様、待たせたな! 次は君らに話を聞くから入ってくれ!」

「判った」

 短い返事が聞こえ、リゲル様とアリア様が中に入ってくる。

「長引くかもしれないからシリウスは先に帰っていいぞ」

「あ、エルナトさんも帰って頂いて大丈夫です」

 ボクとシリウスにそれぞれ声をかけてくる二人の横、アルファ様は「ほらほら」と言いながらボク達をサロンの外に押し出す。

「それじゃシリィ達、またな! 結婚式の日取りが決まったら早目に教えてくれよ? 日程調整もあるから」

「はは。招待されると思ってるのが不思議で仕方ないですよ」

「じゃ、今日はお疲れ!」

 冷ややかに発せられたシリウスの言葉を全く気にせず、アルファ様はそのままドアを閉めた。


「……すごい人だったな……」

「…………疲れました」

 最後まで勢いのすごかったアルファ様への感想を口にすれば、シリウスは心底疲れ切ったように大きなため息をつく。

「……昔からの知り合いみたいだが、ずっとあんな感じか?」

「そうですね。こっちが何を言っても都合の良い解釈しかしないし、終始テンションも高いので会った後は疲れと呆れしか残りません」

「はは……」

 呆れをたっぷり含んだ物言いに苦笑いが漏れる。……嫌いっていうか苦手なんだろうな、アルファ様の事。何となくそんな印象を受けながら、ボクはシリウスの背中を軽く叩いた。


「少し時間もあるしお茶飲んでから帰ろうか。学院近くのカフェでマロンフェアやってるらしいぞ」

「あ、いいですね。甘い物食べたいんで行きましょう」

 二つ返事で了承してきたシリウスの態度に少し笑って。ゆっくりと二人で校門に向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る