勇者来訪! 其の四(彼方よりきたりて外伝)

「さて!」

 アリア様とリゲル王子が出て行ってからアルファ様は近くにあった椅子を引き寄せて腰掛ける。

「そんじゃ二人とも座って話そう。まずはそうだなー、エルナトから話を聞こうか。うーむ…………とりあえずエルゥで良いか?」

「張り倒しますよ」

「……呼び捨てでお願いします」

 隣から絶対零度の空気を感じつつ、椅子に座りながらそう言えば、アルファ様は「駄目かー」と残念そうな顔をした。……というか、何でシリウスはここまであからさまに嫌悪感を出してるんだろう……?

 普段あまりこういった感情を表に出さないから余計に気になった。


「シリィは相変わらず嫌悪感むき出しだなー。あれから何年も経ってるんだからいい加減そろそろ軟化してくれても良いんじゃないか?」

 けらけら笑いながらアルファ様がシリウスの方を見る。一方、その相手は小さく「ハッ」と笑った。

「初対面の時の事はともかく、うざったい態度を取っている限りは何も変わりませんよ」

「……一体何が……?」

 思わず疑問を口にすれば、シリウスが少し困ったような表情をこちらに向け、アルファ様はけらけら笑いながら口を開く。


「いやな! 初めて会った時はシリィについてあまりいい話を聞かなかったものだからオレ、出会い頭に襲撃した訳! ただその時すでにリゲル王子の指南をシリィは受けてたから返り討ちに遭っちゃってさぁ」

「え……」

 笑いながらさらっと話す内容に唖然とする。……やっぱりこの人変かも。

「……まぁ、最初の印象から最悪でして……その後も鬱陶しい態度で軽々しく絡んでくるので、はっきり言って会いたくないレベルで嫌なんです」

 ジト目でアルファ様を見つつ言葉を続けたシリウスに対し、視線を向けられたアルファ様は変わらずけらけら笑っていた。

「本人を前にしてそれを言っちゃうシリィも相当だがな、ハハ!」

「うるさいですよ能天気勇者。その名称で呼ぶなって何回も言わせないでもらえます?」

 シリウスは一貫して冷ややかな表情を崩さない。……あの態度で絡まれるだけが理由じゃない気もするけど……。


「まぁそれはいいや」

「良くないんですけど」

 ケロッとした態度にシリウスがイラっとした表情をみせるが、アルファ様は全く気にした様子もなくボクに向き直った。

「まずは魔王の力を手に入れる前の状態を教えてもらおうか」

「……あ、はい」

 その言葉にボクは少し思い返しながら口を開く。


「力を手に入れる前は弱すぎて眷属もいませんでしたし……出来たのは変化と魔法くらいです」

「化けていたカイトスは性別とか除いて見た目あまり変わらなかったと聞いているけど、実際はどのくらいまで変化できた? 人型でも全然違う見た目に出来たのか、動物とか形そのものが違う生物になれたのか、とかさ」

「人型であれば全く違う体型でもやろうと思えば出来ました。動物はやったことがないので判りません」

「……なるほどね。じゃあ次は力を手に入れた後に出来るようになった事を教えてくれ」

 ひとつ答えればすぐに次の質問が飛んでくる。……答える度に、何か見抜かれるような感じがした。

「出来るようになったのは……眷属を従える事と眷属の召喚、基本資質の向上です」

「他は?」

「……ありません」

「…………」

 これまでずっと何か話していたアルファ様が口を閉じてジッとボクを見た。

 ……正直言って魔王の力を手に入れても出来る事は少なかった。それでも普通のヴァンパイアが当たり前に出来る事が出来るようになっただけでも、ボクにとっては充分な結果ではある。


「……判った、次。自分の中にある魔王の力は把握出来てるか?」

「はい」

 しばらくしてからようやく次の質問が飛ぶ。短く言葉を返せば「ふむ」とひと言呟いてからシリウスの方へ目を向けた。

「シリィから見て、これまでの彼女の回答で補足はあるか?」

「……いえ、特には。あえて付け足すなら、ヴァンパイアが獲物を引き寄せる時に使うらしい 魅了チャームもエルナトさんは使えませんでしたね」

 首を横に振ったシリウスに対し、アルファ様は意外そうな顔をしてこちらに視線を戻す。

「そうなのか?」

「……はい」

「魔王の力を手に入れた後でも?」

「術式は判りますが、上手く発動出来なくて……」

「…………ふぅん」

 口に手を当て、僅かに俯いて考え込む仕草を見せたが、アルファ様はすぐに顔を上げた。


「…… 食事吸血はどうしていたんだ?」

「基本は人間と同じ食事をしていて……どうしようもなくなったら自分の血で誤魔化してました」

「自分の!?」

 ギョッとした表情で目を見開くアルファ様。……そんな反応をされる気はしていた。

「へー。まさか自給自足してるとは思わなかった。よくそれでやってこれたな、君」

「まぁ何とか出来ていたので……あ、ただ。シリウスから魔王の力をもらった時と、その後別で一回……計二回はシリウスの血を飲んでいます」

「それは知ってるから大丈夫。シリィ以外から飲んでないのが判ったから良いよ。しかし君は面白い子だなぁ。自給自足するヴァンパイアとか初めて会ったわー」

 アルファ様はパタパタと右手を振りながらけらけら笑っている。先程まであった緊張の空気が少しだけ和らいだ気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る